第36話 女王
3人目のトライデア異界人、【懐柔】と別れたあと最後の異界人と挨拶することになった。
ミレイいわく他の3人とは方向性が違う異常さを秘めているとのことで、その人を聞こうとしても『会ったほうが早い』とあまり詳細は教えてくれなかった。
さっきの魔獣の件といい、実はミレイが『俺が困っている姿を見て楽しんでいるのでは』という疑念が浮かびつつあるが、協力してもらっている手前あまり強く言い返せない。
大人しく王城内の会食部屋でその人物が来るのを、ミレイと一緒にじっと椅子に座って待つ。
予告ドッキリを仕掛けられているようで、落ち着かない……
バタン!!!!
「おうぁぁぁ!!!」
部屋の中にいる人のことなど全く考えず、ノックもなしで扉が勢いよく開いた!
大きい音に驚いて、カメラで撮影された芸人がごとく椅子から転げ落ちた。
本当にドッキリをするヤツがあるか!!
「女王の凱旋だというのに、出迎える民衆が一人もいないのはどういうことかしら!!!!」
「歓迎されてないからですよ、【女王】」
怒りの感情をあらわにして目の前に現れたのは、童話でしか見たことがない豪華な装飾のされた、フランス貴族のような出で立ちの赤いドレスを着た女性。
その女性は転げ落ちた俺を見下ろしながら、ハイヒールのかかとで音を響かせながら部屋の入口に一番近い上座の席につく。
鼻が高く、整った顔の輪郭とその綺麗な着座姿勢から気品とか、気高さみたいなものを感じられた。
背中に届くほど長く、まっすぐな金色の髪とドレスから覗く純白の手足。
多忙で常に疲労感を漂わせているミレイとはある意味対照的だった。
恐らくだが、彼女も【勇者】や【機兵】と同じ、別の世界の人間だ。
「早く席についてくださるかしら?女王は待たされるのが嫌いなの」
「ああ、すまない……驚く覚悟はしてたんだが、ミレイさんに詳細は聞いてなかったもんでな……!」
「見事なリアクションでしたよ、サイゴさん」
表情には出てないが、やっぱり団長代理楽しんでるだろ!
俺たちが面倒ごと持ち込んだ腹いせか!?
……ともかく感情を顔に出すと会話に差し支える。ここは冷静に情報を聞き出そう。
「……今回俺が呼び出させてもらったのは魔王討伐作戦のことについて、どうしてもあなたに伺いたいことがあったんだ。是非、インタビューをさせてもらえないか?」
「貴方、話を始めるときは自分から名乗るのが礼儀ではなくて?」
「申し訳ない。俺の名前は暮落 才伍。同じ異界人だ」
「あ」
「え?」
ミレイの眉が動いた。
「そう、サイゴというのね!」
女王が浮かべていた怒りが顔から不自然に消えた。
ものすごく嫌な予感がする……
「それにしても私を呼び出しておいて紅茶も用意していないとはどういうことかしら?
紅茶と茶菓子を用意しなさい、サイゴ」
「え、それって俺がやるのか……っぐぐぐ、グワーーーーッ!!!」
何だ?勝手に体が動く!!電波を受信したラジコンみたいだ。
椅子から立って、会食部屋に用意されたティーポッドに向かって足が止まらない!
ま、まさか……これは!!!!
「彼女の超奇跡は【女王】。名前を呼んだ人間に指示をする能力です。」
「ミレイてめーっ!それは先に言えよ!!」
コイツやっぱり確信犯だ!!!
俺の意思とは関係なく。茶葉を取り出して用意されたお湯を使って紅茶を淹れ始めてしまう!
手足が震えながらも、その手順を強制されてしまう……
これが抗えない奇跡の力であることを実感した。
「まあ、点数としては30点くらいかしら。てんでダメね、貴方。精進しなさい?」
「ああ、悪いな。紅茶なんてファミレスのドリンクバーくらいでしか淹れたことがないんだ」
全身の筋肉をガクガクさせながらかろうじて淹れた紅茶は女王の口に合わなかったようだ。
その司令が終わったあと、やっと席につくことを許された。
「……とりあえず、俺も名乗ったし名前を伺ってもいいか?」
「そうね、私は【女王】!この国の女王よ!!」
「え、トライデアは異界人が女王なのか?」
「いえ、違います。彼女は女王ではありません」
ミレイが即座に訂正を入れる。
「え、じゃああなたは……」
「女王よ!!!」
「違います。この国にはヴァース人の正当な王家がいます」
まさか、この異界人の人格破綻の正体とはつまり……!
「女 王 よ !!!!!」
正当な王家がいるにも関わらず、自分をトライデアの女王と思い込んでいることだった!!
彼女の迫力ある宣言に偽りの心はないが、正当性もなかった。
「……ミレイさん、ひとつ疑問に思ったんだがコイツに名前を呼んでもらったら他のトライデアの異界人を制御できるんじゃないか?」
「ああ、異界騎士団は入団のときに『元の世界の名前を捨てて、この世界の名前に変える』んですよ。
いわゆる源氏名です。こういう本名を条件にした超奇跡がいるので」
「源氏名て……」
言われてみるとセカンドル異界騎士団のヘラク、フィロン、ラルミラも元の世界にはないような響きの名前で、違和感はあった。
正直に本名を名乗る俺がどれだけ滑稽だったのか理解した。




