トッドはドラゴンと契約する
トッドはようやく眠ることができた。
眠りながら夢を見ていたけれど、それは真っ暗で声だけが聞こえていた。
「望むなら我の力を見せてくれよう」
トッドは声を出そうとするが出なかった。
暗闇を落ちているようでもあり、夜空を飛んでいるようでもあった。
頬を強く打ちつけて来たかと思えば、瞼を開けることもかなわない、それほどの風が襲い掛かってきた。
不思議なことに音は聞こえなかった。
とても怖い夢だったけれど、何かにつかまっていたので妙な安心があった。
声の主は再びトッドに話しかけてきた。
「ただ一言だ……一言だけ叫べばいい」
『何を言えばいいんだ!』
トッドは出せども出ない声でその主に尋ねた。
叫ぶことで自分が満たされると思った。
惨めさから、悔しさから、焦りから、解放されると思った。
「その炎を喰らえ」
『その炎を喰らえだって?』
「そうだ!我の炎を奴らに喰らわせろ。誇り高い、気高い我をここから解き放て」
『僕もあなたみたいになりたい!』
「なら一言だ……一言だけ叫べばいい」
『いいとも、約束しよう』
「違う、約束ではない。契約だ!」
『契約する!』
「その炎を喰らえ…喰らえ……喰らえ」
その言葉は夢の中のトッドの心を激しく、強く揺さぶった。
真夜中、トッドは飛び起きた。
手には月明かりを頼りにミルからもらったドラゴンのカードが赤黒く鈍く光っていた。
トッドは少し考えて建物から外にでて、中庭へ向かった。
まだ少し考えて建物へ引き返し、よそ行きの服に着替えてから中庭へ向かった。
理由は分からないがそうすべきだと思っていた。
『ザッ、ザッ、ザッ、ザッ』
中庭に敷かれたジャリはトッドの耳だけに届いていた。
トッドは少しの間、目を閉じて深く息を吸い、
持っていたカードを高くかかげ、叫んだ。
「その炎を喰らえ!」
持っていたカードが持っていられなくなるほど熱くなり、トッドは手放そうとした瞬間だった。
カードから建物と同じぐらいの大きさのドラゴンが現れた。
鋼の鱗、すべてを切り裂く爪には理不尽なほどの強さが宿り、人間にはない美しさがあった。
ドラゴンはトッドに向かって言葉を投げつけた。
「なんだ子供じゃないか、つまらんな」
トッドはカードに描かれたドラゴンを見ていた時と同じで、強さ美しさに言葉を失っていた。
「どうやらお前が我を自由にしてくれたのだろう。
相応の礼をせねばならんな……何がいい?」
「あなたの背中に……じゃなくて。ずっとあなたと一緒にいたい!」
トッドに言われたことが相当愉快だったらしく、ドラゴンは耳をつんざくような大声で笑った。
「これはすまない。少し笑い過ぎた。今まで生きてきて一番面白いぞ。
子供、名を申せ。覚えておいてやる」
「トッドです」
「トッド……まあいい」
ドラゴンは首を少し傾けてこたえた。
「あなたの名前を教えてください」
「名前……そんなものはない。我は地獄の釜から生まれた、ただのドラゴンだ。
ただし、炎を吐くし卵も吐き出すぞ。今は衰えてはいるが巣に戻るぐらいの力はある。
一緒にくるというなら、連れてくぞ。トッド、背中に乗れ!」
「わかりました!」
トッドは必死によじ登り、ドラゴンの背中にしがみついた。
「心配するな、滑り落ちたら大声をだせ。拾ってやる」
ドラゴンはそう言うと『ドンッ』という大砲のような音を立てて飛び上がった。
月が手に届きそうな高さまで上がったかと思ったその時、翼を大きく広げ空を滑り始めた。
それはトッドが夢で見ていた感覚に似ていた。
頬を強く打ちつける風で時折、瞼を開けることが出来なかったが不思議と怖くはなかった。
トッドは降りてくれるように、ドラゴンに叫んだ。
ドラゴンはゆっくりと旋回しながら地面に近づいていき、地面をその爪で掴んだ。
降りた先はミルの家の前だった。
地響きと地鳴りのような叫び声にミルは目を覚ました。
家を飛び出してみるとそこにはトッドと、その背後に大きなドラゴンがいた。
「トッド、後ろにドラゴンがいるよ。しかも相当でかい!」
「大丈夫だミル、こいつは暴れたりしないよ」
「それって、あのカードに描かれてたドラゴンだよね」
「ごめんよミル、もう行かなきゃ」
「行くってどこにだい?」
「ミル……この世界に僕の居場所はないんだよ。
だから多分、違うところに今から行くんだ」
「トッド、何を言ってるのか分からないよ!」
「君が僕に感謝してくれたように、僕は君に感謝したいんだ。
このドラゴンに出会えたのだから。これで僕は僕でいられる。
ミル……ありがとう!」
「ちょっと、突然すぎるよ。待って!」
トッドはミルの言葉に耳を傾ける様子もなく再びドラゴンの背中にしがみついた。
そして大砲のような音と共に高く舞い上がり、先ほどより大きな声でドラゴンは叫んだ。
その瞬間、トッドはドラゴンと共に夜空のどこかに消えてしまった。
「僕も連れてって欲しかったな」
一人残されたミルはつぶやいた。
翌日、テレビやネットではUFOが出たとかUMAが出たとかで大騒ぎだった。
ミルは昨晩のことをおじさんに話した。
おじさんは誰にも話したことのない世界について教えてくれた。




