EPISODE41 ナタスのとりで
砦の中は酷く荒らされていて、何体もの動物や人間の死体の破片が飛び散っていた。ここで凄まじい攻防戦があったのだろうと容易に察しが付く。ぞっとして立ちすくみながらも、ここで自分が怖気づいていては、この二人はすぐに帰る帰ると騒ぐに決まっている。自分を鼓舞し、ペラッカは進んだ。
自分たち以外の出している音は聞こえない。寧ろ、声を立てれば狂った獣に襲われそうだった。
砦の中は、思っていたよりも生活感のある空間だ。ただ、道…というより、廊下に窓の代わりに鉄格子が嵌められ、生活空間の一部が見えている。これは多分、家の中から侵入者を撃退するためだろう。中を覗いてみると、見た事も無い鉄の棒が沢山ついた銃らしき何かが見える。あれがカリエラから聞いていた『自動小銃』だとか『ショットガン』だとか『狙撃銃』なのだろうか。初めて見る。
「うえ~。くっさ~いい…」
「血だの涎だのドロドロ…。シャワー浴びたいぃ…」
「血のシャワー浴びたい?」
「ひえ!」
「な、なんかペラちゃん怖い~!」
カリエラの気持ちがなんとなく分かって来た気がする。…分かりたくなかったが。
しかし、誰もいないことは不幸かもしれないが、一つだけ良い事があった。ここは弾薬が沢山ある。ベレッタくらいの小さい銃の弾は大量に手に入れることが出来た。何でも詰め込めるこのバッグにぎっしりと頂く。が、流石に鉛筆のような弾やベレッタより大きな銃は手に付けなかった。怖い。だがメヴァーエルはそんなことはなく、血が着いていなかったり、割れていなかったりする鏡で、身嗜みを整えたり、残っている宝石やアクセサリを物色している。レラーは物珍しそうな品物に興味津々の様だ。が、それよりもやはり、死体の傍で何かをすることに恐怖心があるらしい。
「ねえ、メヴィちゃん」
「なによ」
「なんていうか…。吹っ切れた?」
「ドロボーじゃないよ! だって貰って困る人いないし!」
「どっちかっていうとコレ火事場泥棒っていうんじゃないかな………」
「なによペラ! 大体ペラがいけないのよ! こんな不気味なとこ案内するから!」
片手に血塗れになってしまった宝石を持ち、メヴァーエルが食って掛かる。
「そ、そんな事言ったって…。大体あのままにしてたって、迷ってたんだよ?」
「どーせなら死体がぜーんぶ無くなってからにしてよ! なんでこんな腐った死体の中ズルズルズルズル家探ししなくちゃならないのよ! っていうか何探してるの!? 見ての通り生きてる人なんて―――」
「うるさい!」
特にペラッカの死生観は変わっていない。ただ、無念の表情を浮かべている人や獣の死体の前で、悪口を言う事が許せなかったのだ。
「聖女はあたしよ! あたしの命令が気に食わないなら、即刻あの殺人毒草のある森を抜けてダアトに帰って! あたしの護衛なら護衛らしく、あたしの道のりを護ってよ!」
「な…何よ! さっきだって腰ぬけてたヘタレのくせに!」
「メヴィなんて震えてて構えてもいなかったじゃん!」
「もー! いいもんいいもん! レラー! 帰るよ!」
「か、帰るってどこに!?」
「ダアトに決まってんでしょ! 誰が悲しくてこんな臭い場所にいるもんですか! 伯父さんに言って勅令撤回させてやるんだから!」
レラーはオロオロとどちらに着けば良いか迷っていたが、使命より友情を選んだ。本当に帰って、毒草に見舞われたら目覚めが悪いので、取りあえず毒草図鑑をレラーに渡す。二人が去って行く姿を見て、がっくりと項垂れた。
本当の聖女なら、こういう時逆に鼓舞出来るものなんじゃないだろうか………。
「カリエラ、何でよりによってあたしなんかを…」
「カリエラを知ってんのか?」
「知ってるも何もあたしと彼女、は―――」
思わず答えそうになって、振り向き―――腰を抜かして凍りついた。何故ならそこには、全身真っ黒の上に凄まじい武装をし、巨大な銃を二挺も向ける石像のような人間。それが三人、否、三体。涙も凍り付く。
「答えや!」
「ひぃぃぃっ!」
「お止しんさい、怖がっとるわ」
真ん中に立っていた個体がゆっくり近づき、腰の抜けたペラッカを助け起こした。柔らかい掌から、その個体が雌…じゃない、女性であることが分かった。
「驚かせたようだな。おれはナタスの傭兵の一人、ハホヤーだ。カリエラを知ってんだな?」
「し、知ってるけど、その、あの…」
「安心しな。おれ達ゃカリエラの味方さ。あん子、今どこにいるんだ?」
「と、砦の入口でサン…あ、いや、もう一人の仲間と二人…」
するとハホヤーは渋い顔をした。何か地雷を踏んでしまったのかと頭を抱えて小さくなると、ハホヤーは両脇の兵士に命令した。
「怯えるこたねえよ、安全な場所に連れて行ってやるから、安心しな。…アンタらは、カリエラを迎えにお行き」
何が起こっているのかさっぱり分からないまま、ハーヤーと同じくらいの、否、もしかしたらそれ以上の年の老女に引きずられていくことになってしまった。
こんな事なら、意地でもあの二人を留めて置くのであった………。




