第34話 ディナー作戦
団長代理・臨時5日目の朝9時。
「──というワケで7日目の夕方だけ早めに仕事を切り上げさせてほしいんだ。団員の皆には迷惑をかけて申し訳ない……」
団員が王城に出勤してきたタイミングで講習を行っていた団員4人を執務室に呼び出し、昨日起こってしまった事件の説明をした。
無理やりミレイとレギナのディナーの予定をねじ込んだ都合、最終日だけはどう頑張っても仕事に影響が出ることが避けられない。
下手に隠して被害が広がるよりは、いっそ騎士団員に事情を話してしまおうという魂胆だが……どうだ?
「ホンマでっか、サイゴさん」
「ああ、ホンマなんですよ。信じがたいごとに……」
その事実を伝えると団員たちが俺に背を向けてコソコソと何かを話し始めた。
「もしかして……」
「はい、異界の言葉で”千載一遇”というやつですな」
「しかもミレイさんどころか女王様までとはねぇ?」
「間違いない、”祭り”や……!」
耳に入る微かな声。
それから悪寒を感じ取った瞬間にはすでに4人が執務室の扉を勢いよく開けてバラバラの方向に駆け出していた。
「おーーーーーーい!!サイゴさんが明後日にミレイさんとレギナで食事に行くってよーーー!!」
「お前ら、前倒しで働け!!」
「この機を逃してはなりませんぞ!!」
あっという間に伝令が城内の団員全員に伝わり、そこらじゅうで雄叫びが湧き上がる。
そこからの団員の勢いは凄まじいものだった。
もともと仕事のレクチャー7日間かかる予定だったが、団員同士がさらなる業務効率化のアイディアを出し合い、俺が考えていた方法を遥かに上回る手法を確立したことで6日間でレクチャーが終了。
そのお陰でやるべき仕事が7日目にして消え、最終日がそのまま俺の休日となった。
仕事が減って休みをもらえた事自体は団員に感謝しなくてはいけないはずだが普通に恥ずかしいし、これから俺がやろうとしていることを考えると申し訳ないという感情が勝る。
俺は団員たちの期待をこれから裏切ろうとしている。
ミレイから向けられている好意を躱し、レギナの興味も振り切る必要がある。
単に俺の好き嫌いの話ではない。ミェースタとしての目的を達成するために必要なことだ。
ちゃんと『正当な取引を成立させるのにノイズを残してはいけない』という理由がある。
断ればよかったと思うかもしれないが、あんな面と向かって恥じらいを捨てて誘われたのでは無碍にできなかった。
そもそもの話だが元の世界で家族や恋人と引き離されているキョウヤがいる手前、俺だけが異世界で恋愛にうつつを抜かすなんてもってのほかだ。
過去にマッチングアプリで失敗を重ねすぎて恋人という存在に強い抵抗ができてしまったとか、それだけの問題ではない……
それならばディナーの誘いなど断ればよかったと思うかもしれないが、大の大人の女性にあんな面と向かって恥じらいを捨てて誘われたのでは流石に無碍にできなかったし、キッパリ断れば報復として『団長代理・臨時の後払いの報酬』にも影響する可能性がある。(これは俺の交渉ミスだ、後払いなんかにするんじゃなかったなチクショウ)
あーー状況整理終わり!ノートに書き出してみると酷い有様だな!!
何が完璧な交渉だ、ボロばっかり出るじゃないか。
ひとまず俺は6日目までに団長代理・臨時の業務をすべて終わらせ、7日目をまるまる休みにしてディナーに臨むことになった。
作戦はある。
ミレイとレギナのディナーを完遂したうえで、『あっ、やっぱりコイツあんまり魅力ないかも……』と思わせる、これが今回の目標だ。
単に汚い言葉を使ったり、下品な真似をして嫌われようとすれば女王様に矯正されるのでそういった真似はできない。
上品に、それとなく興味を無くすような振る舞いをする必要がある。
大丈夫だ、俺は過去にマッチングアプリで15回振られている確かな実績がある。
それを活かせば俺はこの理不尽な状況を乗り越えられる。
16時、俺のモヤモヤした心情とは対照的に晴れ渡った夕方。
約束の2時間前に集合場所の酒場についた俺は、この理不尽に立ち向かうディナー作戦を実行する。




