第72話 始祖の心臓
第72話 始祖の心臓
「俺の中に……第七の遺産がある?」
レインは自分の胸を押さえた。
さっきまで感じていた鼓動が、今もはっきりと響いている。
ドクン。
ドクン。
レオンがレインを見る。
「お前、大丈夫か?」
「ああ……でも、この力が何なのか分からない。」
エレナがレインの胸に手をかざす。
黄金の光が広がる。
しかし――。
「……これは普通の魔力じゃない。」
エレナの表情が険しくなる。
「光なのに、どこか闇を感じる。」
アズールも近づく。
「俺の青い炎でも、この力には触れられない。」
そのとき、魔導書が突然開いた。
ページには新しい文字が浮かび上がっていた。
『第七の遺産――始祖の心臓』
『継承者、レイン』
レインは息をのんだ。
「やっぱり……俺なのか。」
⸻
すると、神殿の奥から声が聞こえた。
『違う。』
全員が振り返る。
そこには、白い光に包まれた老人の姿があった。
「誰だ?」
レインが剣を構える。
老人は穏やかに答えた。
『私は、始祖の記憶。』
『そして、お前たちが探している七つの遺産を作った者の記憶だ。』
レインは目を見開く。
「最初の継承者……。」
老人は頷いた。
『そうだ。』
『七つの遺産は、私の力を七つに分けたもの。』
『だが、最後の一つだけは分けることができなかった。』
「それが……始祖の心臓?」
『そうだ。』
老人がレインを見る。
『始祖の心臓は、力ではない。』
『意志そのものだ。』
⸻
レインの胸が再び強く脈打つ。
すると、頭の中に映像が流れ込んできた。
古代の世界。
巨大な黒い竜。
そして、七つの光。
その中心に立っていたのは、一人の少年だった。
少年は自分の胸に手を当てる。
そして、自らの心臓を取り出した。
「……!」
リリアが息をのむ。
少年はその心臓を七つの光へ分けようとする。
しかし、最後の瞬間――。
黒い闇が少年を包み込んだ。
『終焉の力は、完全に消すことができなかった。』
『だから私は、自分の心臓に封じた。』
『そして、その心臓を未来の継承者へ託した。』
映像が消える。
レインは呆然と立っていた。
「じゃあ……俺は、ずっとその力を受け継いでいたのか。」
老人は答えた。
『違う。』
『お前が選ばれたのではない。』
『お前自身が、始祖の心臓を選んだのだ。』
⸻
その言葉を聞いた瞬間。
レインの身体から強烈な光が放たれた。
風、雷、水、幻、氷、光。
六つの遺産の力が一つに集まっていく。
しかし、中心には黒い光が残っていた。
「これは……終焉の力?」
エレナが不安そうにレインを見る。
レインは首を横に振った。
「違う。」
「これは……俺の力だ。」
黒い光が徐々に金色へ変わっていく。
レインは目を閉じる。
そして、心の中で聞こえた。
――力をどう使う?
――世界を壊すか。
――世界を守るか。
レインは迷わなかった。
「どちらも違う。」
「俺は、みんなと一緒に未来を選ぶ。」
その瞬間――。
七つ目の紋章が完成した。
⸻
ドォォォォン!!
神殿全体が揺れる。
遠くから巨大な咆哮が響いた。
「古代竜……?」
クロードが窓の外を見る。
聖都の空に、巨大な黒い亀裂が広がっていた。
アズールが呟く。
「始まったな。」
レオンの闇の呪印も激しく輝く。
エレナがレオンの手を握る。
「大丈夫。」
「今度は、私が支える。」
レオンは小さく笑った。
「ああ。」
レインは仲間たちを見る。
「行こう。」
「黒翼教団を止める。」
そのとき、神殿の奥に新たな扉が現れた。
扉には一つの文字だけが刻まれている。
『終焉』
そして、その向こうからヴァルドの声が響いた。
「来い、レイン。」
「七つの遺産を揃えた今――」
「世界の運命を決める時だ。」
レインは剣を構える。
「行くぞ。」
扉が開く。
その先に待っていたのは、真っ黒な空間だった。
そして中央には――。
巨大な黒い竜が立っていた。
「……ヴァルガス。」
古代竜の名を、レインは静かに口にした。
第73話 終焉の竜ヴァルガスへ続く。




