第35話 【懐柔】
王城内に突如発生、会議室の建物を倒壊させる莫大な被害をもたらして、嵐の様に過ぎ去っていったトライデア異界人の【機兵】と【勇者】。
それはなんと台風の”1号”と”2号”に過ぎなかった。
このトライデア異界騎士団にはまだ、さらなる災いをもたらす台風”3号”と”4号”が残っている。
普通、そんな大荒れ模様の日には外を出歩かないものだ。
しかし、どうしても”田んぼの様子を見に行く”ような”無謀な挑戦”をしなければならない理由が俺にはある。
それにキョウヤたちを巻き込んで無駄に犠牲者を増やすわけにはいかないので、俺と団長代理さんだけで残りの2人に挨拶することにした。
「団長代理さん、あいつらは2年くらい続いてた【魔王討伐作戦】から帰ってきたんだよな?
ということはトライデアの異界人4人は全員相当の実力者って認識であってるよな」
「ええ、あの人たちは紛れもない【10年前の魔導戦争を終結させた英雄たち】です。
あのザマなので国民全員に嫌われていますが。
本当に帰ってきてほしくなかったですよ、4人とも」
ミレイはうんざりとした顔でため息混じりに話す。
多分、魔王討伐で国を留守にしていた時期がわずかな休息の時間だったのだろう。
「まあ、そんな彼らに会いたいというサイゴさんの気もしれませんがね。面倒だけは起こさないでくださいよ」
「ああ、どうしても手がかり探しに必要なんでな。努力するよ……」
王城内の廊下を並んで歩いていると待ち合わせであった接待用の会食部屋にたどり着いた。
これから起こるかもしれない悲劇を想像して、流れる汗が止まらない。
部屋の中にある刺激物を爆発させないようすぅーっと扉を押す。
救国の人格破綻者、いったいどんな人物なのだろう……
『ブフォツ!!』
『がぁっぅううぅぅぅううっぅうう!バウ!バウ!バウ!』
『キッッャッシャシャシャーー!!!』
『ぺちぃーぃぃぃん!!(植物のツタを叩きつける音)』
人じゃなかった。
開けた瞬間、俺の胴体くらい巨大な鼻から生臭いドライヤーのような温風が吹き荒れる。
「オアぁぁァーーーーッ!!!!!」
扉の前に立っていたのは2m超えのイノシシ。
毛並みが剣のように尖った闘犬。
アマゾンとかにいるようなものよりも、数段大きい白い蛇。
あとなんか、歩いてる植物。
さっきは原寸大のSFロボットだったが、今度は巨寸大だ。
俺は小人の国にでも迷い込んだのか?
いや、これはSFよりかは心当たりがある。
魔獣だ!!!!
何故か王城内に魔獣がいる!!!!
「【懐柔】、王城内で魔獣を呼び出すのはやめてくださいと……」
「あ、誰かと思えば団長代理か、久しぶり!!
いやー2年くらい帰ってきてなかったから、すっかり忘れてたよ!」
明らかな異常事態に焦りを全く見せていないミレイの視線の先には、白と黒の混じった髪の少年がいた。
謝罪の言葉とは裏腹に、態度はヘラヘラとしてあまり反省の色が見えていない。
「よし皆、戻っておいで!今日はもう終わりだ」
その少年が友達のように語りかけると魔獣たちはまばゆい光となって姿を消し、彼の手元にカードの形として戻っていた。
そしてそれをバインダーの空いたポケットにひとつひとつ丁寧に戻していく。
「嘘だろ……まさか、魔獣使い?」
「やだなー!魔獣使いだなんて、そんな一方的な関係じゃないよ!
この魔獣たちはね、僕に力を貸してくれる大切な友達なんだ。凄い可愛かったでしょ!!」
中性的で端正な顔立ち、無邪気な子どものような笑顔で同意を求められているが、魔獣はそんなもので中和できないほどグロテスクな見た目で全く共感できない。
「僕はアルテ。びっくりさせちゃったみたいで悪かったね。
あれは【懐柔】の超奇跡で僕の仲間になってくれた素敵な魔獣たちだよ。
それとモリントワーム討伐の件は聞いているよ、君たちも結構凄いんだってね。
ああ、よかったらモリントワームがどんな姿だったか教えてくれないか?
間に合ってたら彼も僕の友達にしたかったんだけどね──」
いつのまにか腰を抜かしていた俺に対して、手を差し伸べてくれた【懐柔】はひとりでにモリントワームの話をしようとしている。
言うまでもないが、モリントワームは全く人類に対して友好的ではなかった。
「【懐柔】、その話はまたの機会にしてください」
「ああ、ごめんね。つい、未知の魔獣だったからさ!」
「というかミレイさん、魔獣が出てくるって分かってたなら俺に教えてくれても……」
「あ、それはすみません。私も思い出したくなかったもので」
薄情だが、ミレイに同情はできる。
「それでモリントワームを討伐した君たちが僕に話っていうのは?」
「あ、ああ。そう言えば自己紹介がまだだった。俺はサイゴ。
色々あってこの城のお世話になってるんだが、【魔王討伐作戦】のことでちょっと聞きたいことがあってきたんだ」
「へぇ、よくわからないけど面白そうだからいいよ!話してあげる」
これ以上話題をそらすと収拾がつかなくなりそうなので早めに本題に入ることにした。
【元の世界への帰還の手がかり探し】という体で騎士団の活動内容のヒアリングをする。
すると彼はこれまでの魔王討伐の記録を自慢げに話してくれた。
あの勇者とエースパイロットに比べて、全然話ができる方だった。
まあ、半分くらいは魔獣の生態についての話だったが……作戦自体がどういう状況だったのかは一応参考になった。
あとでノートに纏めておこう。
「君が記録に使っているノート、元の世界と同じようで凄く使いやすそうだね。
もしよかったら僕に分けてくれないか?魔獣のスケッチに使いたいんだ!
やっぱりこの世界の紙はあまり品質が良くなくてね?
細かく書こうとするとすぐにグシャグシャになるんだ。
この世界は最高だけど、美しいあの魔獣たちの姿を正確に残せないのは本当に損失で──」
「ああ、悪いな。俺のノートは人に渡すと燃えるんだ」
「そうなんだ、残念」
アルテは少しだけ残念そうな素振りを見せたが、それほど気にしていないようだった。
俺と逆境、読心の超奇跡はトライデア異界騎士団にはある程度公開することにした。
どうせ団長代理にバレているというのと、自分たちだけ不自然に隠すと情報を渡してもらえない可能性があると仲間内で相談して決めたことだ。
しかし、話を聞く限りだと隠していても問題なさそうだった。
【彼らの超奇跡は俺たちと別格】だ。
仮に隠していても意味がない位に能力の差がある。
少なくとも、今まで会話した3人は絶対にそうだ。
詳しくはまだだが、恐らくもう一人もそうだろう……
彼らには【無秩序が許されるだけの実力】がある。
「うん!じゃあ、僕ができる話はここまでかな?そろそろ時間だ。
それじゃあ、モリントワームの話は絶対今度教えてくれよ!」
そう言って笑顔で部屋の外に出ていく【懐柔】の背中に、底しれぬ恐怖を抱いた。
「マジでどうなってんだよ、トライデアの異界人は……」
「私は違いますからね、一緒にしないでくださいよ」
団長代理は椅子に座った俺を見下ろして、念を押すように言った。




