4
そして、身体測定当日。
男子生徒は三時間目と四時間目を使って既に測定を終えている。
そのため後は帰宅するだけなのだが、秤と活生の二人は食堂の一つであるカフェテラスで昼食を取っていた。
現在、アアル学院は異様な空気に包まれている。
まるで女生徒のありとあらゆる情念が具現化して、島全体を覆っているかのようだ。
どんよりとした晴天がとてつもなく不気味に見える。
そんな感想を抱いているのは秤だけではなく。
「怖ぇぇ……」
活生が身震いして空を見上げる。
「月一で味わってるのにまだ慣れないんだな」
「自然災害に慣れる奴なんているか?」
「今の俺ならその比喩が大げさじゃないって分かる」
秤は今日の雰囲気と鍋を囲んだときの失言を思い出して苦笑いを浮かべた。
二度と同じ失態は犯すまい。
「もしかして、あの台詞を言っちまったのか」
「ああ。説教された」
「そうか……。まあ、男なら誰でも通る道だからな」
アアル島の住人でも、男子生徒はそれほど体重を気にしている様子は見られない。
きっと活生も過去に身体測定を軽視した発言をして、咎められた経験があるのだ。
「誰に怒られたんだよ。例のパートナーか?」
「プラス、楓と焔に」
「…………羨ましいぞ畜生め」
「そうか? ……そうか」
改めて秤は自分の環境を省みる。
女子寮に男子が住んでいるというだけで、青少年からしてみれば夢のような世界を思い浮かべるのは当たり前だ。
実際は夢と現実の違いを思い知らされることになるのだが、それを知らない活生には何を言っても馬の耳に念仏だろう。
「そういえばお前、最近風夢乗ってないけど大丈夫なのか? 三日後のレースでまた疾風とぶつかるんだろ。しかも今度はあのスピカとも」
「風夢は勝つために預けてるんだけどな……。活生はスピカって子のこと知ってるのか?」
「校長の娘にして、去年の疾風のライバル。疾風が高校に上がったから二人の戦いはしばらくおあずけになるはずだったんだが、まさかの飛び級で俺達と同級生になってな。そういう意味で滅茶苦茶有名だよ。つーか、お前のパートナーの方が知ってるんじゃないか? 同じ飛び級生徒だし」
「それが教えてくれないんだよな」
ベッドの上にあった写真を見せて聞いてみたが、華は「知らない人」とだけ言ってそれっきり何も話してくれなかった。
一緒に写真を撮っておいて知らない人と断ずるところを見るに、何かしらの事情がありそうだ。
「後俺が知ってることと言えば、去年の月一レースで毎回疾風とデッドヒートを繰り広げてたってことくらいだな。確か短距離と中距離が得意だったはず」
「今日の身体測定で精根尽き果ててくれるといいんだけど」
「ははっ。充分あり得るな、それ」
このときの二人の会話が原因なのか定かではないが、女生徒達がいる『身体測定会場』では、今正に戦いの火ぶたが切って落とされようとしていた。




