表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
仮想遊戯  作者: 菊華紫苑
魔女異聞 河梁之吟
82/89

証言Ⅳ ヨナ

 元ツィオン孤児院の孤児、パラベラム会神父モーシェ、本名ヨナ、この件について証言いたします。

 ヤハエル基金のことを知っている者は、ダアト人にはまずいないでしょう。彼等は人の営みと彼等の法律が乖離することを何より嫌います。僕は、両親が早々と『天使』になってしまい、孤独になったのを見て、誰が見ても『不幸』だったので、北アインの方にあるツィオン孤児院に入れられました。

 カリエラがそこにやってきたのは、14才の時でした。記録に出ているような、活発で強引で乱暴な少女ではありません。夜になると、いつも外から泣き声が聞こえました。それでも施設には幼い子供もいますから、昼間は彼等のお姉さんでした。カリエラは勉強が良く出来ていましたし、料理も得意で、子供同士の喧嘩の仲裁など、見事なものでした。その仲裁が力技だったのと、職員も顔負けの弁舌をふるっていたので、その時代を彼女の魔女としての才能の走りだと考える人が居ることは知っています。

 でも彼女はそんな理由だったのではありません。もし、貴方方が実の親に殺されかけるような経験を、何度もしたのなら、貴方は心や命を守る為に、攻撃と防御を覚えるでしょう。その手段として、親を殺すか、逃亡してのたれ死ぬかの違いはあるでしょうが。

 …失礼、話がずれますね、話を戻します。抑々何故彼女がここに来たのかという話です。ただ、僕の証言は、カリエラからの言わば又聞きです。この話の信憑性をどのように判断するかは、貴方方傍聴人と裁判官の皆さんに委ねるものとします。

 カリエラの家は、お父さんとお母さんの三人暮らしでした。

 お父さんは、当時大司教にまで上り詰めていた、シャムシェル・アンモナと、まだ司教だったルシフェラ・アンモナの息子で、ほぼ家出のように飛び出してきた人でした。秩序を守る事で穏やかな暮らしを送れると信じていた彼にとって、ダアト国内はそう言った意味で、秩序のないところでした。穏やかな暮らしを何ものにも代えがたい物だと知っていた彼は、その暮らしを手に入れるために自他ともに厳しい人だったそうです。その為でしょうか、施設にいた間、父親が来た事は勿論、手紙一本電話一本、ありません。僕のように『看過できない不幸な子供』がいると、入れられる一種の流刑地がツィオン孤児院ですから、実際の孤児は案外少なかったりするので、子供を取り返そうとい自称親は結構多いのです。カリエラは父親に怯えていましたが、話をしてみると、幼い頃の楽しい思い出をきちんと覚えていました。本音では父親が好きな、ごく普通の女の子でした。

 お母さんは、ナタスの砦の族長の子で、嗣子の地位を蹴って嫁入りした才女でした。カリエラの教養は、殆どが母親からのものだったと、彼女は語っていました。

 ただ、僕は彼女の母親の事はよく知らないのです。というのは、この人はあまりにも話題に上りませんでした。カリエラが外で泣き叫ぶとき、大抵は母親を呼んでいました。孤児院には親の事が禁句の子供もいます。しかし、大声で泣くカリエラを抑え込むことは出来なくて、結局職員が、森の奥まで連れて行って、落ち着くのを待っていたようでした。それでも、一晩中泣き声が聞こえて来た事もしばしばでした。

 孤児院で暮らしている内に、彼女にどのような変化があったのかは分かりません。分かりませんが、僕達と馴染んでいく中で、いくつか分かった事や、禁句が分かるようになっていきました。

 カリエラが孤児院に来たのは、15才の時でしたので、16歳になると自立しなければならないことを考えると、一年もいませんでした。その後、ヤハーエル高等学校の時代は、ダアト国内の『訳ありの子供』がいる、ダアト人の許容する『不幸』の基準の境目辺りの養護施設で暮らしていますので、ツィオン孤児院にもそれ程長くいなかった筈です。

 彼女は、喧嘩は気にしませんでしたが、いじめに関すると異常なまでの嫌悪感と攻撃性を示しました。正義感などではありません。寧ろそれは狂気でした。『いじめなんて言い方は生ぬるい、心の快楽殺人と言え』とは、彼女の弁で、僕にはヒステリーのように怒り狂う彼女を止めることは出来ませんでした。虐めた子供を、自分が苛めているようになっても、そのように諭しても、彼女は止まりませんでした。そこで悪知恵の働く子供は、嘘をついて、虐めたい子供に虐められたと嘘をつき、カリエラを虐めに巻き込もうとしました。

 ところがそこは、流石と言うべきなのか、カリエラはすぐにその企みを見抜いて、加担することはありませんでした。彼女が激昂するのは、目の前で、起こった虐めに関してであって、それ以外では寧ろ、彼女は無気力だったことの方が多かったのです。只管只管本を読んでいるかと思えば、数日間寝込むこともありました。しかしそれでも、どこかからかいじめの匂いがすると、飛び起きて駆けつけ、目をひん剥いて怒りました。

 いじめというものへの、憎しみの為だと、僕は気づき、ある時聞いてみたことがあります。何故、そんなにもいじめを憎むのか。正義にかぶれている訳でもないのに。

 カリエラは答えました。

 『お婆ちゃんがお母さんを虐めるから、お父さんはお母さんを虐めて、お母さんは気が狂っちゃって、海外に追い出されちゃった』。

 話の要点をまとめると、そんな具合のようでした。しかし、具体的にどのような虐め―――嫁いびりやドメスティックバイオレンスがあったのか、僕は聞けませんでした。

 私が自信を持って語れるのはここまでです。

 以上で証言を終わります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ