のどかな白湯会
帝国歴245年7月
早いもので、季節はまさに夏本番、といった感じ。
ロスリーの夏は暑い、いやかなり蒸し暑い。
更に、南の山を越えた海沿いの村ウスターの湿度は強烈で、まさに「発狂もの」だそう。
そんな暑い昼下がりに庭の木陰でお湯を飲む人々。
「いやあ、暑くても白湯が一番でさあ。この汗がドバッと出るのが堪りませんわ。」
とまあ、いつも元気なのは庭師兼馭者のゲルハルト。いや、ゲルのおっちゃん。
酒飲みで、かあちゃんに頭が上がらない、典型的な昭和の中年オヤジである。
「それがしは水である。酒ならなお良いが、ガッハッハ!」
更に元気なこの中年はギュンター・ゴホーク殿。とにかく豪快な騎士団長。
最近はいつも訓練の合間にサボ、いや巡回に来る。
「まあ、団長さん。たくさんクズをこぼしていますよ。」
「お二方は急いで食べ過ぎだと思います。坊ちゃまを見習われるべきです。」
メイド服の二人はアイリーンさんとウルさん。最近雇った近所に住む姉妹である。
その他に、いつものセバスとマリアさん、オルガさん、料理長のジョセフとヤンさん。
屋敷のメンバー勢揃いである。何をしているかというと、お茶会ならぬ白湯会である。
そして甘いお菓子なんて高級なものは滅多に買えないので、麦の粉を焼いたほんのり塩味の煎餅みたいなものを食べている。見た目は鹿が食べるあれそっくり。
「しかし、みんなで集まると賑やかですなあ。」
「団長様とゲルハルトが揃うと暑苦しいですけど。」
「がっはっは!ワシでも騎士の中では物静かと言われておりますぞ!」
絶対ウソだ。
「でも、こうして主と共に休めるお屋敷なんて他にはないでしょう。」
恐らくない。それどころか、最近は朝食や夕食もメイドさんたちと食べている。
父が居なくなって屋敷の雰囲気も大きく変わった。
まあ、どんどん貴族屋敷らしさを失っているのだろうが。
「いやあ、こうして堂々とサボれるのはいいですなあ。夏の庭仕事は結構堪えるんで。」
サボるって言っちゃってるし・・・
「あらあらまあまあ、ではゲルさんのお給金は没収ですわ。」
「うむ、こやつに給金などいらん。」
「ほかには何もいらんが、金は無いとかあちゃんに叩き出されるから困るなあ。」
「ほとんど酒代に消えておるではないか。」
「坊ちゃんが給金を上げてくれれば万事解決でさあ。いくらあっしでも、今の倍は飲まねえですから。」
「コイツの働きで今の倍出すところがあるわけ無いであろう。」
「半分ならあるね。」
「ではやはり、ゲルさんは半額ということで。」
「みんな酷すぎでさあ・・・坊ちゃん、何とかして下せえ。」
「まあ、努力はしてみるよ。」
みんな遠慮がないので、中身庶民の私にとっては付き合いやすくていいな、と思う暑い昼下がり。




