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29話 日常とハニートースト

 彼女の朝は早い、起床時には崇拝する2人の写真へ合掌、そして瞑想という名の二度寝。

 ルーティンは体を目覚めさせる素晴らしい習慣、空腹もピッタリ鳴る仕様。


「おはようございます」

「おはよう……いつも寝ぐせが酷いな」

「えぇ。シャワー浴びて来ます」


 少し熱めのシャワーがじわりじわり、寝目覚め体が覚醒。身形の整頓、エプロン姿で朝食準備へと勤しむ。


「パンとご飯、どっちにしますか」

「パンの気分だな」

「分かりました。用意します」


 本格フレンチ料理並みのクォリティー朝食、彼女の手にかかればお手の物。


「仕事はだいぶ慣れましたか?」

「あぁ。毎日が刺激的だ」

「なら良かったです」


 朝食の当たり障りのない家族との会話、些細な事でもコミュニケーションを大事にする心掛け。


「行ってきます」

「気を付けろよ」


 目的地までは基本ランニング移動、毎日の適度な運動は欠かせない。


「綺麗に掃除しないとですね」


 常に清掃が行き届いた室内、清潔保持には手を抜けない。

 掃除とは心も体も綺麗にさせる、自然と動きに合わせ鼻歌が混じる。


「あ。また先越されちまったか」

「おはようございます。掃除手伝って下さい」

「言われなくてもやるっての」


 ライバルでもあり友人の副部長、身形に見合わず真面目な性格。


「なぁ、ハニートーストでも食ったか?」

「まぁ。犬並みの嗅覚ですね」

「嫌でも甘ったるい匂いがプンプンすんだよ。スンスン、ほら」

「顔が近いです」

「あ……んっん!」

 

 勝手に赤面、そっぽを向いて別の掃除をいそいそ。

 好物のハニートースト、その香りを嗅ぎ当てられるのは恥部を嗅がれたのと同義。侮れないライバル、今日も今日とて翻弄される。


「おはようございマース♪ 今日もお早いデスネ!」

「おはようございます」

「よぉ。今日は1人か?」

「後ろにいますわ♪」

「ひゃい!? んあ!」


 たぷんと持ち上げられるスイカ、後輩になされるがまま弄ばれる副部長。零れそうな部位が本当に零れないか、悲しい程に何もない胸を見比べるも変わらない。


「いい素材ばかりで素晴らしいデス!」

「どれどれ……(たお)やかで淫靡ですわ♪ 素敵です♪」


 スケブにはエロスを詰め合わせたデッサンだらけ、再現性の高い模写力はプロ級。

 いつもと変わらない室内風景、少し騒がしいぐらいが丁度いいと和やかに見学。


「たく……好き勝手しやがって……」

「その割に気持ちよさそうでしたわよ? んふふ♪」

「手の動きがやらしいな」


 マッサージの洗礼を毎回食らい続け、自然とサイズアップしているのが副部長の軽く悩み事だった。


「それにしても貧乳キャラがいないですね?」

「ちゃんと描いてマスヨ? 見マスカ?」

「是非♪ ふんふん~まぁ! こんな姿も♪ あらあら~細部まで緻密に……ほほーん……」

「アタシも見る!」


 崇拝し尊敬する先輩の1人の姿、日常生活の姿から寝姿までを網羅した変態デッサン。


「いつもお家にいるので隙あらば描いてるのデス♪」

「1冊お幾らですか?」

「タダでいいデスヨ♪ まだ数十冊はあるので♪」

「あ、アタシにもくれ!」

「どうぞどうぞ~♪」


 冷静さを装うも内心はうずうず、出遅れた事に後悔の念が滲み出る。

 そんな部長を察した後輩、甘い耳打ちで告げた。


「後日お渡ししまスネ♪」

「助かります。やんごとなき大和撫子先生」


 講義明けの昼休み、部室内で雨音を聞きながらパンを頬張る、勿論パンはハニートースト。


「……梅雨でなければ外で食べたいんですけどね……」

「なーに独り言言ってんだ?」

「……学食では?」

「人多過ぎで萎えた。よっと」


 向かい側でコンビニ弁当を広げ、モシャモシャとサラダに野菜ジュースと健康管理。


「てか、昼も同じもんかよ」

「迷わなくて済みますので。まむまむ……」

「極端すぎんだよ。おら、唐揚げやるよ」

「……どうも」


 口の中が甘じょっぱいさで広がり、小食派でも食欲が進む組み合わせ。


「にしてもよ……今年で卒業しちまうのは寂しいよな」

「ですね……今は研修ですし、あまり顔出し出来ないのも仕方がありません」

「あーあ……会いてぇなぁ~……」


 突っ伏して手足をパタパタ、心底好いているのが垣間見える。彼女と同じ気持ちではあるが、この場で話題の共有する以前にライバル同士。

 気持ちだけなら誰にも負けないと自負するほど、先輩達が大好きであった。


「でゅへへ……」

「急に何ですか。気持ち悪い声上げて」

「キモいは余計だ。この前お2人がここで転寝しててよ、こっそり撮ったんだ」

「隠し撮りは犯罪です」

「お前だって隠し撮りしてんだろ、知ってるぜ」

「ぐ……」


 スマホ使用用量の半分を占める隠し撮りやらのフォルダ、図星にぐうの音も出ない。


「ま、特別に見せてやってもいいぜ? ほれほれ~」

「……ムカつきますが見ます」


 お互いに寄り添って転寝するショット、秘蔵コレクションに加えたい欲が荒い息となって現れる。


「お、おい。テーブルに乗るなよ」

「データ下さい。他のも拝見したいです」

「ちょ、危ないって! きゃ!?」


 我を見失った結果、らしくない行動でライバルを押し倒し、胸をしっかりと鷲掴み。軽く力を入れるだけで沈む柔さ、思わず何度も揉みたくなる中毒性。


「物騒な物音がしましたけど、どうかしまし……あら~お取込み中でシタカ♪」

「ご、誤解です!」

「んっ! そ、それ以上揉むな!」


 感触がこびりついた手を眺める帰路、自分では決して味わえないことに虚しさが込み上げる。


「ただいま帰りました」


 シーンと静まり返った家、煩悩で思考が遅くなるもハッと思い出す。


「そうでした。今日は1人でした」


 夕食は冷蔵庫の有り合わせで充分、あとは気楽に自分の時間を過ごせる。少しばかりテンションが上がり、鼻歌を気持ち良くハミング。

 有意義な読書タイムに紅茶とお菓子、鉄板の組み合わせは至福の一言に尽きる。


 時間を忘れるほどに没頭、じわじわと催したくなる本能には抗えず、トイレタイムを見計らったかのようにライバルからのLINS電話。


「はい」

《今からそっち行く》

「何を言い出すと思えば……まぁ、いいですけど」

《おぅ、またな》

「……一方的ですね。相変わらず」


 前々から月に数回遊びに来る頻度だった、新学期に入ってからというもの頻繁に遊びに来るようになる仲に。


「……何ですかその大荷物は。バックパッカーになるつもりですか」

「へっ。お泊り道具だっての」


 化粧品ポーチ、ファンシーなパジャマ、巨大なクマの抱き枕。

 大きめの抱き枕がないと眠れない体質らしく、暴露したことを普通に恥ずかしがるアホっぷり。


「……で、子猫ちゃんはどうしたんですか?」

「え? あ、あぁ。猫好きの舎弟に任せてる」

「そうですか。お茶用意するので座って下さい」


 甘めのミルクティーに笑みが零れ、まるで実家のような安心感。


「はふぅ……親御さんはいねぇのか?」

「はい、今日は誰もいません。自由にくつろいで下さい」

「ふ、ふーん……」


 急にソワソワと頬を染め、ミルクティーで気を紛らわす分かり易い反応。


「丁度お勧めの映画を借りてるので、一緒に観ませんか?」

「お、おい……何で電気消したんだ」

「雰囲気ですよ雰囲気。ほら、始まりますよ」


 大画面に映し出されたのは圧倒的なホラー映画、ワクワクドキドキが止まらない。 

 一方、ホラー全般が大苦手なライバル、服にしがみ付いてガクブル。


「ひゃあああ?! 白い手見えたって! 見えたって!」

「く、苦しいので離れて下さい」

「いや! 傍にいてぇえええ!」

「……し、死ぬぅ……」


 鑑賞後も毛布ミノムシでガクブル、子犬並みに繊細なライバルの姿に好奇心。


「わ」

「ひゃあああ!? や、やめろ!」

「ふふ。いい声で鳴きますね」

「っ~!」


 涙目でポコポコ叩かれ愉悦に浸るSな面、ホクホクと内心で勝ち誇る。

 流石に可哀想と思い、ミルクティーを温め直しに向かうも、服をキュッと摘ままれていた。


「何ですか?」

「と、トイレ……」

「……行けばいいじゃないですか」

「ひ、1人じゃ怖くて行けない……」

「しょうがないですね……ほら、手を貸しますから立って下さい」


 扉前で待っててと耳に胼胝(たこ)ができる懇願、仕方がなく読書で待ち惚け。


「い、いる?」

「います」

「ほんと?」

「返事してるじゃないですか」

「録音したのじゃない?」

「……」

「え? え?! いや! 1人にしないで!」


 バタバタ慌しくトイレを脱出、大泣き寸前で目の前のライバルを睨みつけ。


「うぅ……意地悪……」

「しつこいからですよ。ミルクティー淹れてあげますから、機嫌直して下さい」

「いや……一緒に寝てくれないと許さない……」

「強気な貴方はどこに行ったんですか? しっかりして下さい」

「寝てくれないと泣いちゃう……うぅ……」

「わ、分かりましたから! 大の大人が泣かないで下さい!」


 最終的には振り回される外間ヶ丘紫音の日常だった。

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