EPISODE24 にだいのうえ
ごとんごとん…ごとんごとん…。
砂漠を走る駱駝の馬車なんて、絵の中でしか見たことが無かった。鉄の塊に布をかぶせただけの荷台は、風が入ってこないため、熱がこもる。入口というか出口というか、まあ外に近いところに行けばそれなりに涼しいのだろうが、そこはサンダルフォナとカリエラが独占している。カリエラはあの時から意識が戻ったり無くなったりで、まともに食事もしていない。サンダルフォナの義弟ハヴェルが使っていたと言う水差しで少し水を含ませるのが限界で、それも時々こぼしてしまう。メヴァーエルが相変わらず変なテンションで二人を見つめており、イイトコなんだから邪魔しちゃダメ! と言って、荷物の陰から前へ出してもらえない。
「そういえばペラちゃん、南ではどんな奇跡起こしたの?」
「………」
「ペラちゃん?」
「ごめんレラー、あたし…。………」
「???」
「何でもないの。疲れただけだから…」
「え~? ゼブルビューブで奇跡なんか―――もがっ」
「黙ってレラー! 今二人、イイトコなの! 会話が聞こえない!」
もらった弩を見つめ、燃え盛る火の中、たった一人で戦っていたカリエラを思う。
自分はなんと愚かだったのだろう。
自分よりも頭の良いカリエラは、自分よりも人の感情を無視していると思っていた。だが、人の心を推し量れない人間が、人の心を持たない人間が、どうして『ジジイとババアに褒めてもらえる』などと笑っていられるだろうか。より危険な敵から身を護らせるために、別の危険な場所に避難させるだろうか。カリエラが零した『計画』という言葉。
恐らく、この旅には、更に別の意味がある。カリエラがたった一人で背負っているもの―――。多分、サンダルフォナにも話していない。
「ねえ、でもなんでカリエラちゃんって、身体弱いの? やっぱりアインの人って、ダアト国では生きていけないのかな~?」
その時、キッとサンダルフォナがこちらを睨んだ。思わずヘルメットを引っ叩く。
「レラー! 例えサンやカリエラがアイン人でも、あたし達、友達じゃない! そんなこと言わないの!!」
「そんなことじゃないわよ。天使に将来なれる人となれない人、いつしか訪れる『その時』に怯えながらも育むア・イ…。ああっ切ない恋愛た―――あいだ!!」
キラキラと目を輝かせて指を組み、妄想を垂れ流していたメヴァーエルの頬に、スパンッと缶詰が飛んでくる。見ると、サンダルフォナに支えられてはいるものの、カリエラが起き上がって、頭を押さえていた。…多分、意味は二つほどあるだろう。
「テメェら………。人が深手負ってればいい気に…。…っく、う…」
「駄目よカリエラ、まだ寝てないと」
サンダルフォナがカリエラの額に手を添えると、メヴァーエルは同じ動作をして、そのまま恍惚とした表情で倒れた。起こさない方がいい気がする。
「今回は大敗だ…。北の勢力を見くびっていたぜ…クソがっ! この俺が…この俺が、ここまでしてやられるとはな…クソッ!」
「でも私だって奇襲されてカリエラを助けに行けなかったし…。それに、カリエラの機転のおかげで、ほら、こうして聖女は無事じゃない」
「ペラ」
視線は定まっていない。正しく満身創痍なのだろう。いつもの強気な余裕も強引さも微塵もない。寧ろ風前の灯のように、身体に魂が追い縋っている。まるで今まさに、潰える命のように。冷や汗をかきながら、来い来い、と手招きされる。仲直りのチャンスかもしれない、と、ペラッカは近づいた。
「ペラ、…お前には話さなきゃなんねえことが沢山ある。それについては、レラーにも、メヴィにもちゃんと話す。…だけど、今は話せねえ」
「うん、傷をいやす方が先だよ。でも、何であたし、傷が治せないのかな…」
「それについても…必ず話す。とにかく今は、ダアトに戻って各自静養。俺の指示があるまで修行だ。バカ二人はサンが、お前の修業は俺の子分に命じるから、とにかくお前、パラベラム会まで俺を運んでくれ」
「うん」
「ああ、それと………。………いや、謝るのは、全部話してからにする」
「うん、絶対、絶対話してくれるよね?」
ペラッカにはその言葉が、カリエラの最期の言葉のように感じた。カリエラは薄い笑みを浮かべ、ああ、と答えると―――かく、と事切れるように力尽きた。死んだのかと驚いたが、サンダルフォナが赤子をあやす様に抱いているのを見て、眠ったのだと理解した。
「ごめんね、ペラ。私、何も知らないんだ」
「そうなの?」
「うん。カリエラ、肝心なところになると黙っちゃって…。法王の命令だからやれって言うだけで。………でも本当に法王の命令なのかな?」
「え?」
「おかしいと思わない? メヴィとカリエラは解るよ? でも私やレラーやペラは、法王は名前すら知らないんだよ? おまけにペラはニートだったのに、どうしてペラが勅令を受けるの?」
「それは………。天使様がそう言ったのかな?」
「………。そうだといいんだけど」
それきり、サンダルフォナは黙ってしまった。




