第34話 人格破綻者の異界人
トライデア王城の異界騎士団会議室。
当たり前だが会議室は外部に漏れてはいけないような重要な話をする場所。
こういう部屋はたいてい、王城とか騎士団本部の1室として用意されるようなものだが、王城内の広い中庭に独立した建物として用意されていた。
つまり王城に入ったあと、一度外に出て、中庭を通ってこの部屋に行く必要がある。
一見すると非効率な建物で違和感はあった。
しかし、【中庭に別棟として会議室】があるのは”最善”だった。
なぜなら、【壊れたら簡単に作り直せるから】だ。
ひっくり返った机や椅子と、足元に広がるささくれだった板材の山を見てそれを悟った。
密室であるはずの会議室は、レジャーシートを敷いたように中庭に溶け込んでいた。
「ああ、会議室にいるのが誰かと思えば団長代理か。あれ、何故泣いているんだい?
【勇者】が来たからもう安心だ。それで、困りごとはないか!」
右手に宝石の埋め込まれた紅の剣、左手に狼の紋章が刻まれた蒼の盾を携えた、金色の男が胸にドンと手を当て、自信満々に”自分を頼ってほしい”という姿勢を見せている。
そう、【伝説の勇者】だ。彼は人助けをしていると思っている。
しかし、ミレイが泣いているのは恐らくというか、絶対この男が持ち込んだものが原因だ。
「何だ、このメガネの男は!!!僕のデータベースに登録されてない!!
司令室、こちら【機兵】、侵入者を発見した。交戦の許可を!交戦許可確認!!!
ミレイをよくもぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおお!!!!」
俺は日本で10m超えの人型ロボットを見たことはある。フィクションの話だ。
こういうのを現実で見るときは1/100とか、1/144のスケールで模型となった姿。
大砲やビームを発射できるものではない。
だが、目の前にあるのは原寸大、この世界で見るはずのない銃口にまばゆい光が集積している。
魔法じゃない、虚構の科学だ。
それが何故か俺に向かって理不尽として放たれようとしている!!!
「うぉおぉぉおぉぉ!!!何なんだよこれは!!!!!!!」
「おやめください。【機兵】、【勇者】。
私は無事で、彼はこう見えても客人です。しかも異界人、私と交渉していたところです」
涙を拭い、俺の前に立ったミレイは”いつものこと”と言わんばかりに淡々と話す。
それを聞いた原寸大のロボは銃口を空に向け、攻撃態勢を解く。
「はぁ、帰ってこなくてよかったのに……」
「トライデアの魔王討伐隊呼んだのはそっちのほうじゃないか。
【モリントワームの討伐依頼】があるから今すぐ来いって!」
「間に合ってないからですよ、それが。セカンドルの異界騎士団がもう倒しました……」
頭を抱えながらため息をつく彼女の顔からは絶望感が漂っている。
恐らくこの男とロボがミレイと同じトライデア異界騎士団ということは分かるが、それ以外が何も理解できない……
「くっ、俺の【撃墜数】が。一足遅かったか!」
ロボはレジャーシートに膝をつき、胸部が自動車のバックドアのように開いた。
自称エースパイロットが舌打ちをしながら開放部から飛び降りた。
そのパイロットはピクニックをするような呑気な格好ではなく、鮮やかな紫の、ぴっちりとしたパイロットスーツを着ている。
赤髪の青年。
蒼い瞳は獲物を探しているかのようで、異常にギラついている。
ここは彼らの拠点のはずなのに。
ああ、そうか。やっと理解した。
これが嫌われ者の人格破綻者。
この国の財政難の主犯、トライデア異界騎士団の魔王討伐隊。
そのうちの一人、金色の勇者が俺に向かって手を差し伸べる。
「もしかして君がモリントワームを倒したのかい?
私の名前は【勇者】。【トライデア異界騎士団の団長】だ!
魔王を討伐し、伝説の勇者になる男だ!相談したいことがあればいつでも教えてくれ!」
「あ、ああ。よろしく、団長さん……」
部屋だったものの凄惨な状況をものともせず、ハキハキと喋る姿に思わず気圧される。
金属と握手しているはずだが、何故か俺の体温より数段熱く感じる。
「フン、アンタが魔獣を倒したのか?俺は【機兵】!
【トライデア異界騎士団の団長】兼この部隊のエースパイロットだ!この仮は必ず返す!」
彼に危害を加えた覚えはないが、因縁を付けられている。
「ああ、分かったよ……!団長さん……?あれ、ここには団長が2人いるのか?」
「違う!【勇者】が団長だ!」
「違う!【機兵】が団長だ!」
同時だった。
「おい、約束が違うじゃないか【機兵】!魔獣狩りで最も貢献したものが団長になるはずだ。
魔獣狩りでは私が一番巨大な敵を倒していたはずだ!」
「【撃墜数】じゃ俺のほうが上だったはずだぞ、【勇者】!」
俺は人の話を聞くのは得意だと思っていたけど、違っていたかもしれない。
しっかり聞き取れているのに理解できないのは初めてだ。
出会って1,2分でもう関わりたくないと思えるとは……
「「なら、ここで勝負だ!!!」」
再度言っておくが、ここは王城の中庭。魔獣などいない。
しかし彼らは剣を抜き、再びロボットの中に入った。
そして武器を構えるのはその異界人同士。
「おい、まさかここで戦うのかよ!!」
「こうなるから嫌なんですよ、外に出ていってください」
ミレイがパチンと指を鳴らすと人格破綻者たちは目の前から消えた。
『行くぞ!!【レイズ・ハート】!【レイズ・ハート】!【ストーム・ゲイザー】!』
『うぉぉぉ!!!【デッドガトリング】!【サイファーブレード】!【全弾発射】!』
どこかへ消えたはずだが、爆発音とともに彼らの叫び声が遠くから聞こえてくる。
「ああ、ミレイさんが団長代理なのって……」
「人格破綻者たちがお互いに席を譲らないので私が代理です。
見ての通り、あの人たちに団長の業務はできなので私が全部やっているんですが……」
俯いて足元の瓦礫を避ける彼女の姿をみて、強く共感してしまった。
多分、あんなのがずっと国にいたら頭がおかしくなってしまう。
『【ダイナ・スマッシュ】!【レイズ・ハート】!【ジャスティス・オーバー】!!』
『くっ、弾切れか!補給物資を要請する!補給物資を確認!【全弾発射】!』
だから、【魔王討伐から帰ってきてほしくなかった】んだ。
「ちなみに他の異界騎士団にもっとマトモなやつはいないのか?
あなたは忙しそうだし、できればそいつと話をしたいんだが……」
「異界人はあと2人いますが、どっちも同じくらいのボケどもです」
「嘘だろ、あれと同じヤツが2人もいるのかよ……!」
背筋が凍るようだった。
俺とキョウヤ、セカンドルの異界人は当たりだったんだ。
『【通常斬撃】!【通常斬撃】!【通常斬撃】!!!』
『補給物資要請の却下を確認!【頭部バルカン】!【頭部バルカン】!【頭部バルカン】!』
その泥試合は夕暮れまで続いた。




