第28話 勇者は混乱を破壊する?
お待たせしました。
ちょっとエロ系表現があるかも知れません。
突然目の前が真っ暗になった。
何が起きたのか分からない。けれど、体がフワフワしているのに泥のように重く感じられ、寒いのに燃えるように熱かった。
息が苦しい、胸が潰れるように苦しい。熱い寒い、ガタガタと体が震えるのに体が熱い。
そんな中で……数年前に死んだ両親が遠くから手招きするのが見えた。
もしかしてこれは死の淵の体験……というものかと考えてしまうが、きっとそうなのだろう。
……つまり、俺は死んだのか。もしくは死にかけているのか?
いったい何があったのだろうか、分からない。
わからないけど……、このまま死んだら……ティアちゃんは怒るだろうな。
それとも……泣いてくれるのか? いや、それはないよな。
そう思いつつ、俺は目を閉じ……どうにもならないであろう、自身の死を受け入れる。
すると死を受け入れた瞬間、感じている感覚はより激しくなり俺という存在を消そうと張り切り始めた。
死ぬって受け入れたんだから、少しぐらい優しくしてほしいな……。
そんな風に思う俺だったが、想像だから仕方ないのだろう。
そう思っていると受け入れていたはずの死を覆すかのように、突如暗い世界から引きずり出すように手が引っ張られた。
何が起きた? そう思うよりも先に、死を受け入れようとしてた俺の頭がまるで霧が晴れたかのように死にたくないと思い始めていた。
もしかすると、死を受け入れる考えは誰かから押し付けられていたのか?
多分正解だろうと思っていると、手が引っ張られ前に進むように指示するように感じられた。
そっちに行け、っていうことか?
まるで肯定するようにグイグイと手が引っ張られる。それに導かれるように俺は歩き始め……段々と速度が速くなり何時しか走り始めていた。
前に、前に進む度に熱かった体が寒かった体が重かった体が元に戻って行くのが分かる。
けれど死は俺を逃がそうとしないのか、追いかけてくる。
だけど俺を引く手は止まらない、諦めない。
必死さと、甘く心地良い香りが鼻に届く……俺を引っぱっているのって、もしかして…………。
そう思った瞬間、何かを通り抜ける感覚があり、直後世界が光に満ちていき……俺は目を覚ました。
「んっ、んん……、ここは……ベッド、か……? ――うっ!?」
見慣れた天井、それが俺の家の天井で……今寝ているのはベッドであることに気づいた。
そして、ベッドや家中から強烈な臭いがしたために口から呻き声が洩れる。
しかもその臭いは嗅ぎ慣れた男の臭い……なのだから。具体的に言うと精液のにおいだ。
その強烈な臭いがベッドの中から、室内中から漂い、寝返りを打とうとする俺の下半身にヌルリとした感触がする様子からきっとタライをひっくり返したようなくらいの精液が……。
い、いったい何があったんだ? 困惑していると、ようやくベッドに寝ているのは俺だけでないことに気づいた。
恐る恐る首を動かし、そちらを見ると……ティアちゃんが眠っていた。
え、なに、どう言うこと? いったいなにがあったの?
混乱する俺だったが、分かるわけが無い。今分かるのは、隣で眠るティアちゃんが裸だということだけだ。
まさかウィッシュがまた勝手に動いて何かしたのか?
というか、外に出ようとしてたはずなのにいったいどうして……?
「んっ……ぁ……♥ っふ……ぅ……」
混乱していた俺の耳元で、ティアちゃんの寝息が聞こえる。
その寝息は今までの物と違い何処か艶を感じさせられた。
だからか、朝に興奮し易いちょっとムスコが硬くなり始めるが……落ち着け、落ち着け。
必死に冷静になりつつ、どうするかを考える。だが一人では浮かぶことがない。
「……仕方ない、ティ、ティアちゃん。ティアちゃーん?」
「ん、ぅ……、ゆう、しゃ……? もう、すこし……ねかせ……ぐぅ……」
体を起こし、優しく眠るティアちゃんの肩を揺らしながら声をかけたけれど、ティアちゃんは薄く目を開けて俺を見た……がすぐに眠りについた。
なんというか物凄く疲れているようだった。
起こすのが心苦しく思うのだが、聞かなくちゃいけないことだから起こすしかなかった。
「ティアちゃん、起きて。頼むから起きてくれないか?」
「ぅ……ん……、ゆぅしゃぁ……うるしゃぃぞぉ………………むぅ?」
もう一度、今度は体を起こさせてから肩を揺すり、声をかけるとティアちゃんは返事を返しつつまたウトウトと眠りにつこうとする……が、ボーッとした様子で俺を見る。
そして、しばらくボーッと俺を見ていたティアちゃんの頭が少し回り始めてきているのか、俺の支えが無くても体を起こすことが出来ていた。
けれどまだ完全に起きていないのか、やっぱりボーッとしながら俺を見ていたが……俺は視線を彼女から逸らす。裸なのだから仕方ないだろう?
そう思っているとティアちゃんは倒れるようにして俺の胸に収まると、腕を背中に回してきた。
「え、えっ!? ティ、ティアちゃん?」
「……すこし、こうさせろ」
「え……あ、はい……」
戸惑う俺に静かにティアちゃんが言い、俺は何も出来ないまま固まった。
ティアちゃんの肌の温かさと柔らかさ、それと彼女の香りにドキドキとし……胸の鼓動が早くなっている気がする。
そんな俺の音を聞いているかのように……ティアちゃんは静かに目を閉じていた。
●
「…………てぃあー、そろそろますたぁとおはなししようよー」
「「っっ!!?」」
ティアちゃんの口を通してウィッシュが語りかけ、その声にビクリと俺たちは震える。
そしてティアちゃんは弾かれたかのように俺の背中に回していた腕を広げると、距離を取った。
そのときの彼女の表情は、顔を真っ赤にしてまるで普通の少女のように見えた。
「あ、ぅ……その……な、何をやっているんだ我は!!」
「えっと、その……なんか、ごめん……」
「き……気にするな。とりあえず、処理と着替えをするから……少し後ろを向いていろ」
「わ、わかった」
何の処理か、と聞くと怒られそうな気がしたためティアちゃんの言うように俺は後ろを見る。
すると彼女はごそごそと何かをし始めているのが聞こえるが、何をしているのだろうか?
気になって後ろをチラリと見ると、濡れた手拭いで体を拭いているのが見えた。
黒く長い髪がサラサラとしていて、引き締まった体には目立った傷が無くなっていた。
このまま見ていてはいけないと思い、すぐに後ろを向き直り……しばらくして彼女の許可をもらって振り変えると何時ものメイド服ではなくティアちゃんは動き易い格好をしていた。
「すまなかったな勇者よ。もう大丈夫だ」
「あ、ああ……。その、いったい何があったんだ?」
「そうだな、貴様は倒れてから目覚めるまで何も覚えていないだろうから教えておくべきだろうな」
そう言ってティアちゃんは椅子に座るように促し、言われるがままに俺は彼女と向き合うように椅子に座った。
それを見てからティアちゃんは開口一番――、
「貴様は毒で死にかけた」
と言ってきた。
え、毒? 毒って……え? どういうこと?
混乱する俺を見ていたティアちゃんだったが、一本の細い針を取り出しながら尋ねてきた。
「貴様は昨日首のほうに痛みが無かったか?」
「え? あ、ああ、何かちくりと痛みがした気が……」
「それだな。これは貴様を死に導こうとした毒だ。まあ、もう効果は無いがな」
「これが……」
「この毒を受けた者は知らず知らずに体を毒に蝕まれ、気づいた頃にはもう手遅れで意識を失ったまま、高い熱を出しながら死に至るというものだ。ちなみに特効薬など無いし、魔法も効果は無い」
そうティアちゃんが言うと、俺はあのとき意識を失ったことを思い出す。
あの時点で危なかったのか……。
危険だったということを知って、背筋が寒くなるのだが……あることに気づく。
「あれ? それじゃあ何で俺は助かったんだ?」
「う…………」
そうだ。死ぬことが確定してしまっているなら何で俺は助かったんだろうか?
そのことをティアちゃんに尋ねた瞬間、彼女は俺から視線を逸らし……頬を赤く染めた。
え、何この反応? 何か凄く言いづらそうな感じにしか見えないんだけど?!
「その……だな、貴様は知っているのだろう? 我の祖父がノウムだということを」
「ラストさんから聞いたから知ってるけど……」
「では、祖父の目標としていた薬のことは?」
「肉体の本能を高めてどんな毒も打ち消……まさか」
ティアちゃんの言葉でようやく気づいた、ノウムさんは最終目的の薬を創ることが出来たのだということに。
そしてティアちゃんも同じ薬を作ることが出来るということにも……。
でも、それじゃあこの有様はいったいどういうことなんだろうか?
そう思いながら、未だ雄臭い臭いがこびり付いている室内を見るとティアちゃんは口を開いた。
「祖父の作り出した薬の名は『禁断の果実』と言って、男女でないと効果が無い薬だ」
「禁断の果実……、って男女でないと?」
「そうだ。強力な薬なのだが、飲んだ者同士の性交を行うことで……その、効果を発揮するのだ」
「…………え?」
「男の場合は体内の毒を精液ごと吐き出させ、女の場合は男の精液が薬となって毒を解毒させるというものだ」
頬を赤らめながらティアちゃんは言う。
その言葉に俺は頭が真っ白となる。
……え、せ、性交? 誰と誰が? 俺と、ティアちゃんがした……ってことか?
そう考えないとこの状況の説明はつかないだろう。
「お、俺はなんてことをををををぉぉぉぉぉ…………!!」
「……気にするな。我は貴様に死なれるほうがイヤだったのだからな」
頭を抱える俺にティアちゃんは言うけれど、俺は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
ああ、穴があったら入りたい!!
そう思いながらうんうん唸っていると、ティアちゃんがついにプッツンしてしまったらしく――、
「うべっ!? ふぃ、ふぃふぁひゃん?」
「ええい、悩むよりも先に助かったことを喜べ! 薬を飲んで貴様に初めてを捧げたのは我だ。だから悩むな!
そ、それに……貴様との行為は、嫌では……なかったのだからな」
「え――――」
パンと両手で顔を挟みティアちゃんが怒鳴りつけ、処女だったことを暴露したが気にしていないから悩むなという。
普通に悩むよ! 心からそう思っていると、彼女は頬染めつつぽそりと言った。
本人は聞こえないように言ったのだろうが、バッチリと聞こえてしまっていた。
嫌じゃなかった。そう言われ、俺は顔が熱くなるのを感じた……事実真っ赤になっているかも知れない。
そんな俺の様子から、ティアちゃんも聞こえていたことに気づいたようで顔を真っ赤にしていく。
「と、とりあえずだ。これからどうするかを話し合うぞ!!」
そう言って、ティアちゃんは無理矢理話題を変えたのだった。
知らず知らずのデレ期到来?




