22話 デデニーと映画
歩幅の広い足を鳴らし向かう先、時刻を何度も確認する焦りっぷり。
本日は自身の誕生日、そして大事な友達の誕生日でもある。
集合場所は隣県の有名スポット大噴水場、リア充の蔓延る混沌の巣窟。
そこへ赴くのが古賀峰奈南、最高のお洒落着を拵えている。
自らが約束をした日、一生に一度しかない21歳の誕生日。
大噴水場には既に大事な友達の姿、一際目立つクォーター美少女。
「おまおまお待たせ!」
「いや早ぇよ。1時間前だわ」
「はぁ……はぁ……れ、怜の方こそ……」
「まぁ、これ飲んで落ち着けや」
飲みかけのプリンミルクを差し出し、自慢のバキュームで一気に飲み干す。
凹んだ紙パックにジト目な怜、飲み干す馬鹿がどこにいるかと訴えるが口には出さない。
「たく……ちゃんと男装してきたんだな」
「約束だもん! 胸はキツイけどね……」
ギチギチと今にも弾け飛びそうな窮屈なワイシャツ、ジャケットに黒パンツ。ウィッグで短髪になった奈南は美男子。
スタイリッシュな容姿に何度も確認する怜、これでカップルの気持ちが味わえると確信する。
「で? 今日はどこ行くんだ?」
「まずはデデニーアイランド!」
「ふーん……まずは、って事は他にも行くのか?」
「勿論だよ! 1日みっちり楽しもうね!」
「しゃーないな……付き合ってやんよ」
奈南の締まった尻を軽く叩き、楽し気な鼻歌で駅へと向かう怜。
すぐさま横を歩く奈南、当たり前のように腕を絡め幸せ一杯。
イケメンと美少女カップリングにモブ達が視線で追う中、物陰で監視する2名の人影があった。
「うぐっふ……2人の間に挟まれたい……」
「美影ちゃん先輩は欲に忠実デスネ~今はワタシが挟んであげマス! にゅっふふ~」
「こ、これはこれでまた……ふひ」
ウィッグを被り変装する美影にロゼ、先輩達のデートを見届けるため同好会を代表し尾行。
紫音は前日から風邪で寝込み、泣く泣く美影に今件を譲っていた。
「は! い、行くぞロゼ! 2人を見失っちまう!」
「はいデス! 名探偵ロゼにお任せデース! フフフーン!」
「ば! 声デカいって!」
「ンー!」
黒髪ロング眼鏡と清爽系に変身している美影、胸を隠す短髪茶髪ボーイッシュ姿のロゼ。
傍から見ればギャップありなカップル、周囲に本来の姿を知る者は誰もいない。
最寄り駅のホームで楽し気に談笑する先輩達、適切な距離感でキュンキュン胸高鳴る美影の下へ、ロゼがジュースを両手に戻る。
イチゴミルクを差し出す間際、ちょっとした悪戯心がキュピーンと発動する。
「ひゃ!?」
「何時聞いても可愛い声デス……にゅふふ」
「いきなりほっぺに当てんなよな……でも、あんがと」
「今は美影ちゃん先輩の彼氏ですから当然デス! ほっぺた、キスで温めまスヨ?」
「え、ここで……」
「もうしちゃいまシタ……柔らかくて気持ち良いでスネ……」
ボッと顔を真っ赤にさせポコポコ照れ隠しする美影、痛くも痒くもない可愛らしい表現、ロゼはニコニコ満面な笑み。
「見ろよ奈南。あそこのカップル、イチャ付いてるぜ」
「み、見ちゃダメだよ! チラ」
「むっつりが」
「た、たまたまだよ!」
案の定カップルの正体がロゼ達とは分からなかった2人、軽く肝を冷やす尾行組だった。
電車に乗り込みデデニーアイランドへ、同乗者の目的地も勿論同じである。
尾行組は隣車両で様子を窺い、仲睦まじい姿を目に焼き付ける。
「どこにいても最高だぜ……デデニーも楽しみだぜ!」
「美影ちゃん先輩~口調が少し乱暴でスヨ~?」
「お、おぅ、そうだな。声でバレるかもだもんな」
「さっきみたいに可愛い声になればバッチグーデス!」
「か、可愛い言うな……恥ずい……」
デデニーアイランドに到着した4人、誕生日割引きで格安入場した先輩達。
年パス持ちの美影、ロゼはフリーパスを購入、距離置き尾行を続ける。
「見て見て! モッヒーとモニーいるよ!」
「著作権そのものだな。近付いたら消されそうだな」
「もう……は! モッヒー達と写真撮って貰おうよ!」
「ちょ! 引っ張るな!」
ズリズリと撮影列に並び、モッヒー達に挟まれ記念写真get。
モッヒー役のバイト君は思った、このイケメンからただならぬフェロモンを感じると。
モニー役のバイトちゃんは思った、美少女尊いペットにしたい……でゅへへと。
愛想振りまく業務を忘れる程、ハスハスと興奮状態に陥ったバイト達であった。
同じく中身になりたいと心の底から思う者がいる、膝から崩れ落ち涙を流す美影であった。
「美影ちゃん先輩~怜達が行っちゃいまスヨ~?」
「ぐっふ……モッヒー達になりたかったぜ……」
「もう……」
彼女がズリズリと引きずられる謎景色、本日のデデニーは一味違うと客の思いは一致していた。
とあるアトラクションで立ち止まる奈南達、圧巻な規模に見上げる。
「ビクトリーボルト山脈……いつ見ても大きいね」
「だな……」
怜の視線は隣に立つ隠れビクトリーボルト山脈に向けられている、こっちの方がよっぽど立派だと。
視線に気付き照れ隠しに抱き着く奈南、歩き辛さもありつつ直行する。
尾行組はというと血の気の引いた美影が微動だにせず、ロゼがジュースを飲み覗き込んでいた。
「あ、アタシは遠慮する……」
「苦手なんデス?」
「コースター系がどうしても苦手でよ……小さい時、怖さのあまり漏らした……」
「oh……トラウマってヤツデスカ。実はワタシも苦手でして……」
「だったら大人しく見守ろうぜ」
「デスネ。代わりに美影ちゃん先輩とイチャイチャするデース!」
「お、おぅ!」
ラブラブ腕組みで人気飲食店へ、カップルドリンクの一本ストローで飲み合う。
目線を逸らす美影、嬉しそうに見つめるロゼ、オムライスとグッズ付きランチプレートが届く。
「あーんでシェアするデス!あーん」
「ま、マジか……あ、あーむ……」
「間接キス……でスネ……」
「にゃ!?」
「にゅふふ~美影ちゃん先輩の反応は見てて楽しいデス……」
後輩に翻弄される元レディースのトップ、隠密行動で見守りに来た舎弟達は声を押し殺し興奮を抑えていた。
イチャイチャ食事を存分に堪能、尾行を再開する事に。
「やっぱり最高だったね!」
「し、心臓がゲロるかと思った……うげぇ……」
「少し休憩しよっか」
抹茶ラテとホットプリンをベンチで食らう奈南と怜、手を温めながら白い吐息が漏れる。
キャラクターパレードを眺め、モッヒー達に手を振り楽しむ。
「キャー! モッヒー! アタシにも手を振ってくれ!」
「み、美影ちゃん先輩……大はしゃぎでスネ。飾り耳もいつの間にか着けてマスシ」
「ロゼ! 手振ってくれたぜ! アタシに! キャーキャー!」
「ゆ、揺らさないで下サイ! ううぇええ!」
純粋な子供のお手本反応な美影、あまりの可愛さに舎弟達は鼻血を垂れ流す。
一生貴方について行きます、彼女らは心で改めて誓った。
数々のアトラクションを満喫し夕暮れ時、デデニーを後にした奈南と怜が向かった先は映画館。
「DFの映画観たかったんだよね?」
「お、おう」
チケット購入後、ポップコーンとジュース両手に館内へ向かった奈南と怜。
しっかりと何を観るかを確認した尾行組、仲睦まじい先輩達に頬がゆるんゆるん。
「ウキウキの怜の姐さん……めっちゃキュートだったな!」
「家だと頻繁に見られまスヨ~?」
「っく……ルームシェアが羨ましいぜ……とにかくDFはあまり知らんがアタシらも続くぞ」
「チケットはワタシにお任せ下サイ!」
「じゃあ、アタシは飲みもんとか用意するぜ」
準備完了し指定場の館内へ、既に多くの席が埋まる人気っぷり。
グッドタイミングで暗転、予告が始まり違和感にようやく気付く美影。
「……おいロゼ」
「何デス?」
「これ恋愛映画じゃねぇか!」
「観たいものを観るのは当たり前じゃないでスカ」
「そこだけ冷静にならんでくれ」
後輩に振り回され翻弄される美影、掴み所のない性格に苦労する。
一方その頃、奈南と怜はスクリーンに噛り付いていた。
「ぺティーちゃん……スクリーンから出てきておくれ……でゅへへ」
「涎出てるよ」
涎を拭ってあげ、落ち着くように世話焼き係な奈南。
謎の一体感の生まれている館内はカオス。
「ほわわわわ!? や、野郎があんな! ロゼ! 出ようぜ! ここから先は大人の世界だ!」
「上映中は静かにして下サイ。キスで塞ぎまスヨ」
「ぴゃむ……す、すまん……ひょおおおお……」
真っ赤な顔で目を手で隠し、隙間から大人なシーンを鑑賞。
美影の反応を知っていながら濃密ラブロマンスをチョイス、映画そのものはロゼにとって幸福道具に過ぎない。
上映終了後、火照った体を冷ますのに落ち着く美影、ロゼはホクホクと肌艶がモチプリに。
「たく……今日眠れないじゃん……」
「美影ちゃん先輩ってむっつりですヨネ~」
「ち、違うわ!」
「にゅふふ~ワタシが上書きしちゃいましょウカ?」
「な、何言ってんだよ!」
否定する割に悪くない話だと思った美影、正真正銘のむっつりだった。
後輩達のイチャイチャ中、背後から2つの気配。
「聞き覚えあると思えば、お前らかよ」
「美影ちゃんにロゼちゃんだよね?」
「ば、バレちまった……」
「サプライズデース! れーい!」
「ほぐぅ!?」
半日振りのスキンシップは過激、人目を気にせずに頬擦り。
「ところで……ロゼちゃんは何で男装してるの?」
「男になりたい気分だったのデス! 胸が窮屈で仕方がありまセン!」
「美影も清爽系も似合うな」
「こ、光栄です! ふへ……ふへへへへ……」
あの美女達は一体何者なのか、その場に居合わせたモブ達はもんもんと眠れない夜を過ごす。




