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十三の陸と一つの海 ~竜脈争奪戦を終わらせた英雄たちの旅について~  作者: 十方歩
第二章 第十二大陸編 下・地下迷宮の死闘
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この戦いが終わったら

 ほぼ真北へ。等高線をなぞるように進み、稜線をいくつか通り過ぎたところで日が暮れた。


「明かりを…」

「待って。」


 光水晶を取り出そうとしたリアネスを、ネリネが制した。


「見つかる前に、見つけたい。」

「でも、これじゃ進めないわ。横を覆って、足元だけ照らせば遠くからは見えないんじゃ。」


 ネリネは小さく首を振ると、上空を示すように指を立てた。


「足元を照らせば、空からは丸見え。向こうには、飛竜がいる。」

「そうなると、火も使えないな。」


 今夜はここまでか。歩みを緩めた一向に、ネリネはスタスタと先頭に立って振り返った。


「夜は、得意。星一つあれば進める。私の足跡以外、踏まないように。」


 そうしてさらに進むこと二刻。ついに松明の光を視界に捉えて、ネリネは一行を大きな岩陰へと導いた。


「これ以上、近づけば、あちらも気付く。」

「ギリギリまで寄ってみるか。」


 岩陰から身を乗り出したイルアンの服を、セテは軽く引き戻してやる。


「井戸を登って、夜通し歩いて。体はもう限界のはずよ。今は、この距離を保って休まないと。」


 すると、ロメがイルアンの前に立って視界を遮った。


「そうですね。では、交代で見張りに立ちましょう。最初は、私に任せてください。」


 イルアンは不本意そうに嘆息したが、素直に引き下がってきて、荷を枕に横になった。


(こういう時は、セテが正しい。)


 ここ数年、自分の体調をセテより正確に把握できた試しがない。寝よう。そう決意したイルアンの横にリアネスが転がって来て、囁くように言った。


「明日はついに、エルドーとの対決ね。」

「ああ。」


 モゴモゴとして何か言いたそうにしているリアネスに、イルアンは静かに言った。


「これで、第十二大陸は、救われるはずだ。」

「…ええ。第十二大陸は救われるわ。」


 リアネスは言葉を切って、必死に言葉を探しているようだった。

 無理もない。

 敢えて彼女が悩み苦しむような言い回しをしたのは、イルアンの方なのだ。


(俺は、請われて動きたがっているのか。)


 ふと、ひねくれの魔女ナユタのことが脳裏に浮かんだ。彼女なら、こんな時にどうするだろうか。イルアンの考えが纏まらないうちに、小さな勇者から言葉が溢れてくる。


「私ね、エルドーをレミアス達に引き渡したら、また海を渡らないといけないわ。南の、第十一大陸に行くのよ。どうやって行くのかも、判らないけど。」

「ふむん。」


 我ながら意地が悪い。そう思いながらも、イルアンは沈黙でもってリアネスの言葉の先を促した。


「言葉は、大丈夫なのよ。でも、土地勘は無いし、本当に身ひとつになっちゃう。ちゃんと使命を果たせるか、その、心配で…」

「そうか。」


 消え入りそうなリアネスの声は、軽く遮っただけで続かなくなってしまう。


(俺はまだ、考え抜いていない。)


 言葉には、責任が伴う。少なくともイルアンはそう考えてしまう質だった。だから、リアネスの気持ちに、安易に応えてやれない。一緒に行ってやる、ずっと味方だと、言ってやれない。

 イルアンは星々から隠れるように外套を頭上まで引き上げて、自分の息遣いを聞いた。

 まだ、結論は出せていない。


「…今は、目の前のことに集中するんだ。ここでの最善手は、目を閉じることだよ、リアネス。」


 目の前のやるべきこと。それは、大切な決断を先送りする言い訳にはなるまい。それを自覚しながらも、イルアンは寝返りを打ってリアネスに背を向けた。

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