30話 アウトドアとオレンジジュース
自然溢れる山々、川沿いでアウトドアを楽しむ美女が1人、鼻歌を撫でマシュマロ焼き。
「フンフフ~ン♪ む! 良い頃合いデス!」
食欲そそるキツネ色、外は軽くカリッ、中は甘くとろける。
陽射し照り付ける夏に焼きマシュマロ、その暑さは今だけの調味料だった。
「ふぅ~……やっぱり暑いデスネー……こんな時は水浴びで涼むべきデスネ!」
人目もない彼女だけの独壇場、着替えに躊躇することなく開放感溢れる水着姿で水浴び。
海外暮らしでも単身でアウトドアを満喫していた、根っからの玄人。
「おや~先客がおりましたか~」
「ふにゅ?」
大荷物を背負った糸目の女性、身形からして相当の手慣れアウトドア女子。
キュピーンとお互いの目線が合い、お互いを一瞬で認め合った。
「これも何かの縁デス! 一緒に楽しみまセンカ?」
「んじゃ~お言葉に甘えるかな~よいしょっと~」
同じ趣味趣向を持つ者はいい人、天真爛漫なロゼは何時でもウェルカムな心広き器だ。
「ひゅ~冷たいね~キンキンだ~」
「足だけじゃ物足りなくないデスカ?」
「そうね~脱いじゃおっか~」
アスリート並みに引き締まった体、女性らしさもちゃんと残すバランス型。パシャパシャ水飛沫を飛ばす脚、にこやかな表情がとっても素敵。
「日本語上手だよね~独学?」
「そうデス! 日本大好きなんデス♪」
「努力家だね~わたし、家元海~お嬢さんは~?」
「ロゼ・シャルロットデス! ロゼと呼んで下さい♪」
「そうする~わたしは海ちゃんでいいよ~」
不思議な空気の海ちゃん、お手頃な岩辺で隣り合って座り、陽射しと納涼を両立。
「海ちゃんは良い身体してますけど、何かやってるんデスカ?」
「ただの運動好き~自然とこうなったんだ~」
「触っても?」
「どうぞどうぞ~」
腹筋や二の腕、脚に胸の触診を網羅、ホクホクと心が満ちる。
新たなカップリング構想が次々に溢れ、急ぎ足で荷物を漁りスケブに描き殴る。
「わぁ~凄い上手だね~絵描きさんなの~?」
「いいえ、趣味デス♪ 昔から絵を描くのが好きで同人誌もだしてマス♪」
「そうなんだ~わたしも好きな先生いるんだよね~」
スマホでペムペム検索、お気に入りの一枚を見せ、ロゼは目を丸くした。
「Oh! ワタシの作品じゃないデスカ!」
「あら~やんごとなき大和撫子先生だったんだ~」
「凄い偶然デスネ♪ 運命を感じマス♪」
「だね~でも、買った時ロゼちゃんいなかったな~」
「バッドなタイミングで席を外してたかもデス」
「そっか~あ、サイン貰ってもいい~?」
「もちろんOKデス! 特別にイラスト付きデス!」
即興で海ちゃんのお気に入りキャラとのペアイラスト、大事そうに抱え幸せ一杯。
「何かの縁だし~今度遊びにおいでよ~わたしは何時でも歓迎するよ~」
「では明日遊びに行きマス!」
「即決だね~」
翌日、地図アプリを頼りに海ちゃん宅を目指しテクテク、40階はある高層マンションへと行き着く。
気分はまるでワクワクドキドキが止まらない冒険家、オートロック機器で部屋番号をテキパキ入力。
『はーい~あ、ロゼちゃん~』
「こんにちは! 遊びに来まシタ♪」
『下に行くから、エントランスで待ってて~』
「お待ちしてマス! ふんす!」
優雅で豪華なエントラストをトテトテと小冒険、そんなこんなをしてる内にエレベーターの音。
「いらっしゃい~ロゼちゃん~」
「海ちゃん! 挨拶のハグをプレゼントデス♪」
「流石欧米育ち~体も心も温いね~」
先日のアウトドア玄人とは打って変わって、キャリアウーマンを彷彿させるスタイリッシュファッション。
エレベーターに乗り込みロックを解除、ぐんぐんと昇り続ける感覚はたまらない。
「到着~こっちだよ~」
「はーい♪ あ、ズカイツリーが見えマス!」
「怖くないの~? わたしは無理~」
絶景にキラキラと目移りしつつ、海ちゃんのあとをルンルンと追う。
「さぁ入って入って~」
「お邪魔するデス♪」
ピカピカな大理石の通路、通路脇には独創的なアーテイストの絵画、何もかもが新鮮で楽しい。
「そういえば、ここって何階なんデスカ?」
「最上階~フロア丸ごとわたしのとこだから、気兼ねなく過ごせるんだ~」
「高層マンションの最上階! 海ちゃん凄いデスネ!」
「そうでもないよ~さ、中にどうぞ~」
景色を独り占めする広すぎるガラス窓、数百人を余裕で招待できるリビング、あきらかに高級であろう家具の数々。
「映画みたいな部屋デス! 悪役の守銭奴もウハウハに喜びそうデス!」
「正直な子は好きだよ~さ、座って座って~」
アイランドキッチンで準備を始めるエプロン姿の海ちゃん、ニコニコと上機嫌。
オレンジ系統をミックスした果汁100%濃厚ジュース、勿論全てオーガニック仕様。
「凄い濃厚で甘いオレンジジュースデス! こんなの初めてデス!」
「お菓子もあるから一緒にどうぞ~」
普段お目にかかれないお菓子の数々、キラキラと宝石のようなクオリティ、言わずとも高級店の代物。
感情のままに食べ飲み、幸せそうな姿に気分は更に上機嫌、おもてなし甲斐があるってもの。
「お気に入りのボードゲームあるんだけど~ゲームとかって好きかな~?」
「アナログ系ゲームは好きデス! よく家族の皆と遊んでまシタ!」
「なら良かった~用意するね~」
2人用ボードゲーム・カイスター、シンプルながらも心理戦を楽しめる名作。
大人も子供と一緒に遊べる、非常にお手軽なボードゲーム。
「カイスター! 懐かしいデス!」
「説明は大丈夫そうだね~」
「いつもボードゲームでお兄ちゃんとお姉ちゃんにフルボッコされてマシタ。妹に優しくないお兄ちゃんとお姉ちゃんは大人気ないデス」
「目が死んでるよ~じゃあ、やろうか~」
ボードマスに駒をそれぞれ配置、ポチポチとお菓子を摘まんだり話をしたり、とてものんびりな時間。
「そうはさせまセン! えい! ……あー! BAD GHOST!」
「ロゼちゃんの負け~接戦だったのにね~」
「うぅ……とっても悔しいデス……もう1回デス!」
「いいよ~時間はたっぷりあるからね~」
海ちゃんの幸せそうな顔にロゼもほっこり、同時にカップリングの構想が脳内で練られていた。
「ねぇロゼちゃん~実家は恋しくないの~?」
「ん~……たまにありますが、スカイポにLINSテレビ電話もあるので平気デス! 貰いマス!」
「あ、取られちゃった~わたしも久し振りに連絡してみるかな……」
「きっと連絡したら喜びマスヨ?」
仕事ばかりでお盆や正月も顔を出せず、気付けば数年も経っていた。
裕福な生活、充実した仕事、時間を作ろうと思えば帰省はできたのにしなかった。
きっと結婚やちゃんと生活してるのかと言われるのが億劫で、ずっと意固地になっていただけ。
それらを言い訳にしていただけで本当は会いたい、会って大丈夫だって安心させてあげたい。
「あとで連絡してみるね。ありがとうロゼちゃん」
「いえいえ♪ これでワタシの勝ちデス! 頂きマス!」
「それバッドゴーストだよ~」
「NoooOO!」
歳の離れた女の子のお陰で勇気が出た、海ちゃんは心の底から感謝をした。
楽しい時間は瞬く間に過ぎ、帰宅の時間に。
「ロゼちゃんもお盆に実家に帰ってみたら~?」
「ん~今は大好きな皆といる方が楽しいデス!」
「そっか~また美味しいものとか、楽しいもの用意するから遊びに来てね~」
「ふぅ? ワタシは海ちゃんが好きなんで一緒にいるだけで十分デスヨ?」
見つめる真っ直ぐな瞳、彼女の言葉は何よりも温かかった。
「……ありがとうロゼちゃん」
大事な友達と巡り合えた海ちゃん、リビングテーブルに置き土産の百合本を読み、幸せな一日を過ごしたのだった。
「へぇーすげぇとこ行ってたんだな。そもそも何者なんだよ、その海ちゃんって」
「さぁ? 海ちゃんは海ちゃんですノデ」
「たく……ネットで調べるから、海ちゃんの苗字教えてくれ」
「確か家元でシタヨ♪ おトイレ、おトイレ♪」
自分が大丈夫だからと言って、実はとんでもない目に会うかもしれない。
もしもの時を考慮しすぐさま検索、トップリンクに正体が載っていた。
「ゆ、有名な女社長じゃねぇか……アイツのコミュ力パネェ……」
「どうしたデス?」
キョトン顔のロゼ、彼女の天真爛漫な性格は人を変える。




