EPISODE15 アインやまいりぐち
漸くやる気を出してくれたメヴァーエルとレラーを先に歩かせ、中央にペラッカ、後をサンダルフォナ、カリエラと続く。もうベレッタの弾がないらしく、カリエラは杖を何度も握り直していた。
「そう言えばさあ、なんでサンには武器がないの?」
「ああ? 馬鹿野郎、サンの身体に傷がつくだろ」
その言い方はメヴァーエルの前では誤解を招くから止めておいた方がいいと思ったが、遅かった。メヴァーエルは鼻息荒く此方を見ている。とりあえず、あたしを挟まないで、と、ペラッカはその視線から外れた。
「でも回復するのだって気力がいるし、この先もっと激しい戦いになること請け合いなら、私も武器が欲しいなあ、防具とか」
「武器はともかく、防具は盲点だったな。左手に何か持つか?」
「私ってでも、あれでしょ? 修道女役でしょ? なら見えるものは不味いんじゃない? いくらパラベラム会でも」
「そうだなあ…」
「だから仕込み杖とかがいいなあ」
サンダルフォナはこの旅で大分発言が黒くなった気がする。考えておくよ、とカリエラもまんざらでもなさそうだ。サンダルフォナはカリエラと違い穏やかで好戦的ではないが、だからこそ武器を持ってカリエラの味方になられると喧嘩した時が怖い。
「あ、じゃあさサン、さっきこんなの拾ったから持ってなよ」
はい、とメヴァーエルが何かを差し出してきた。見てみると、少し薄汚れた軍手だった。汗臭そうである。サンダルフォナとカリエラも同じことを思ったようで、鼻を近づけた。が、何の臭いもしないと確信すると、あっさりそれを嵌めてしまった。
「攻撃力も防御力もプラス一って感じね」
「無いよりマシよ。素手で殴ったりしたくないでしょ、虫とか」
「そうねえ、人を殴るのにも、素手って痛いわ」
墓穴を掘ったようだ。じゃんじゃん殴れ、とカリエラは眼で言っている。こうして見ると、二人は良く似ているようだ。
「あ、そう言えばカリエラちゃん、ビアナース会のこと聞いてない!」
一瞬何の事かと全員が考え込んだ。が、サンダルフォナが、ヴィアナルス会だと訂正すると、漸くカリエラは合点が言ったらしい。少し悩み、首筋をかいていたが、サンダルフォナも話した方がいいと思っているらしく、今回は味方しなかった。ペラッカも聞きたい。
「ヴィアナルス会ってのは、北の………」
その時、突然後ろから熱風が吹き、トロッコで落ちた時のように鈍く丸ぼったい音がいくつもいくつも襲いかかってきた。ペラッカは思わず後ろによろけてしまう。何だろうとメヴァーエルが歩を止めたが、カリエラとサンダルフォナはいち早く非常事態だと気がついたらしい。最後尾から一気に駆けだし、追い抜いた。
「何してる! 生き埋めになるぞ!! 走れ!!」
生き埋めになったら掘って出ればいいとか一瞬馬鹿な事を考えてしまったが、音がこれだけ早く近づいてくると確かに怖い。さっきのトロッコの時も思ったが…。
「何でさっきからこんなのばっかなの!?」
「聖女を魔王が狙ってると思え!」
「何その最悪な解釈!?」
「あ、トロッコがまた!」
戦闘を行くサンダルフォナが指を指すが、暗闇で見えない。メヴァーエルが照らすと、先ほどよりも大きな、歯車に繋がれたトロッコがあった。乗れ、とカリエラが叫んだ。ペラッカが遅れをとりそうになり、カリエラが身を乗り出して引っ張り込む。爆発がすぐ近くで起こり、トロッコのすぐそばに岩が落ちた。
「伏せて掴まれ!!」
カリエラがメヴァーエルのステッキを奪い、辺りを照らし、歯車のいくつかをベレッタで撃った。欠けた歯車はバランスを崩し、がくん、とまた不吉な音と衝撃を齎す。ががががが、とトロッコで落ちた時よりも激しい音と振動で、ペラッカはベベベベ、と変な悲鳴を上げた。トロッコが明らかに、最初のものよりも早い速度で動きだし、カリエラも伏せる。トロッコは急斜面を登る。爆風で少し押し上げられているようにも感じた。ぐぐぐ、とトロッコが上がり、ペラッカは押し潰されそうになったが、何となくカリエラが庇ってくれているようだった。
がん!!!
後ろから突き飛ばされ、爆発に巻き込まれたのかと思ったが、トロッコが宙に浮いたのでそうではないと分かった。そして次の瞬間、包まれて叩きつぶされた様な音がした。思わずカリエラにしがみついて叫ぶ。トロッコは何かを突き破ったらしい。そして一瞬の間を置き、山の崩れるような音がし、トロッコがガタガタと線路ではないところを走り、回転し、横転して外に投げ飛ばされた。頭を打たなかったので、どうにか身体を起こすと、一部の山肌がくずれている。どうやらあの爆発で炭鉱が潰れてしまったらしい。次々起き上がるものの、カリエラだけは大の字になったまま起き上がらない。サンダルフォナが心配して近寄ると、意外なことにカリエラは、人目も憚らずサンダルフォナに抱きついた。メヴァーエルの反応はもう、見なくても分かる。
「ど、どうしたの? どっか怪我した?」
「………あぁ」
「え?」
「こわかった…」
「は?」
「俺…、俺、絶叫系駄目なんだよおぉ…。わああー!」
どうやらトロッコの中では、ペラッカを庇ったのではなくて、怖くてペラッカを庇うように体が硬直しただけだったらしい。あまりにも激しく泣くので、よしよしとサンダルフォナがあやしている間、ペラッカはなんだか大人になった気分だった。ベレッタだのカラシニコフだの銃火器を語り、杖と拳銃を振り回し、暴言を吐き、やくざの様に大見えを切った彼女も、中身はやっぱり同じ年の女の子だ。
「意外~、絶叫楽しいじゃ~ん」
「お前馬鹿だろ!? 何を好き好んで命の限界に挑戦してんだよ、命大事にしろよ!!」
カリエラも存外無茶をするが、今は言わないでおこう。辺りを見回すと、少し歩いたところにダアトの城壁が見える。カリエラをどうにか立ち上がらせたが、腰が抜けたらしく、まともに歩けなかったので、またもサンダルフォナが背負うことにした。絶対嫌だ、とカリエラは物凄い勢いで真っ赤になって抵抗したが、サンダルフォナがパキリと手を鳴らすと大人しくなった。軍手でサンダルフォナは確実に強くなったようだ。
「くそ、末代までの恥だ」
「修道女って結婚しないんじゃなかったかしら?」
「例え婿が来たって指一本触らせてやんねーよ」
「あらあら、困った子ねえ」
メヴァーエルが先ほどから、『何やってるのよ』とか『早くしなさいよ』とか、小声でぶつぶつ言いながら盗み見ている。何を期待しているのかは何となくわかるので、何も言わず、先頭をきって歩く。
「何何? ペラちゃんなんか張りきってるねー、修行するの?」
「何言ってんのよ」
ペラッカはそれなりに気を使い、最後尾を頑張って歩くサンダルフォナとその背中のカリエラにも聞こえるように大きな声で、はっきりと言った。
「聖女一行のリーダーは聖女なんだから、聖女が先頭歩かなきゃ駄目でしょ」
見張りの修道士が此方に気づいたらしい。異様なコスプレ集団をみて驚き、銃を向けたが、カリエラが顔を利かせるとすぐに通してくれた。どうやら彼女が絶叫トロッコで腰が抜けたのではなく怪我をしたものだと思ったらしく、応急処置をと言ってきてくれたが、カリエラは修道士の顔が好みでなかったのか、物凄い勢いで断っていた。
ペンション・ハーヤーに辿りつけば、一段落つくだろう。あともう少しだ。




