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少年秘密警察の日常  作者: 家宇治克
アリス狂乱茶会事件
12/109

12話 県警と少秘警 2


「うわっ!!」


 荒れた居間に投げ出され、ガラスや食器の破片まみれの床に背中が近づく。

 隼より少し早く投げ出された薫の手がぎりぎりガラスのない床についた。体を捻り、手の力だけで起き上がると同時に隼のネクタイを引いて無理やり立たせた。


「あー、ビビった。マジで死ぬかと思った」

「俺······が、死ぬ······わ······」


 棒読みの薫と首を絞められて苦しげな隼。五十嵐警部は汚物でも見るような目で「化け物が」と吐き捨てた。

「なぜお前らみたいな奴らがこの世にいるんだ。全く気味が悪い」

「だから人権奪われたんだよ。アッタマワリいなぁもう」

「化け物には人権なんぞ必要ないだろう」

 警察は爆笑。

 大の大人が揃って子供を嘲笑う中、薫が「へぇそうかよ」と、ずっと持っていた紙袋を開ける。

 警察は静まり返って薫の次の行動に意識を集中する。張り詰めた空気がこの空間を支配した。


「化け物化け物って偉そうに。そんなに言うならそれらしく振舞ってやるよ」


 背筋が凍るような低い声。さっきまでとは違うオーラを放ち、袋に手を入れた。ただならぬ雰囲気に警察は拳銃を構えるが、五十嵐警部だけは反応が遅れる。

 ──薫はそれを見逃しはしない。



「肉よおどれ 血よたぎ

 灼熱しゃくねつを舞う炎の祝詞のりと

 全てを燃やし浄化せよ」



 厨二病ちゅうにびょうくさいセリフを吐いて「喰らえ」と笑う。五十嵐警部の顔が急速に青白くなる。

 ──良い匂いがした。




ショウロンポウ!!」

「あっつぅぅぅぅぅ!!」




 口に押し込まれた熱々の小籠包。悶絶する五十嵐警部に周囲がざわつく。薫はそれをケラケラと笑って眺めていた。

「署長から呪文を聞いたんだぜ」

「どこでそんな物騒な祝詞を······」


程なくして五十嵐警部は部下二人に支えられて退場した。慌てふためく警察は再び薫に拳銃を向けるが、薫は「よく聞け!」と声を張る。

「この事件は少秘警の管轄かんかつだ! お前ら警察(ワンコ共)はさっさと帰れ!」

 もちろん反感を買った。普段以上に罵声を浴びた。しかし、薫はテーブルの上に手を伸ばす。

 隠すように置かれた、歪な形のティーカップ。カップの底の帽子の模様を見せると、皆閉口した。


「犯人はマッドハッターだ」


 カップは無言で語っている。

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