Parallel 欲しいのは一つだけ ビリー争奪戦 英語部編
高校3年のある夏休みの週末。皆の休みが揃ったこの日に、ちいの家で宿題合宿を開くことになりました。
皆もお目当ては、ちいが自分の子供の様に可愛がっている、黒猫のビリー。
動物好きなメンバーは何とかいじりたいのですが…ビリーは誰を選ぶ?
「おいで…」
「こんなむさい男嫌よねぇ…」
「ちい、ちょっ、それ酷くない?」
「酷くない。白いから腕の毛が目立って嫌なの。知ってるでしょう?毛深い男苦手なの!!」
「そうか、そこまで言うか。少しは乙女の恥じらいと言うのがないのか?」
「一番最低なのは水着姿って言われたいと。それ以前にお前とは二度とプール行かないし」
「ちい…そこは健ちゃんのトラウマだし」
「健…帰ってこい…ビリー、煮干しあげるからおいで」
ある夏休みの週末。部活の皆が我が家にやってきた。
夏休みは基本的に一人で、幼馴染がお泊まりに来るって言ったら、俺らも合宿だ!!となって今に至る。
とりあえず、一日一回は理事長がうちに顔を見せるって事でオッケーになったけど、今回の被害者はビリー。
ただでさえ、酷い人見知りの子なのに、可哀想に部屋の片隅でブルブルと震えている。
このビビりで小心者の性格から私がビリーと呼んでいる事は皆に教えていない。
皆はてっきりビリー・ジョエルから引っ張ったのだろう位にしか思ってない。
で、皆がビリーを構いたくて呼んでいるだけども、当の本人はカーテンの隅に隠れたつもりでいる。
可愛いよ…ビリー…でもそこからは皆から丸見えなんだ。残念。
「呼んでくる子じゃないわよ。仕方ないな。ビリー抱っこする?」
私はビリーの側によって、両手を広げる。私がそうしたことに安心したビリーは私の膝に上って胸元で落ち着いた。
その姿は、赤ん坊が横抱きにされているのと同じだ。
腕からずれた長い尻尾がしなやかにパタパタと動いてる。
「にゃーん、にゃっ、にゃあ」
必死になって私に訴えるビリーに思わず苦笑い。ビリーにしてみたら、何?この人間は?だろうなぁ。
「ビリー、私の友達よ。とも君は平気でしょう?仲よくしてあげて?」
私がビリーに教え込もうとすると、一瞬だけ空気が凍った気がした。
「広瀬くんには懐いているの?」
「何?それずるくない?」
「ビリーはとも君好きだもんね?」
私がビリーに問いかけると、小さくにゃと鳴いて更に尻尾をはためかす。
そういえば、ともくんはバスケ部の合宿に行っていて今は避暑地にいるはずだ。
私の腕からビリーはスルリと下りて、自分の宝物のネズミのおもちゃを持ってきた。
それは、ビリーと遊びたくてとも君が持ち込んだもの。
ごめんね、とも君は後2日したら帰ってくるから。そうしたら一杯遊ぼうね。
「ビリーそれを持ってきてもとも君はいないよ。後2日経ったら帰ってくるよ」
ビリーは分かったのかどうか分からないけど、玩具をちょいちょいといじり始めた。
「やっぱり、なんだかんだ言っても猫だよね」
「…猫じゃなければ何?」
「猫又?」
「ちょっと、うちの子を妖し扱いしないでよ」
暫くすると、玄関の扉の前にちょこんと座ってしまった。
「ちい、アレは何?」
「うーん、とも君が来ると思ってるみたい。皆から学校の匂いがしたんじゃないかな?」
「意外に忠実。犬なら良かったのにね」
「何言ってるの。この子、毎日5時半に起こしてくれるわよ」
「アッキー、聞いたか?ちいの猫借りて帰るか?」
「いいよ。うちの弟たちが何かしでかすからさ」
「ありえるよね。じゃあ、明日6時に起こしてってお願いしてみる?」
「それでもいいけど、今回の合宿の趣旨は何でしたか?」
「皆の苦手分野の克服…です」
「健ちゃんの化学はまなが見てくれるし、太一の世界史は健ちゃんでしょ?」
「アッキーの生物は?」
「私が見る。それでいいよね?」
「うん、ちいは文系生物トップだもの」
「ちいは?何を勉強するんだ?」
「私?専門学校の推薦取れたから、小論文を少々程度なの。もちろん、夏休みの宿題は全部終わったわよ」
今回の合宿は、夏休みの宿題の消化が目的だ。たまたま皆の予備校の夏期講習のスケジュールが開いたのがこの週末3日間だ。
一応、予備校のテキストと学校の宿題を持ちこんでいる。
そうなると、一人だけ理系のまなが不利になっちゃうんだけども、予備校で忠君と同じ講座を受けていると聞いたから予備校のノートをコピーは貰ってある。
「まなは、忠君のノートのコピーでいいの?あるけど」
「十分。同じ教科なんだけども、私前半クラス取らなかったから」
まなは助かるって言いながら、コピーの束を広げていく。化学2科目と数学2科目分だからかなりの量がある。
「…で、皆は学校の宿題は終わったの?」
「えっと…英語が手つかず…です」
「私は数学やってない」
聞いてみると、太一が世界史で私が数学で他の皆は英語が手つかずだと言う。
3年の今年は、どの問題も受験問題からの抜粋だから解いていくだけでもかなり手こずる。
私は、予備校には通っているけど、英語とセンター数学だけなので皆と違って焦燥感はない。
学校の授業の足しになれば程度で皆と同じ時期に通っているだけだ。
「ちいの英語ってハイレベル英語だもんな。今度テキスト貸して」
「うん、いいよ。とりあえず、秋の英検で準一級受からないとね」
「そっか…。面接で落ちたんだっけ?」
「うん、だから今度は英検講座のある塾に2学期から通うの」
「専門学校を受験するのにあったら便利な資格は受けてるの?」
「とりあえず、ワープロ検定と秘書検定は受かったよ」
「本当に専門学校にするんだな」
「うん、そっちにターゲット絞って学校を決めた位だし」
「先生達が納得するんだかどうなんだが?」
「とりあえず、専門学校の説明会にこないだ行ってきたの。面白かったよ」
「そっか。それなら大丈夫そうだな」
私達は、自然とグループを組み始めて勉強を始めている。
私は仕方ないから、数学を消化することに決めた。
学年順位では悪くはないだろうけど、どんどん苦手になっていく。
センター数学って授業のはずなのに、どうして課題の過去問は理科大なんだろう?
やっぱり先生が理科大出身だからなのだろうか?課題提出の時に聞いてみよう。
「にゃーん」
体が少し冷えたビリーが私にすり寄る。正座をしていた私は足を崩して胡坐をかいてその隙間にすっぽりとビリーが入り込む。
「お勉強だから邪魔しないでね」
私がビリーに言うと、ビリーはくうくうと眠りだした。頼られてしまったのだから仕方ない。
気がついたら、そんなビリーを覗きに皆が私を囲みだした。
「やっぱり、触らせてくれないな」
「言ったとおりでしょう?この子はフレンドリーな子じゃないもの」
「本当にね。そんなに泣かないしね」
「だから、頼られたら率先してお世話するのよ。悲しいけれども」
私はシャーペンをローテーブルに置いて、右手をそっとビリーの上に乗せる。
トクントクンと少しだけ人より早い鼓動が少しだけ私を癒してくれる。
「ちいも、ビリーと一緒になって少しだけ穏やかになったよね」
「そりゃ、保護者ですから。そこはよっちゃんに感謝しないと」
私はビリーを連れてきてくれたよっちゃんへの感謝を口にする。
「あぁ、高専にいるっていう、はとこ君ね」
「うん。まなは朝一緒だから良く知ってるよね」
「元気な男の子よね。その説明が一番いいね」
「そういえば、太田君は?文化祭と言うと彼だよな」
今度は創君の名前を出してきた。
「創君は、受験勉強必死になってるよ。法学部目指しているから」
「それは大変だな。外語大ならどこでもって俺とは大違い」
「俺だって、じいちゃんの不動産会社継ぐから経営学部でいい…だもんな」
健ちゃんと太一はそう呟くと、同時に溜め息をついた。
「推薦取れるんだったら、夏休み明けの実力テストが重要でしょう?頑張ろうよ」
私達は、教育学部志望のアッキー以外は指定校推薦を取りたい方向で進路を進めている。
「そうでした。まなは理工学部だろ?どこ狙ってるんだ?」
「私ね、一般推薦で関西に行くつもり。直也先輩とか有也先輩と連絡取ってて楽しそうだから」
なお君だと京都で勇也君だと大阪になる。近いけどターニングポイントになるのは必至だ。
「そっか。一般でも評定は足りているのか?」
「もちろん。最初からそこを狙っていたから完璧だと思う」
「太一は…どこにするの?」
「ぶっちゃけ、うちの母体でもいいんだ。一人くらいは入学した方がいいし。母体の経営学部だと俺の実家から近いし」
太一は珍しく現実的な事を口にする。うちの学校の母体は一応大学はある。
優先入学制度もあるけれども、行きたがる生徒はほとんどいない。スポーツ推薦ルートの生徒位だろうか。
「今期の生徒会長が行くとなると…あっちは好都合だろうな。それでもいいのか?」
「あぁ。俺、我がまま言わせて貰って高校を親父の所にしたんだから」
太一は実家から離れて寮に入った経緯をきちんと聞いたことはなかったけど、理事長と過ごしたかったのか。
今は見た感じ、いい関係だけどもかつては大変だったんだろうな。
「健ちゃんの外語大は問題ないでしょう。何語にするかが問題で」
「…だよなぁ。英語は競争率高そうだし、フランス語かスペイン語かなぁ…きっと」
「そっか。健ちゃんは英会話できるんだから大丈夫だって」
「皆…バラバラだね。私千葉大じゃなければ、ちいの専門学校に行くかも」
「あそこ…女子校だよ?いいの?」
「うん、一度位は行きたいじゃない?それに母体が女子大だからね」
私が志望しているのは女子大が母体の専門学校だ。先生も女子大から来ているそうなのでレベルも高い授業だろう。
「とりあえず、早く進路決めて、アッキーをサポートしないとな」
「うん。皆現役合格目指そうよ」
私達は西日に照らされる部屋の中、課題に集中するのだった。
おまけ ビリーの主張
どうして?今日はいつもいるあいつがいないのさ?
あいつはちゃんと僕を構ってくれるからちいの側にいることを認めてやるけど。
でも、今日のちいはあいつの側にいるときとちょっと違った。
なんでなんだろう?でもちいの膝を一人占めしたんだからラッキー。
あいつも好きだけども、一番はちいだもん。
ビリーの設定は、とにかく、怖がりで人見知り。
パニック起こすとカーテンの隅でぶるぶる震えております。
抱っことおんぶが好きで、ちいの背中に張り付いていたりしています。
当の本人は自分もいつかは人間になれると思っているかもしれません。




