この戦いが終わったら
ほぼ真北へ。等高線をなぞるように進み、稜線をいくつか通り過ぎたところで日が暮れた。
「明かりを…」
「待って。」
光水晶を取り出そうとしたリアネスを、ネリネが制した。
「見つかる前に、見つけたい。」
「でも、これじゃ進めないわ。横を覆って、足元だけ照らせば遠くからは見えないんじゃ。」
ネリネは小さく首を振ると、上空を示すように指を立てた。
「足元を照らせば、空からは丸見え。向こうには、飛竜がいる。」
「そうなると、火も使えないな。」
今夜はここまでか。歩みを緩めた一向に、ネリネはスタスタと先頭に立って振り返った。
「夜は、得意。星一つあれば進める。私の足跡以外、踏まないように。」
そうしてさらに進むこと二刻。ついに松明の光を視界に捉えて、ネリネは一行を大きな岩陰へと導いた。
「これ以上、近づけば、あちらも気付く。」
「ギリギリまで寄ってみるか。」
岩陰から身を乗り出したイルアンの服を、セテは軽く引き戻してやる。
「井戸を登って、夜通し歩いて。体はもう限界のはずよ。今は、この距離を保って休まないと。」
すると、ロメがイルアンの前に立って視界を遮った。
「そうですね。では、交代で見張りに立ちましょう。最初は、私に任せてください。」
イルアンは不本意そうに嘆息したが、素直に引き下がってきて、荷を枕に横になった。
(こういう時は、セテが正しい。)
ここ数年、自分の体調をセテより正確に把握できた試しがない。寝よう。そう決意したイルアンの横にリアネスが転がって来て、囁くように言った。
「明日はついに、エルドーとの対決ね。」
「ああ。」
モゴモゴとして何か言いたそうにしているリアネスに、イルアンは静かに言った。
「これで、第十二大陸は、救われるはずだ。」
「…ええ。第十二大陸は救われるわ。」
リアネスは言葉を切って、必死に言葉を探しているようだった。
無理もない。
敢えて彼女が悩み苦しむような言い回しをしたのは、イルアンの方なのだ。
(俺は、請われて動きたがっているのか。)
ふと、ひねくれの魔女ナユタのことが脳裏に浮かんだ。彼女なら、こんな時にどうするだろうか。イルアンの考えが纏まらないうちに、小さな勇者から言葉が溢れてくる。
「私ね、エルドーをレミアス達に引き渡したら、また海を渡らないといけないわ。南の、第十一大陸に行くのよ。どうやって行くのかも、判らないけど。」
「ふむん。」
我ながら意地が悪い。そう思いながらも、イルアンは沈黙でもってリアネスの言葉の先を促した。
「言葉は、大丈夫なのよ。でも、土地勘は無いし、本当に身ひとつになっちゃう。ちゃんと使命を果たせるか、その、心配で…」
「そうか。」
消え入りそうなリアネスの声は、軽く遮っただけで続かなくなってしまう。
(俺はまだ、考え抜いていない。)
言葉には、責任が伴う。少なくともイルアンはそう考えてしまう質だった。だから、リアネスの気持ちに、安易に応えてやれない。一緒に行ってやる、ずっと味方だと、言ってやれない。
イルアンは星々から隠れるように外套を頭上まで引き上げて、自分の息遣いを聞いた。
まだ、結論は出せていない。
「…今は、目の前のことに集中するんだ。ここでの最善手は、目を閉じることだよ、リアネス。」
目の前のやるべきこと。それは、大切な決断を先送りする言い訳にはなるまい。それを自覚しながらも、イルアンは寝返りを打ってリアネスに背を向けた。




