第29話 メイドは王子の予想を破壊する。
お待たせしました。
ああくそ、いったい何なのだ!?
正直勇者の顔を見ると熱くなるし、お腹の中は勇者のが溜まっていてまだ妙な感じがするし、薬が収まってきたからか股は痛い。
自分が自分でないような感覚を感じつつ、我は向かいに座る勇者へと語り掛ける。
「と、とりあえずだ。これからどうするかを話し合うぞ!!」
「それは分かったけど……どんなことを話し合うんだ?」
「そうだな。ではまず初めに、今回スコーピオを雇ったものが誰かということだが……犯人は分かりきっている」
「誰って……あ」
犯人、十中八九トゥモロだろう。というかアンタレスも認めていたのだからな。
そう思っていると勇者もようやく気づいたのか間抜けな声を上げた。
そして現在、奴の仕事は一流なのだからきっと王城では馬鹿王子は勇者の死と……捕獲した我を待っていることだろう。
それを勇者に告げると、馬鹿正直な奴は……。
「だったら、俺たちが殺されかけたってことをあいつら、国王たちが居る前で……言えば良いんじゃないのか?」
「馬鹿か貴様は? 我らが殺されかけました。暗殺者を雇ったのはそこにいる馬鹿です。と言っても奴が認めなければ終わりだろう」
「それもそうだな……」
「しかも、これをネタに貴様をどうにかして我を捕まえるなんてことも出来るのだからな奴は」
そうだ。暗殺者を如何にかしたとしてもあの馬鹿王子トゥモロは我のことを諦めないだろう。
ならばどうするべきか、それが問題だ。
というかもしかすると連れて来るのを失敗したけれど、勇者に毒を打ち込んだから死ぬのは時間の問題だと考えて……数日中までに王城からの遣いでも来て我を城に連れて行く可能性だってある。
「国から逃げる、というのは癪だろうし……悪いことをしてないのに逃げるのは嫌だな」
「ティアちゃんの力だったら、こんなことをしないように無理矢理脅すことが出来るんじゃないのか?」
「……貴様は我をどんな目で見ているのだ?」
勇者の言葉に我はジト目で返す。
それに正直……アンタレスと戦って我は理解した。我は強いと言えば強い、だが達人にはまだまだ及ばないのだ。
だからあの馬鹿王子を力で無理矢理脅したりしたとしても、我を止めるために出てきた相手が達人クラスばかりだったら呆気なく倒されるだろう。
しかもその後は、犯罪奴隷とかにされてしまうのが関の山だ。
最悪囲われる可能性だってある。
「何か良い手は無いだろうか……」
「思い付かないな……」
「いや、貴様の思い付きには期待していないからな」
「そ、そうですかー……」
顎に手を当てながら言う勇者にスパッと言うと奴は見るからに落ち込んだ。
心の中でウィッシュが、ひどいよてぃあーと言っているが奴に知的な考えが出来るわけがないだろう。
出来るとしても奇抜な考えぐらいしかない。
そう考えながら勇者を見ていると、我はあることを思いついた。
「……だがそれはうまく行くだろうか……」
「何か思いついたのか?」
「思いついた。だが勧めることが出来るものかと聞かれたら、分からんとしか言えん」
「それでもこの状況を打開……出来るんだよな? だったら、俺にできることはなんだってするよ」
そう言いながら勇者は真剣に我を見る。
その視線に体が熱くなるのを感じ、勇者から視線を逸らす。
というか、なんだかこいつがキラキラして見えるようになっているし……な、何故だ!?
まるで母が父が格好良く見えると言っていたような感じではないか!!
『ますたぁ、かっこいいよねー?』
『うっ、そ……そんなわけない……と思う』
『でもきのうの夜は――『う、うわーうわー、黙れ黙れ!!』』
心の中から語りかけて来るウィッシュの言葉を我は掻き消す。
正直昨晩のことは忘れたい。
あれは薬のせいなのだ。薬のせいでアレほどのことを……うぅぅ。
乱れに乱れきった自身の姿を思い出し、先程よりも顔が熱くなるのを感じた。
ああくそ、本当なんでいきなりこんな感じになってしまったのだ我はっ!?
「えっと、ティアちゃん? 具合、悪いのか?」
「わひゃあっ!?」
今までと違う何かにモヤモヤとしていると、具合が悪いように見えたらしく心配そうにしながら勇者が手を額に近づけてきた。
ぴたり、と額に手が当たった瞬間――我の口から妙な声が出た。
その洩れ出た声に勇者も驚いているのかぽかんとした表情を浮かべている。
「え、今の声って……」
「わ、忘れろ! 忘れろ、勇者よ!」
「でも……」
「わ・す・れ・ろ・!」
「あ、はい……」
勇者にも衝撃的過ぎたようで我の妙な様子を心配そうにしていたが、本気で忘れるように言っているのに気づいたのか何も言わなくなっていた。
ふう、これで一安心。
「それで……貴様にできることなら何だってするんだよな?」
「あ、ああ、そう……だけど、俺は何をすれば良いんだ?」
「そうだな、とりあえず――――死んでくれるか?」
「…………え?」
我のその言葉に、勇者は……ぽかんと間抜けな顔をしていた。
まあ、その表情は無視する。何故ならば勇者は死ぬのだからな。
――その日、勇者ブレイブは眠るように死んだのだった。
●
かつてヴァルゴ王国国王ホープと王妃ライクと共に邪悪なる破壊神を討伐した勇者ブレイブの死――。
久しぶりにかつての勇者の名を聞いた者は驚き、彼の落ちぶれた様を知ってる者は納得しつつも過去の栄光を持つ彼の冥福を祈った。
そんな者たちの中で、喜ぶ者も少なからず居た。
「はははっ、やった。これでティアは自由だ! 待っててねティア、もうすぐ僕が迎えに行ってあげるよ!!」
そう、今代の勇者でありヴァルゴ王国の王子トゥモロだ。
奴は勇者ブレイブが死んだことを喜ぶと同時に予想通り使いの者を勇者ブレイブが住んでいた村へと送る。
その目的は彼に仕えていたメイドを呼び付けることだった。
きっと彼女は今は邪魔な主人が居なくなって、助けてくれた自分を待ってくれている。そうに決まっている!
そう考えながら、トゥモロは笑みを浮かべる……が、勇者の死を報せに来て、すぐに村に行くように知らせた使いの者は一歩も動こうとしない。
「おいどうした? 速く僕のティアを迎えに行ってくれないかな!? 彼女はきっと首を長くして待ってくれているんだからさあ!!」
「い、いえ、それが……」
「行きたくないっていうのかい?」
「い、いえ! それがティア様はもう……城に来ていて」
「何だって!? それを先に言ってくれないかな!! さあ、すぐに連れていってくれ!!」
何故か言い辛そうにする使いの者の言葉を聞き、トゥモロは満面の笑みを浮かべ案内を求める。
そんなトゥモロに使いの者は何も言えないまま彼をティアの元へと案内する。
……するのだが、
「おい、何故謁見の間に連れて行くんだ?」
「ですから、ティア様は今……そちらに居られます」
「? わけが分からないな、何故謁見の間に……そうか、僕との結婚の許可を貰いに来たんだね!!」
……こいつはいったい何を言ってるんだろうか。
そんなことを使いの者は思っているが、口には出さない。不敬になるのだから。
だから使いの者は止めること無く、トゥモロが意気揚々と謁見の間の扉を開けるのを黙って見ていた。
「ティア、ようやく来てくれたんだね!! …………え?」
扉を開けたトゥモロは唖然とした。
何故なら、謁見の間にはティアが居た。そして国王である父と王妃である母も居た。
そして、部屋の中央には棺桶が置かれていた。
その棺桶に縋るようにして母が泣き崩れており、ティアはそんな彼女に声をかけずに静かに佇んでいた。
「これは、いったい……どういうことだ?」
……その光景にトゥモロは首を傾げることしか出来なかった。
デレ期到来(笑
ここ最近暑くて頭が痛いですね……。
私は吐き気頭痛首の痛みに悩まされております。