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仮想遊戯  作者: 菊華紫苑
第三章 猛禽草木
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EPISODE40 ナタスのばんにん

 街道を見つけることは出来なかったが、ペラッカがある事に気が付いた。

「ねぇ………。何か臭わない?」

「なに~? 殺人花のどぎつい臭いじゃなくて~?」

「なんか…。小汚いお魚屋さんみたいな匂い」

 その言葉に、先頭を切っていたカリエラがビクリと振り向いた。

「魚の…内臓の臭い、か?」

「う、うん…。あたしがお家でお勝手間違えちゃった時みたいな…」

「それはどこからする!?」

 突然カリエラが掴み掛って来た。ガクガクと揺さぶられ、何度も同じ質問をされる。答えるに答えられないでいると、サンダルフォナが割り込んだ。

「落ち着きなさい! ナタスはアイン一の要塞都市よ、大丈夫! ペラ、それ、案内できる?」

 カリエラはガタガタ震え、自力で立つことが出来ないでいた。何とかサンダルフォナがそれを支え、意味の分かっていないメヴァーエルは妄想を爆発させ、やはり立っていられなかったので、レラーが支えた。異常な事態に戸惑いながらも、ペラッカは毒草を嗅ぎ分ける鼻を使ってふらふらと進む。

 その臭いに従っていくと、煉瓦で出来た巨大な壁が現れた。壁は所々穴が開いていて、壁には鋭い爪跡があり、地面には人とも獣とも分からない血溜まりが点在している。それも、昨日や今日の血ではないと素人目にも分かる。凄まじい量の虫が集り、レラーとメヴァーエルは震えあがった。

「少なくとも一週間は前…ね」

「サンちゃんこの壁くっさ~い! ナニコレ、鼻が曲がっちゃう~!」

「ここは乙女を捨てて鼻つっぺすべきかしら…。でもこんな凄まじい所でも、運命の人と出会ったりするかもしれないし…」

 お気楽二人組がそんなことを言っていると、ざり、ざり、と土を踏む音がした。咄嗟に、前にいた三人は構える。が、暗闇の中から現れた青年に、はっとカリエラが杖を降ろした。

「カーフィ! カフジエル! 無事だったのか!」

 悲鳴に近い声を上げて、カリエラは杖を放り飛びついた。

「ジージとバーバはどうしてる? この砦に何があった!?」

 カフジエルと呼ばれた青年は何も答えない。おい、おい、とカリエラが呼びかけて揺すっていると、突然カリエラの首を掴み、片手で持ち上げた。驚いたサンダルフォナが杖を取り、腕を強かに打ちつけるが、カフジエルはビクともしない。ぎりぎり締めあがって行く首に焦りが出たのか、サンダルフォナは顔面にモーニングスターを叩きこんだ。流石にカフジエルも攻撃の焦点をサンダルフォナに変えて、カリエラを離し、地面に落とした。咳き込むカリエラとの間に立ちふさがり、サンダルフォナの左手首を握る手に噛り付く。

「カーフィ! 何やってる! 俺がわかんねえのか!? カリエラだよ!」

 カフジエルは油の切れたブリキのような動きをして振り向いた。目は血走り、夜でもないのに猫の様に瞳孔が開いて不気味な印象を与える。獣が餓えたかのような凄まじく早く激しい呼吸が、恐怖を呼び起こさせる。か細い声で何か喋ろうとしているカフジエルの指をへし折り、サンダルフォナを解放すると、カリエラはカフジエルに綺麗な右ストレートを決めた。だがカフジエルは少しもよろけず、再び襲いかかろうとした。その腕をサンダルフォナがチェーンソーで切り落とす。心臓が普通以上に仕事をしているのが分かる位に凄まじい血が噴き出し真赤に火照っていた顔が、見る見るうちに青くなり、大量の失血を訴えた。しかしそれでも、カフジエルは全く痛がる素振りを見せない。カリエラは後ろに忍びより、そっと杖を構えると、頭と首の継ぎ目に打突した。カフジエルはピクリと震えた後、その場に頽れた。

「破壊の天使に魅入られた者を助ける方法…。死を恐れず、死を理解せず、死から逃れようともしない奴らを助ける方法―――それがこれだよ、ペラ」

 カリエラはその後も、カフジエルの事について何か喋っていたが、サンダルフォナが優しく肩を抱きしめると、発狂したように痙攣して泣き出した。大地を引き裂かんばかりに泣くカリエラの姿は、ある種異常で、嫌悪にも似た鳥肌が立つ。

「―――ねぇ」

「カリエラ、落ち着いた?」

「赦さねえ…。絶対ぇ赦さねえ…何としても殺してやる…。マルク…メレク…アイン・ソフの奴ら…」

「カリエラ、落ち着きなさい」

「全員殺してやる!! 嬲り殺してやるぅぅぅ!!」

「落ち着きなさい!」

 サンダルフォナが力強く抱きしめた。カリエラは静かに背中に手を回し、しくしくと泣く。これは当分、泣き止めそうにない。サンダルフォナはペラッカに言った。

「多分、彼が―――カフジエルさんが出て来たのは偶然じゃない。砦の中で何か起こってる…。ペラ、二人連れて中を調べてきて。何かあったら空砲を撃ってくれれば直ぐに行くから」

「で、でも、こういう時は皆がいた方が―――」

「いいの。………少し二人きりにして」

「二人きり!」

「行くよ二人とも」

 死体の前でメヴァーエルがいきなり目を輝かせ始めたので、ペラッカは二人を引きずって砦の中に入った。この才能を修羅場の中でどう生かすか…。…カリエラの気持ちが少し分かる気がする。

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