第33話 特別にならないために
結論として団長代理と女王の2人の食事のお誘いはどちらも無視することは出来なかった。
あの場で断ると人間として大切な何かを完全に失ってしまいそうだったからだ。
異界騎士団として働く最終日にディナーの予定をミレイとレギナを同時にねじ込むことにして、その場は解散となった。
それ以外に時間がなかったし2人の扱いに優劣をつけるべきじゃないと考えてのことだったが、同時にデートみたいな真似をしている。普通に俺は最低だ。
会食部屋から出ていく彼女たちの表情は怖くて全く見れていない。
「俺ってそんなに変なことしてたのかなぁ?」
「結構してたよ!!逆にミレちゃそのこと気になってたんじゃないの!???」
残って相談に乗ってくれたラーちゃがグンと顔を近づけて驚愕の表情を見せる。
「だってさ、『団長代理の仕事全部代わりにやります』ってミレちゃそのこと考えてのことでしょ!?」
「俺の交渉に付加価値を付けるためだ。10万ムルドの大金を貰うのにどうしても必要だった」
「じゃあ『元の世界に帰る方法を見つけたら一緒に帰ろう』って言ったのは?」
「それは……ミレイの信頼を得るために言ったんだ。俺たちの帰還に協力してもらうために」
「えー、じゃあ何でさっきはミレイの私服とか髪型褒めたわけ?」
「いやミレイが『休日を満喫できている』ってアピールのためにわざわざ来てくれたんだろ?だから触れないのも悪いかと思ってさ……」
「あり得ないって思わない?」
「思い返すとかなり気持ち悪いな、俺!」
ラーちゃさんにたしなめられて気付いた。
これで俺が『ミレイに好意がないです』というのは不自然すぎる。
いや、正確に言えば俺はミレイのことが嫌いなわけじゃない。
むしろ尊敬している。団長代理という『特別』な立場から逃げ出さず、周りをまとめ上げてこの国を今日まで守り抜いてきた。
仕事のやり方も綺麗で、合理的。それにもかかわらず限界まで国民のために背負い続けて……
途中で責任を投げ出してしまうような俺とはぜんぜん違う。
それにクールな年上の女性ってのはめちゃくちゃタイプだし、私服が逆にキュートなギャップはたまらなく強烈で脳に焼き付いている。
そうだ、俺はこのままだとミレイを好きになってしまう!
「でもな、ダメなんだ。俺は『特別な関係』になっちゃいけない。ミレイもレギナもだ。合理的に考えて」
「なんじゃそりゃ!人を好きになっちゃいけない人間なんて、いないと思うけどなー」
「俺たちミェースタが『最速最短で元の世界に帰る』ために、なっちゃいけないんだ。だけどこうなった責任は俺が取る」
「クレぴー、また無理しようとしてない!?」
今の状況をノートに整理してみる。
ミレイと仮に『特別な関係』になれば俺は個人的にめっちゃくちゃ嬉しいのは事実だが、トライデアとの交渉に支障をきたす。
何故なら『彼女に贔屓目でみられている』となれば職権濫用を周囲の団員に疑われるからだ。
ミェースタとしての合理的な交渉においてノイズになりうるし、ミレイの立場も傷つけてしまうかもしれない。
もしかしたらミレイはそれも覚悟の上で食事に誘ってくれたのかもしれないが……
今回はレギナの方も問題だ。『ミレイだけを特別扱いするな、臣下として付き合え』と駄々をこねている。
本来無視して良いはずの文句だが、【女王】の前でそれは通らない。
レギナが俺の名前を呼んで指示を出せば超奇跡で従うしかなくなる。
可憐で立ち振舞いに品格こそあれど本当に困ったお姫様だ。
「俺みたいな人間がこんなことを言うのがおこがましいことは分かってる。だけど俺は『2人の想いにある程度応えたうえで、俺自身から興味を無くしてもらう』しかないんだ!」
「ちょっと!!ミレちゃそたちを傷つけようとしたらホントに良くないからね!」
「それには気をつける。2人との関係にヒビが入ったら、それこそトライデアとの交渉に多大な影響が出る。だから丁度良い着地点を無理やり作る……」
俺自身が犠牲になることでな!!!
「……泣くほど辛いなら無理しないで。ウチも悪かったしさー」
「こ、今回は俺が撒いた種だ……!だけどちょっとだけ手伝って……」
指摘されて俺が涙をボロボロと流していることに気がついた。
なぜだか俺はラーちゃの前だと安心して心の中身をさらけ出してしまう。
ギャル特有の包容力なんだろうか、今まで必死にこぼれないように抱えてた感情が流れ落ちていく。
ぶっちゃけ出会う順番が違っていればミレイと一緒に異界騎士団として働くのも、女王様の臣下として忠誠を誓うことも喜んでいやっていと思う。それほどに魅力的な人だ。
だけど俺は『元の世界に帰る』と決めてしまった。ミェースタとして。
「協力はするよ!でもね、ウチはクレぴーにもちゃんと幸せになってほしいと思ってかんね!!」
「本当にありがとう。ラーちゃママ……」
「ウチはママじゃないよ!!てかクレぴーのほうが年上じゃん!!」
またしても気持ち悪いことを口走っていた俺に、ラーちゃは慈愛の微笑みを向けてくれた。




