EPISODE26 カリエラのへや
昼間に汗をかいたからか、夜中に喉が渇いて目を覚ました。正直疲れからぐっすり眠れるかと思っていた。寧ろ、一度目を覚ましてしまったら目が冴えてしまって寝付けない。ダウンライトをつけて、カリエラの黒歴史でも漁ってやろうか、と思い立ち、机を物色した。必要だったとはいえ、カリエラは何度も嘘と誤魔化しとでここまで引っ張って来たのだ。少しくらい弱みを握らせてもらってもいいだろう。
「カリエラのエッチな本とかないかなぁ…。………多分過激なんだろうな」
机の上には、ヤハーエル学校以前から集めていただろう沢山の学問書が所狭しと並んでいる。一つ一つ中身を確かめてみたが、お粗末な隠し方はしていなかった。全てが全て、ぎっしりと小さな文字が並んでいる。机のラバーの下には、学生時代の写真がこれまたびっしりと挟まれており、殆ど隙間がない。その写真の中には、ペラッカの知らないサンダルフォナとカリエラの写真もあった。やはり二人は、ヤハーエル学校でペラッカ達と会う前からの旧知の仲なのだろう。
「…ん?」
写真の隙間に、何か白いものが見えた。これも写真のような気がするが、何故これだけこんなに埋もれているのだろう。
「ふっふ~ん?」
もしや、ヨナとの禁じられたアイの…これはメヴィへのいい土産になりそうだ。
そんな邪な気持ちで、ペラッカはその写真を引き抜いた。
「………?」
その写真には、沢山の人間が映っていた。おかしな写真だった。
中央に三人の子供。その子供達の保護者のように寄り添う一人の少女。その後ろに、三組の夫婦。中央の子供の一人は、幼いカリエラの様だった。他の二人も、どこかで見たようだが、どこで見たのか分からない。
だがその写真のおかしい所は、それだけではない。
雪が降っている。真っ白な雪。ダアト国の冬にも雪は少しだけ降るが、こんな豪雪ではない。これは―――そう、正しく凍土と言った雰囲気なのだ。事実、写真の中の人物は皆厚着をしている。ダアト人が持っていなさそうな服ばかりだ。
もしこれがダアトでない場所で取られたとしたら―――もしかすると、北アインか?
ならば尚更おかしい。カリエラは北の勢力と特に敵対していた筈だ。何故幼いカリエラが、北アインとしか思えないような場所で、写真に収まっているのだろう。
「まさかカリエラ…」
サンダルフォナと同じ、アイン育ちなのか?
否、それはおかしい。カリエラの義務教育時代は知らないが、カリエラは確かに、義務教育の間は養護施設にいる。それは間違いない。こうしてパラベラム会に修道女として入っている以上、誤魔化しや不正のある経歴であるはずがない。
という事は、この写真のすぐ後に義務教育期間に入り、且つダアトに来た…? いやいやいや、もっとおかしい。義務教育期間中に留学なんて聞いたことがない。
「ママァ…?」
「ひっ!」
突然、ドアが激しくノックされた。カリエラの声だ。思わず写真を懐に仕舞い込み、ベッドに潜り込む。ドアのノックは激しくなり、ガチャガチャと激しい音を立ててノブが動いた。
「ネェ………ママァ………ドコォ………。オネェチャン…ガ、ドコニモ…イナイノ…」
カリエラの声ではあるが、妙に間抜けた声だ。きっと幽霊だ、そう思い、強く布団を被る。
「ママ―――ぐぁっ!」
どたたんっ!
何かが崩れるような音がした。恐る恐る布団の隙間から頭を覗かせると、扉が少し開いている!
「ぎゃ―――」
「しっ! ボクです、イシャです」
「い、イシャさん…」
「さん付なんてされたら姉御に殺されます」
流石双子だ。
「それより、何も被害はありませんか?」
「う、うん、ちょっと怖かっただけで…」
「この修道院には、時々幽霊が出るんです。もう追い払いましたから大丈夫ですよ」
「幽霊? 天使様のなりそこないの?」
「そうです。それじゃ、お休みなさい」
「お休み…」
一抹の不安を写真の中の幼いカリエラに託し、ペラッカはそのまま眠りについた。
翌朝、何かの音に目を覚ますと、イシャが配膳し、朝食の準備をしていた。
「ふお!? な、なにしてんの!?」
「お早うございます、ペラッカさん」
「見た? 寝顔見た?」
「はい。すいよすいよと眠っていましたよ」
「わー!」
恥ずかしい、とベッドの上で転がりまわっていると、イシャは苦笑して紅茶のカップを差し出した。
「今日もイシュと特訓なんでしょう? 精を付けてください」
「ううう、今度から、あたしも皆とご飯食べるよ…」
「一応、修道会にはペラッカさんの事は秘匿されているので、それは出来ません」
「デスヨネー」
はあ、とペラッカは溜息を吐き、紅茶のカップに手を付けた。
「ねえ、イシャから見てカリエラってどんな人?」
「どんなって…。憧れの人ですよ」
「どうして?」
「イシュから聞いてませんか? 養護施設の話」
「いや、聞いたけどさ。どうもそれだけじゃない気がするんだよね」
イシャは暫く黙っていたが、カリエラの机の椅子に座り、本の一つを取って広げた。
「『見よ、わたしはこの女を病の床に投げ込もう。また、この女と姦淫を行う者達も、この女の行いを離れて悔い改めなければ、大きな患難の中に投げ込もう。また、わたしは、この女の子供達をも死病によって殺す。こうして全ての義なる人は、わたしが人の思いと心を探るものであることを知るようになる。また、わたしはあなたがたの行いに応じて一人一人に報いよう』」
「ゴメン、歴史苦手」
「ここでいう『死の女』とは、義ではない人のことです。ボク達双子は、義ではない女から生まれました。だけど、ボク達は死ななかった。だからいつも皆、死にぞこないって言ってました。でも姉御は、そんなボク達を一番の友達にしてくれたんです。いつでも最前線に飛び込んで行って、ボク達を護ってくれました。本当のお姉さんみたいに…」
「ねえ、カリエラがアイン…特に北アインとかにいた可能性って無い?」
「さあ…。姉御は自分の家族の事も、自分の過去についても、あまり話さないんですよ」
それなら、写真を見せることは躊躇われる。本人に聞いてみるしかない、か…。この写真は少し借りておこう。




