23話 同人誌即売会とコスプレ
12月末、年に2度ある同人誌即売会が始まる。バズったアニメ漫画の二次創作、定番のものやオリジナル作品までが揃う。
そしてコスプレイヤー達による撮影会、参加者の中には柳家怜と外間ヶ丘兄妹。毎回異例の売り上げを叩き出す怜&紫音コンビ、誰しも圧巻の人気っぷりに注目する。
ただし今回は一味違う、古賀峰奈南がコスプレする事になっているからだ。
「こ、これに着替えるの?」
「採寸してあっから着れんだろ?」
「そ、そうじゃなくて……ろ、露出多くない? これ?」
「せっかくの二次元体だろ? 使えるもんは使わねぇとな」
現実にはあり得ない完璧な容姿、オタク業界では二次元体と呼ばれる。奈南はまさに二次元体そのもの、コスプレとの相性は頗る最高。ビキニとも言える衣服を持ち、改めて露出の多さに顔が火照る。場が場とは言え、大衆の面前で裸を曝け出すのも同然。
「ほら時間ねぇぞ」
「う、うん……み、見ないでね?」
「え? ガン見すっけど」
「も、もう!」
執拗な視線をグッと堪え、裸を曝け出す奈南。他のコスプレイヤーも思わず視線が行く、顔も完璧な二次元体の生着替えを。わがまま過ぎる体は同性すら惚れさせる最優良物件。
「生着替えだけでガッポリ稼げそうだな」
「は、犯罪だから! 怜の着替えも見るからね!」
「別にいいけど? ほら、早く着替えねぇと撮るぞ」
「むぅ……紫音ちゃんも何か言っ……あれ? 紫音ちゃんは?」
「……あ、いた」
奈南の刺激の強過ぎる裸体にノックダウン、幸せそうな顔に見下す怜。半端な脱衣は犯罪臭が香るも、場を弁えて欲しいもの。
「紫音、惚けた面でトリップすんじゃねぇ」
「は! 僕は何を! 貴方は天使さん?」
「アホ。とっとと着替えろ」
「される顎クイもいいで……あぅ!」
目を瞑りキス顔になる紫音、デコピンを貰い着替えを再開。美女達の生着替えに他のコスプレイヤーは手を止め惚け、完全に出遅れていた。
ブースにはジーザスこと外間ヶ丘真男が写真集の用意中、手伝いながら自身の役割を聞く奈南。
「私は何すればいいの?」
「ジーザス先輩と売り子だ」
「ここで売る係って事? 怜達と一緒じゃないの?」
「あらゆるアングルからの激写に耐えられるか?」
「うぐ……無理でしゅ……」
「だろ? ジーザス先輩もいるし、奈南はマスコットみたいなもんだ」
元々売り上げは大黒字だが、奈南がマスコットになることで会場内がバズる。写真集のグレードも倍々、過去作品も再版済み。
懐ウハウハな未来しか見えない、プレミアムゲームソフトも爆買いできると涎を啜る。
「じゅる……」
「お腹空いたの?」
「いや、ちょっとばかし未来を見てた」
「?」
キャラ設定になりきってるのかなと、可愛らしい一面にニッコリ奈南。
「生写真付きも有りだな」
「生……写真?」
「僕が所望します。幾らからですか」
「2000だ。プレミアムは増し増し」
「両買いで! ハァ……ハァ……な、奈南先輩……つ、ツーショット写真を……」
「あ。怜とのね! うんいいよ!」
「え」
インスタントカメラで怜&紫音のツーショット、生写真の金銭要求を忘れない怜。
「これはこれで……ふへへ」
結果が良ければ全て良し、ニヤニヤの止まらない紫音だった。各ブースが準備に勤しむ光景を眺め、ワクワクとドキドキが止まらない奈南。
「へっくち……少し肌寒い……」
「ほらよ」
「わっふ?! こ、コート?」
「羽織っとけ」
「うん! スンスンスンスン……」
怜と同じ匂いがする、バキューム嗅覚吸引で香りを刻む。
「じゃ、頼んだぜ奈南。ジーザス先輩、オナシャス」
「が、頑張ります! ふんす!」
「任せろ……完売は間違いなしだ」
コスプレ組が持ち場へ向かい、今か今かと開催のお知らせを待つ。アナウンスと共に人が流れ込み、場内が行き交う人々で埋め尽くされる。
「わ! わ!? こ、こんなに!?」
「奈南後輩……常連客が来る……構えろ」
「え! あ、はい!」
最強に最強が合わさった奈南達のブースは大繁盛、生写真の売り上げは予想を遥かに超える。特に女性人気が凄まじく、一目惚れする輩もいる程にカオス。
「お、お1人様各1冊でお願いします! あ、プレミアム生写真ですね! ありがとうございます!」
「未だかつてない程の盛況……2人も喜ぶな」
ものの2時間でブース内の在庫完売、絶え間ない接客に軽く疲弊した奈南。チューチューとチョコミルクを飲み、束の間の休みを取る。
「在庫を取ってくる……休憩時間を兼ねて自由行動だ」
「え? いいんですか? 運ぶの手伝いますよ?」
「奈南後輩……ここを楽しんでくれた方が俺的には嬉しい」
「んー……じゃあ少しだけ見て回ってきます!」
去り際に手を振られ、やる気が満ち溢れる真男、第2陣も完売してみせると。
美女コスプレイヤーが場内を回り、歩く宣伝広告となっている奈南。とあるブースの一角に人だかり、見覚えのある人物を見つけ近付く。
「ロゼちゃんだよね?」
「wow! 奈南ちゃん先輩! 来てくれたんでスネ!」
眼鏡姿に知的そうな服装のロゼ、ご主人と再会した犬の様に嬉しがる。昔から絵を描くのが好きで、暇を見つけコツコツ描き上げた同人誌が並ぶ。
「怜と隣同士が良かったんですけど、抽選なので離れ離れデス……」
「そうなんだ……これって同人誌……ってやつだよね?」
「はい! 百合本デス! お気にのカップリングを丹精込めて描き上げまシタ!」
「百合……見てもいい?」
「どうぞどうぞ~」
女学園ものの設定らしく、世間知らずなお嬢様と勝気な小悪魔女子2人の物語。繊細なタッチの絵柄、読み易く構成されたコマ割り、シンプルながらも引き込まれるセリフ。充分プロとしてやっていけるクオリティー、黙々と読み進める奈南の表情変化を楽しむロゼだった。
とあるページで手が止まりみるみる赤面、そのページをロゼへ見せつける。
「はだ、裸になってるよ! これ!」
「R指定なので当然絡みシーンもありマス♪」
「か、絡み……ゴクリ」
これから先の展開を見ていいのか、様々な葛藤が激流の如く巡る。行き着いた答えは勿論1つ、財布を緩め1000円を献上する。
「1冊下さい!」
「ありがとうデース!」
「あとで感想送るね! やんごとなき大和撫子先生!」
「はい! 楽しみにしてるデス!」
ロゼと別れ、ホクホクで百合本を胸に抱える奈南。美女コスプレイヤーが高クオリティ百合本を購入した、さぞかし尊いものなのだろう。後を追う様に客が殺到、ロゼの百合本は爆売れ、無事に完売を果たす。
目新しいものからマニアックなものに目移りする中、子供達の集まるブースが気になり並ぶ。
「こんにちは!」
「……ませ」
サングラスにマスク、ファンシーなコスプレ衣装の女性。口数が少なく声も小さいが、同人誌の売り上げは上々と見受けられる。
「見てもいいですか?」
「……ぞ」
可憐で愛らしいオリジナルキャラの表紙を捲り、1ページずつ眺める。平和な世界観にほのぼのストーリ、くどくないデフォルメ具合。思わず頬が緩み、財布も緩々な奈南は代金を献上。
「1冊下さい!」
「……ます」
「次も楽しみにしてますね! えっと……レナ先生!」
何度もペコペコ頭を下げ感謝する作者、奈南の後ろ姿を見送り、安堵の一息。
「ぶは! ……な、何で奈南の姉貴が……マジで心臓バクバクだし……バレるかと思ったぜ……」
レナ先生こと亜咲原美影、身バレ防止に変装する程であった。まさかの来客に尻窄み、ドギマギな接客に反省する。同時に自身の描き上げた同人誌を憧れの人に購入して貰えたことに、心底歓喜に酔い痴れ不敵な笑みを浮かべる。
「拝見してもよろしいですか」
「しらっしゃ……」
「やはり貴方でしたか。み・か・げ・さん」
「し、紫音?! こ、コホン……冷やかしに来たんですか?」
「ぷっぷっぷ……キャラがブレブレですよ……うぷぷ」
「ムカ……」
「まぁまぁ冗談はさておき、拝見してもいいですよね」
「あぁ、好きなだけ見ろ」
接客を脇目にライバルの反応が気になり、気が気でない美影。じっくりと目を通し終え、満足気な面立ちで一言告げる。
「……1人で描き上げたのですか?」
「少し舎弟達に手伝って貰ったぐらいで、あとは全部ワタシが仕上げた」
「ふーん……」
「な、なんだよ」
「1冊下さい」
「え。お、おぅ」
拍子抜けした顔のまま代金を貰った美影、満足気な紫音は告げた。
「貴方の愛が溢れた作品だと、僕にはそう思えました」
「ド直球で愛って言うなよ……勘違いされんだろ」
「愛してないのですか?」
「だから! なぁー……愛してるっての……」
「最初っから素直に言えば良かったんです。大事にさせて貰いますね」
年端もいかない女の子達がキャーキャー黄色い声を上げる中、去ろうとする紫音の名前を呼ぶ。
「紫音!」
「なんですか」
「そのコス……お前にピッタリ似合ってる……」
「……ありがとうございます……」
照れ臭そうに去って行く紫音の後姿、ガラでもない言葉を何故口走った事に赤面する美影。キラキラ瞳の女の子達がグイッと近付き、妙な事を口走る。
「お姉ちゃんはさっきの人を愛してるんですか?」
「な! ち、違……」
「またまた~素直になれないカップルなんですね!」
「ち、違うって……」
「照れなくてもいいんですよ? 私達、レナ先生の大ファンですから何でも受け入れます!」
「うぅ……」
涙目になるほど恥ずかしく、どんどん縮こまる美影であった。
一方撮影場に赴いた奈南、アニメや漫画のキャラが飛び出してきたコスプレイヤー達に興味津々。言わずとも二次元体の彼女も注目を浴び、カメコが後を追う。とんでもない原石が現れた、今日は伝説の誕生を見届けられるかもしれないと。
「あ、怜ー!」
「ん? おぉ奈南。休憩か?」
「うん! 凄い人気だね!」
「だろ? えっくし!」
熱気漂うブースとは違い、場内のエントランスでの撮影会。薄着も同然なコスプレの怜、貸して貰ったコートを掛けてあげようとその場で脱ぐ奈南。
「はい! 羽織っていいよ!」
「おぅサンキュー」
コートから放たれた二次元体、目の当たりしたカメコは撃沈。あまりにも刺激が強過ぎる、動くエロスに成すすべ無し。
「奈南……お前は伝説だ」
「ふぇ? わ! み、皆さん大丈夫ですか?!」
誰1人として伝説の撮影に成功しなかった同人誌即売会、成果は大黒字の大盛況に終わった。




