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10年ぶりに帰った俺、世界最強のUnknownになっていた  作者: 神崎昴
第二部 10年ぶりの日常、そして再び

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第92話 魔石を売る

昼食を終え、美月の家へ戻ってきた。


 買ったばかりの服を片付けながら、蓮は部屋を見回す。


 昨日までとは違う。自分の荷物が、少しずつ増えている。


 十年間。蓮はほとんど何も持たずに生きてきた。


 それが今は、普通の服がある。靴もある。


 そして――


「……そういえば」


 蓮がふと口を開いた。


「ん?」


 美月が振り返る。


「……魔石って、売れるんだよな?」


「ああ、うん。冒険者ギルドで買い取ってもらえるよ」


「……そうか」


 蓮は少し考える。


「……じゃあ、売ってきてもらってもいいか?」


「私が?」


「……うん」


「いいけど……」


 美月は少し不思議そうに蓮を見る。


「魔石、持ってるの?」


「……ある」


「どのくらい?」


「……分からない」


「分からない?」


「……たくさんあるから」


「…………」


 美月は一瞬黙った。


「たくさんって……どのくらい?」


「……これくらい」


 蓮が手を前に出す。


 次の瞬間――


 一つの魔石が現れた。続いて、二つ。三つ。十。二十。百。


 それでも止まらない。


「……え?」


 美月の表情が少しずつ引きつっていく。魔石は増え続けていた。床が、少しずつ埋まっていく。


「ちょ、ちょっと待って……!」


 美月が慌てて声を上げる。けれど、蓮は手を止めない。


「……?」


「もういい! もう十分だから!」


 ようやく、蓮の手が止まった。


 床を見る。


 そこには――


 千を超える魔石が並んでいた。


「…………」


 美月は言葉を失う。蓮はそんな美月を見て、不思議そうに首を傾げた。


「……まだあるよ?」


「まだあるの!?」


 美月の声が裏返った。


「……うん」


 蓮は何でもないことのように答える。


「……まだ出す?」


「出さなくていい!」


 美月は即座に止めた。


「もう十分! 一回、全部しまって!」


「……分かった」


 蓮が手をかざす。


 次の瞬間。床を埋め尽くしていた魔石が、すべて消えた。


 部屋が元の状態に戻る。


「…………」


 美月はしばらく、何もない床を見つめていた。


 千を超える魔石。それだけでも十分すぎる量なのに――蓮にとっては、まだ「全部」ではない。


 むしろ――


 まだ残っているらしい。


「……これだけの量を一度に持っていくのは大変だね」


「……うん」


 美月は少し考える。


「まず、一つだけ見せて」


「……一つ?」


「うん。どのくらいの価値があるのか、まず確認したいから」


「……分かった」


「じゃあ、一つだけ貸して」


「……うん」


 蓮はアイテムボックスから魔石を一つ取り出し、美月へ渡した。


 美月は受け取った魔石を見る。


 その瞬間。


「……これ、ボスから取った魔石?」


「……違う」


「え?」


「……普通に徘徊してるモンスターの魔石だよ」


 美月は、もう一度魔石を見る。


 九十階層以降を徘徊するモンスター。それは、決して「普通のモンスター」という意味ではない。


 その階層にいる魔物は、八十階層のボスを上回るほどの強さを持っている。


 だから――


 そこから取れる魔石も、一つ一つが異常だった。


 魔力含有量も。魔力純度も。


 そして――


 魔石そのものの大きさも。


 美月がこれまで見てきた魔石とは、明らかに違う。


「……これが、普通に徘徊してるモンスターの魔石……」


 美月は、改めて魔石を見つめた。


 そして――


「……じゃあ」


 美月はふと口にする。


「ボスの魔石って、どんなのなんだろう」


「……これ?」


「え?」


 蓮がアイテムボックスへ手を伸ばした。


「ボスの魔石なら、ある」


「…………」


 美月が固まる。


 次の瞬間。


 蓮の手の中に、一つの魔石が現れた。


 美月は、それを見た。


「…………」


 その瞬間だった。


 美月の身体が、震えた。


「……なに、これ……」


 呼吸が浅くなる。


 触れていない。蓮が持っているだけだ。


 それなのに――


 魔石から感じる魔力が、明らかにおかしい。ただ濃いというだけではない。


 魔石そのものに、途方もない量の魔力が凝縮されている。それが、見ているだけで伝わってくる。


「……っ」


 胸が締め付けられる。身体全体を押さえつけられているような、強烈な圧迫感。


 息が苦しい。美月の身体の震えが、どんどん大きくなる。


 額から汗が流れた。首筋にも。背中にも。腕にも。


 全身から汗が滲み出ていく。


 蓮は、明らかに様子のおかしい美月を見る。


「……美月?」


 返事はない。


「……大丈夫?」


「…………」


 それでも、美月は答えられない。


 蓮は少し眉を寄せる。


 そして――


 手の中の魔石を見る。


「……これか」


 蓮はすぐに魔石をアイテムボックスへしまった。


 ――その瞬間。


 圧迫感が消えた。


「……っ」


 美月は大きく息を吸う。肺に空気が入ってくる。それだけで、少しずつ身体の震えが弱くなっていく。


「……はぁ……」


 美月は胸に手を当てる。まだ汗が止まらない。


 蓮は心配そうに美月を見る。


「……大丈夫?」


「…………」


 美月は答えられない。ただ、呼吸を整えることだけで精一杯だった。


 しばらくして――


 ようやく、美月の呼吸が落ち着いてくる。


「…………」


 美月は、蓮を見る。そして、震える声で口を開いた。


「……蓮」


「……?」


「これ……」


 美月は一度、息を整える。


「……何の魔石?」


 蓮は少しだけ考えてから答えた。


「……古龍」


「…………」


 美月は言葉を失った。


 ドラゴン。それなら知っている。冒険者なら、誰でも知っている存在だ。


 けれど――


「……古龍……?」


 その言葉は、聞いたことがなかった。


 それが何なのか。どれほどの存在なのか。美月には分からない。


 ただ――


 今まで感じたことのないほどの魔力を持つ魔石。


 それを生み出した存在の名前が――


 古龍。


 その事実だけが、妙に重く感じられた。


 美月は、しばらく何も言えなかった。


 ただ――


 目の前にいる蓮が、この十年間どんな場所を生き抜いてきたのか。


 それだけが、少しずつ現実味を帯びてきていた。

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― 新着の感想 ―
 やっと……やっと、「ぼく……なんかやっちゃいましたか」が! 喜し。
 役所に生存報告したら戸籍は戻るし、法定相続人が誰もいなければ資産も国庫から戻るはず。
まだ途中までしか読んでませんが実家は更地になってました終わり、でいいんですね。
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