第41話 灼熱砂漠への招待
リヴィア島を出発して三日後。
シーウィンド号は無事にベルク港へ帰還した。
「生きて戻ってきたか!」
船長ガレスは豪快に笑いながら三人の肩を叩く。
「正直、半分は海の底だと思ってたぞ。」
「縁起でもないこと言わないでくださいよ。」
クロードが苦笑すると、港の空気が少し和らいだ。
だがレインの胸には、アクエルの言葉が重く残っていた。
――炎の使徒イグニス。
――封印は灼熱砂漠の地下。
――黒翼教団はすでに向かっている。
時間がない。
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王都へ戻った三人は、すぐに魔術研究院へ向かった。
会議室ではエルドとノアが待っていた。
レインが海神の宝珠の紋章を見せると、二人は静かに息を呑む。
「本当に第三の遺産まで……。」
エルドは感慨深げに呟いた。
ノアはすぐに地図を広げる。
「アクエルから聞いた情報は一致しています。」
地図の西側、広大な砂漠地帯に赤い印が付けられていた。
「ここが《灼熱砂漠》。」
「王国最大の砂漠地帯で、昼は五十度を超えることもあります。」
クロードが顔をしかめる。
「海の次は砂漠かよ……。」
「極端すぎるだろ。」
リリアは真剣だった。
「問題はイグニスだけじゃない。」
「黒翼教団もいる。」
ノアが頷く。
「さらに厄介な情報があります。」
彼は一枚の報告書を差し出した。
「三日前から砂漠周辺で異常な熱波が発生しています。」
「オアシスが干上がり、魔物が凶暴化している。」
レインは報告書を見つめる。
「封印が弱まってる……。」
「その可能性が高い。」
エルドは静かに言った。
「ヴァルグの封印解除が連鎖を引き起こしたのかもしれない。」
部屋が静まり返る。
四使徒の封印は独立していると思われていた。
もし互いに影響し合っているなら、残りの使徒も次々に目覚める危険がある。
⸻
「すぐに出発します。」
レインは迷わず言った。
リリアも頷く。
「準備はできてる。」
クロードはため息をつきながら笑った。
「結局休む暇ないんだな。」
その時、会議室の扉がノックされた。
「失礼します。」
入ってきたのは、赤い髪の少女だった。
年齢はレインたちと同じくらい。
褐色の肌に砂漠の民特有の装飾品を身につけている。
腰には湾曲した短剣が二本。
鋭い琥珀色の瞳が印象的だった。
「紹介しよう。」
ノアが言う。
「彼女はサラ・アシュール。」
「灼熱砂漠出身のAランク冒険者だ。」
クロードが目を丸くする。
「Aランク!?」
サラは腕を組んだまま三人を見回した。
「あなたたちが継承者の仲間?」
「思ったより若い。」
少し棘のある言い方だった。
リリアも負けじと視線を返す。
「そっちも同じくらいだろ。」
サラはふっと笑う。
「悪くない返し。」
ノアが苦笑した。
「彼女には砂漠の案内役を頼んでいます。」
「灼熱砂漠は地図だけでは生きて進めません。」
サラはレインへ近づく。
「砂漠では水より大事なものがある。」
「何ですか?」
「方向感覚。」
彼女は窓の外、西の空を見つめた。
「砂嵐が来れば、太陽も星も見えなくなる。」
「そこで迷ったら終わり。」
その言葉には実感があった。
何度も砂漠を生き抜いてきた者の重み。
レインは素直に頭を下げる。
「よろしくお願いします。」
サラは少し意外そうな顔をした。
「もっと偉そうな継承者かと思ってた。」
「普通の冒険者だよ。」
レインが苦笑すると、サラは小さく笑った。
「ならやりやすい。」
⸻
翌朝。
王都西門。
レイン、リリア、クロード、そしてサラの四人は旅支度を整えていた。
新しい仲間が加わったことで、隊列も少し賑やかになる。
「砂漠までどれくらい?」
クロードが尋ねる。
サラは荷物を確認しながら答えた。
「馬で五日。」
「そこから本当の砂漠が始まる。」
レインは西の地平線を見つめる。
海の青とは正反対の、赤い大地が待っている。
その地下には炎の使徒イグニス。
そして黒翼教団。
新たな戦いは、すでに始まっていた。
四人は王都を後にし、灼熱の地へ向かって歩き出す。
その頃――。
灼熱砂漠の地下深く。
巨大な溶岩湖の中央で、一人の男が目を開いた。
燃えるような赤髪。
全身を包む炎。
その周囲では黒翼教団の魔法使いたちが跪いている。
男はゆっくりと立ち上がり、不敵に笑った。
「継承者が来るのか。」
「なら歓迎してやろう。」
炎の使徒イグニスは、完全な覚醒を目前にしていた。
第42話 砂嵐の先へ へ続く。




