名はローサ
翌朝、意識を取り戻してくれた彼女に食事を与えた。
と言ってもミルクとお湯に蜂蜜とすり下ろしリンゴを溶いたものだけど。
また、朝早いのにゲルハルトがオルガさんを連れて来てくれた。
大変だったろうにオルガさんには「あらあらまあまあ」の一言で済まされた。
取りあえず、まだ起き上がれない女の子を馬車に乗せてロスリーに向かう。
「では、突然おじゃましてご迷惑をお掛けしました。コジマさんもありがとうございました。」
「たまには顔出してくれよ。ここは寂しいんだから。」
「そうですね。うちの旦那様も物静かなものですから。」
「ええ、出来るだけスーディルにも出向くようにします。」
叔父さんは父から敢えて遠ざけられ、領地経営どころか貴族子弟扱いすら受けることなく、この城に押し込められていた人である。
今は売れない画家で独身である。
そしてコジマさんは、叔父さんが子供の頃から専属だった人で、彼女が仕え始めた頃には既に隠居していたとはいえ、晩年の先々代を知る今や唯一の使用人である。
それはともかく馬車は出発し、昼前にロスリーに戻ってきた。
馬車の中で彼女はずっと寝ていた。
そして、夕方までオルガさんが付きっきりで看病してくれた。
「どうでした。」
「ええ、名前はローサと申すようです。でも、両親や家のことは分からないようでしたわ。もう少し元気が付けばもっとお話ができるのでしょうが。」
「そうだね、今は体力回復が一番だね。昼間はマリアさん、夜はオルガさんにお世話をお願いしていいかな?」
「かしこまりました。」
実はうちの使用人、オルガさんを除いたみんなが近所から通っている。
夜は門番の騎士を除くと私とオルガさんしかいなくなる。
それってどうなの?
屋敷に戻ってオルガさんの隣の部屋を確保し、彼女を寝かせた。
私が生まれたときに使っていたベッドだ。
幸い、屋敷は空室だらけなので問題無い。
あと、屋敷に帰ってからジョセフさん渾身の療養食を見せてもらった。
ミルクベースでペースト状におろした野菜と卵、パンが入った素晴らしい一品だった。
それ、私のよりずっといいやつじゃない!




