表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
仮想遊戯  作者: 菊華紫苑
第四章 竜攘虎搏
56/89

EPISODE55 ニタのへや

 ヴィアナルス邸の応接室は、ダアト侵攻後、戦略拠点を現地で築くまで、司令部にするとのことだった。休憩の後、ネツァクが合流し、ほぼなし崩しとはいえ、ペラッカ達が仲間に加わった事を紹介された。ネツァクは喜んで抱擁をしようとしたが、ペラッカはそれとなく断った。言い出せないでいるし、言い出すタイミングも根拠もないのだが、ペラッカはなんとなく信用が出来ない。

 作戦は三段階に分かれる。

 第一段階『ケルビエル』は、ライフラインの無力化である。これは、ヴィアナルスが義勇都市として機能するべく作られた隠し砲台から発射されるレーザー誘導爆弾を使用する。レラーの両親のように、ヴィアナルス会には『スパイの家系』というのがあるらしく、それはダアト人の中にも紛れ込んでいる。恐ろしい事は、本人たちには決して「自分達はスパイだ」と言う自覚が無い事だ。ダアト建国の際に紛れ込んだヴィアナルス会のスパイ達は、いつでもダアト国の無力化が出来るように、主要な水道、電気、道路などの路に、誘導爆弾が当たるように道やパイプにポインターを埋め込んだ。その子供の世代からは、そこの管理者として親から仕事を受け継ぎ、それと分からずにポインターを点検しているのだと言う。この要領で、ヴィアナルス邸、基司令部には、ペラッカの記憶以上に綿密な市街地図が再現されていた。ライフラインが止まれば、ダアト人は間違いなく混乱し、武力人員の仕事を増やす。また、生活必需品が無力化される事で、侵攻した際に服従させることも容易くなると言う。第二段階に伴い、ポインターは数が増え、主要な大規模建築物から破壊し、籠城を不可能にしていく。場合によっては、ダアトの建物は全て瓦礫と化すだろうとのことである。

 第二段階『ガルガリン』は、武力勢力の無力化である。これは、主にパラベラム会の他、パラベラム会の軍需施設も破壊する。こればかりは、ポインターがない上、人員が割かれるため、実際にガルガリン―――戦車を投入する。規模は一個機甲師団だそうで、ガルガリン隊の隊長になるレラーは、中将という役職になるそうだ。ガルガリンによる市街地制圧は、レラーと、その補佐としてニタが幕僚と兼任して行う。ヴィアナルス会の所有する機甲師団は、ガルガリンが少なくとも数十両以上の他、ポインターを増やす歩兵なども合わせて数万人の戦力があるらしいが、ペラッカには今一ピンと来ない。ただ、レラーのパッパラパーなノリを見ていると、軽そうな印象である。この際に、ペラッカ達の家族を始め、ヴィアナルス会に有効的な者は保護し、そうでない者は拘留するらしい。良く分からないが、閉じ込めると言う事だと言う。その閉じ込めるのに必要なものも、ヴィアナルスの都にあるらしい。歩兵の役割はそれだけではなく、偽装地雷や偽装不発弾を街中にばらまいたり、ライフラインに関するデマなども流したりするらしいが、それは頭を使う事なので、ペラッカ達は関与しなくて良いとのことだった。

 第三段階『セラフ』は、政治機能の停止及びカリエラの保護、そして戦略拠点の確立である。この作戦は機甲師団、歩兵、ペラッカでやる事が違うので、三翼の天使である『セラフ』という作戦名がついた。ペラッカは正直どっちでもいい、と思った。

 ペラッカ達はメヴァーエルの指示に従い、中央政府大神殿、つまりパラベラム会の向こうにある政府要人居住区に攻め込む。この時の規模は中隊なので、メヴァーエルは大尉という役職を与えるらしい。ちなみにペラッカは、四つに分けられた歩兵隊のうちの一つの隊長なので、中尉になるらしい。良く分からないが、レラー、メヴァーエルの下ということだけ分かった。何だか悲しいが、これはこれで、ペラッカが最前線に出るのを想定してのことだと言う。エンジェルダストで錯乱状態になったカリエラを保護するには、見知った顔であることが望ましい。同時に、未知の勢力であるサンダルフォナに最後に会ったのもペラッカだ。その故に、下手に上の将校になるよりも、低い役職の方がいいらしいが、この作戦の理屈も、やっぱりよく分からない。法王、崇敬大司教二名は原則生きた儘拘束し、大司教九名は抵抗の激しい場合は射殺して良いと言われた。司教以下は有象無象だが、どちらかと言えば革命後に市民として迎え入れたいので、原則保護のほうだという。ただ、ペラッカにはそう言った血腥いことは他のヴィアナルス会の兵士に任せ、カリエラを探すことに集中してほしい、とも言われた。ペラッカが「大司教は二名顔見知りがいる。その二人はカリエラの信奉者だ」と証言すると、カリエラの保護後のことも考え、その大司教―――イシュとイシャも例外として、原則生きた儘拘束する様に、とのお達しが出た。少しホッとした。

 作戦は以上で一時終了となり、戦略拠点を構えた後、政府要人の処罰、反抗的な市民の処遇を考えるらしい。やってみれば精々三日で陥落するだろう、とのことだった。ダアト人は殺戮対象ではなく、あくまでも隷属対象であるので、無暗な殺生はしない、だからこれは正義の戦いである、と、マルクが力強く語ると、レラーとメヴァーエルは楽しそうに気合を入れた。ただペラッカは、なんとも気持ち悪くて、そんな気分になれなかった。

 決行は明日の朝三時。夜更かしする人間も家で眠る頃、つまり、外に人が最もいない時間帯に第一段階の作戦が行われるとのことだったので、それまではヴィアナルス会の面々と親睦を深めて良いとのことだった。一晩はぐっすり眠れるだけのベッドは用意されていた。が、正義の戦いに燥いでいるレラーとメヴァーエルは、ベッドに入ってからも、マルクに戦いのコツを寝物語に聞かせろとせがみ、結果的に女性三人の筈のベッドは、一人分占領されてしまった。否、言えば多分マルクは退いてくれて寝かせてくれるだろうが、そうすると「折角のイケメンとの夜なのに!」と不平不満を言われるのは目に見えていたので、諦めてペラッカは屋敷の中に眠れる場所が無いか探しに行った。

 そう言えば、作戦が明日と言う事は、ニタはこの屋敷にいるのだろうか。ペラッカは思い立って見張りの兵、基使用人に聞いてみた。そると使用人は笑って部屋に案内してくれた。

 ニタの部屋は、北の方の部屋の、殺風景なドアの奥にあった。ノックをすると、どうぞと言われたので、使用人がドアを開く。

「ニタ幕僚、ペラッカ中尉がお見えです。では、私はこれで」

「こんばんはぁ…」

「どうぞ、入ってくれ」

 部屋の中にいたニタは、銃を解体して手入れをしている所だった。ニタは歓迎すると言って、部屋のポットからお茶を出してくれた。温かい。

「野暮ったいおじさんですまないね。中尉さんが気に入るようなお菓子はないんだ」

「いえ、突然押しかけてすみません」

「年を取ると、夜にこういう細かい作業はしたくないんだけど、まあ、仕方がないよね、最終確認をしてたのさ」

「ええ、私もさっき、弾の予備を確認しました」

「そうか。いい心がけだね」

「ありがとうございます」

「………」

「………」

 気まずい。ただ、今回ペラッカはどうしても聞きたいこと、否、聞いておきたいことがあった。勿論、カリエラの事だ。

「あの、スイマセン。カリエラはその、ご両親を探してるって、聞いてたんですけど、どうして会わなかったんですか?」

「…君、あの子と仲が良かったのかい?」

「ええ、それなりに」

 良かった。良かった筈。良かったと思う。良かったと思いたい。

「何、私は両親の下から出て行ってしまっている身だからね。カリエラが私達じゃなくて祖父母と暮らしたいと言うから、私はヴィアナルス村長―――大将の父上に土下座して、この家に住まわせてもらったのさ」

「その、カリエラが…。その、えーと…あの…」

「ああ…。マルタッタさんを殺したっていう事件か」

「はい。その時、お父さんがなかなか出てこなかったって…」

「ああ、うん、そうだね。ちょっと仕事が忙しくて、中々家に帰ってなかったんだ。その時の事は、妻が知ってるよ」

「お母さんは、あの?」

「生きているけど、死んでいるようなものだね」

「??? 今、カリエラを取り返してきますって、報告することは出来ないんですか?」

「それは無理だね。もうこの国にはいないから」

 なんだ、天使様になってたのか。崇敬大司教の息子の嫁なんだから、アイン人であってもその可能性はなくはないだろう。

「あの、親子の縁を切ったって聞いたんですけど」

「ああ、切ったよ。今あの子がどうなっていても、両親―――祖父母の教育方針にも、興味はないね。好きにしたらいいと思うよ」

「そしたら、どうしてここにいるんですか?」

「逆だよ、どうでもいいから、自分の居たい所、自分に有利な所にいるんだ。私は、ダアト人は間違っていると考えている。だから明日、進撃するんだ」

「カリエラに、会いたくないんですか?」

「会いたくないね。あいつは私をヴィアナルス村にいられなくした。私の妻さえ奪った悪魔の子だからね」

「お母さんを?」

「…いや、失礼。ただ、中尉さんのような優しい家族ではなかっただけなんだ」

「お母さんは、死んじゃったんですか?」

「そんなとこだ」

「どうして?」

「あの子が、妻を狂わせたんだよ。妻は頭のいい女だったからね」

「そう、ですか…」

 カリエラが北アインではギタギタに言われているので、ペラッカはもやもやが酷くなった。そのもやもやは形になり、蛇のようになって膨らみ、規則的な鱗の境界線を歪めてペラッカの身体を締め付ける。思ったよりも面白くなかったので、ペラッカは茶の礼を言い、部屋に戻った。

 部屋に戻ると、マルクはいなくなっていた。よかった、これでベッドが使える。ぐしゃぐしゃになったベッドを直し、この寒いのに相変わらず薄着でいる二人の能天気さが羨ましかった。


 夜が明ける前に、全てが動き出す。にも拘らず、ペラッカは不思議と静かに眠りに着く事ができた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ