表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/69

25

「セドリック、早くしろ」

「レオポルド、わかっているよ。私にアン嬢の寝顔を見せたくないのだろう?」

「当たり前だ!」


 よく言いますよ。せっかく御髪をなおして薄化粧をほどこしたのに、お嬢様は悪魔のマントにすっぽりと隠されているではありませんか。お嬢様の寝顔など、ちらりとも見えませんよ。


「まず今から話すことは他言無用だ。秘密を抱えたくないものは出ていってほしい」


 殿下が真剣な顔で言われました。

 マーサさんの表情が一気に固くなりました。自分では見えませんが私も同じなのかもしれません。お嬢様のために重い秘密を背負う覚悟があるのかと問われている気がします。

 殿下が一人ひとりと目を合わせて意思確認を取ってから、表情をゆるめ、いつもの麗しの微笑みを纏われます。


「では少々長くなりそうなので、皆、私を気にせず飲み食いしながら聞いてほしい」


 殿下自ら、優雅にカップを口元に運ばれて、私たちにも飲むようにと目で促されますので、ポットから紅茶を注ぎます。香気に少しだけ気持ちが安らぎます。

 それぞれが喉を潤したのを見て、殿下が語り始めます。


「三週間前のことだ。私の情報が漏洩している可能性が浮上した」


 殿下が言葉を区切りながら話されるのは、私たち聞き手に話の内容をしっかりと理解させるためでしょう。


「視察先に遠隔の攻撃魔法装置が見つかった。そのため、視察先を急遽変更した。しかしその変更先に刺客が現れた。刺客は火炎攻撃の魔法具を有していたが、使用前に護衛騎士が捕縛した。しかし直後に服毒自殺したため、刺客が何者であるのかはわからなかった」


 自分を狙った刺客について話しているのに、殿下は微笑みを崩されません。その微笑みを切なく思ってしまうのは、殿下の打ち明け話を聞いたせいでしょうか。


「予定変更を知っていたのは私と侍従のカイン、そして私の専属護衛騎士たちだけだ。その中に内通者がいると、疑わないほうが難しい」


 侍従と専属護衛騎士という、殿下にとって極めて近しい存在の方々を疑うことに、殿下はお心を痛めなかったのでしょうか。

 そういえば殿下といつもご一緒のカイン様を今日は一度もお見かけしておりません。


「押収した魔法道具はどちらも高性能、一緒に回収した魔石は高級品。背後にいる人物はかなりの資産家か権力者、あるいは両方。それか国家だと思われた。その黒幕をあぶり出すために、あえて護衛騎士たちへの尋問は行わなかった。あの魔法具はいい拾いものだったよね、レオポルド」


 悪魔の眉がぴくりと反応したのを見て、殿下は楽しそうに続けられます。


「その魔法具はうちの国のものよりいくらか高度だったから、プライドを刺激された魔法道具課の新人が発奮して、それ以上のものを作ってくれたんだよ」


 悪魔はポーカーフェイスを気取っていますが、口元がひくついています。


「あれ? まだ入省前の学園生だったかな」


 殿下は悪魔をからかうことがお好きなようです。


「余計なことはいいから、早く話せ」

「レオポルドがかわいい顔で怒っているから、続きを話そう」


 悪魔は憮然とした表情ですが、殿下は平然としていらっしゃいます。


「そのとき刺客を捕らえたのは私の専属護衛騎士隊の副隊長のロナウン、遠隔魔法道具を見つけたのが同じく騎士隊の魔法騎士のフィリップだった。その二人が急な体調不良で今日の護衛に立てなくなった。二人は数人の騎士仲間と一緒に昨晩酒を飲み、帰宅直後に発熱と嘔吐、激しい腹痛に見舞われた。一緒だったほかの騎士たちも全員ダウンしている。しかし調べたところ、その騎士たち以外に体調不良を訴えた客はいなかった。それで二人を護衛から外すために誰かが画策したのだと、私たちは結論づけた」


 騎士の方々が毒か薬を盛られた可能性が高いとは怖いです。


「騎士隊の隊長シーンハルクは娘の入学式に出席するため休暇願を出していた。それでロナウンが今日の護衛の責任者に決まっていたが、急遽、魔法騎士のレックスが責任者になった。同時にレックスが内通者の最有力候補に浮上した」


 今日は最初から殿下の護衛は手薄、そして騎士レックスは初めから疑われていたのですね。


「ファーストダンスのあと、私はすぐに王宮へ戻る予定だった。しかし外の見張りに立っていたカインが不審者に気づき、乗る予定だった馬車を点検したところ、攻撃魔法具が仕掛けられていた」


 カイン様をお見かけしなかったのは外にいらっしゃったからなのですね。


「複数の不審者が見つかっていたため、不明な点が多かった。全員が同じグループなのか、内通者とつながっているのか、いないのか。私だけが狙われているのか、違うのかなど、色々ね。それで王宮へ応援を頼むと共に、私と背格好の似ているカインに私の上着を着せて、馬車に乗せて王宮方面へ走らせた。護衛騎士は数人だけつけ、不自然にならない程度にレオポルドが幻影魔法で騎士を増やして見せた」


 悪魔が火種嬢を置き去りにした理由と、殿下が上着を脱いで戻られた理由が判明しました。


「しかし刺客は誰もその馬車を追わなかった。レオポルドとそれからギルの護衛騎士たちが見つけ出した刺客は七人、そのうちの一人がレックスだった。バルコニーから侵入してきた四人の刺客のうちの一人とつながっている通信具をつけていることに、レオポルドが気づいたのが決め手だった」


 通信具が誰とつながっているのかまで悪魔にはわかってしまうのですね。では私たちがつけている複数通信具も悪魔には誰から通信が入っているのか、応答する前からわかっているのでしょうか。


「不審者には見張りをつけていたが、そのうちの二人が護衛騎士を巻いて逃げた。その二人が単独なのか、違うのか、暗殺が目的なのか、ほかに狙いがあるのか、何もわからなかった。それでレオポルドはバルコニーの四人を侵入させておびき出そうとしたんだろう?」


 悪魔が頷きます。


「四人の刺客が侵入のため窓を割ったと同時に、私はセレナを抱いてレオポルドたちのそばへ飛び下りた。刺客たちはレジナルドが築いた防御壁に当たって床に落ち、レジナルドと数人の騎士に捕獲された。ここまではいいね?」


 各自が頷いたのを確認して殿下が続きを話されます。


「二階にいたカーター伯爵方は叔母上の結界の中に、セレナはアン嬢とギルと一緒にレオポルドの結界の中、そしてギルの魔法歌で眠らされたものたちはレオポルドが防御壁で覆った。結界に閉じこめなかったのは、その中に不審者が混じっている可能性があったからだ」


 やはり悪魔はあの大人数全員に防御魔法を使っていたのですね。本当に計り知れない魔力です。


「眠らなかったのは防御の魔法具を身につけていたものたちと、ギルよりも魔力があるものたちだけだ。二階では叔母上の結界の中にいた伯爵方と、シーンを含めた数人、そしてレックス。下ではレオポルドの通信具をつけていたギルの護衛騎士たち全員と、壇上の数名だけだった」


 壇上にも人がいたことをすっかり忘れていました。殿下や私たちのほうに向かって放たれていた攻撃魔法は、壇上の方々にとっても脅威だったことでしょう。


「レジナルドが上にいる間は動かなかったレックスだったが、レジナルドがいなくなると、攻撃を開始した。あとは見ていた通りだ。攻撃は私には届かず、縄にかけられた。その慌ただしい中、入り口の護衛騎士を倒して侵入してきた女の刺客が攻撃を始めた」


 あの悪魔に氷漬けにされた女性の刺客ですね。


「すぐに捕らえなかったのはあと一人いるはずの刺客を待っていたからだ。しかし新たな刺客は現れなかった。王宮から応援が駆けつけたからかもしれないが、真相はわからない」


 ダンス曲二、三曲の間に駆けつけられたなんて、王宮の応援とは魔法騎士の方々だったのでしょうか。転移でもしてこなければそんなに早く到着するはずがありません。


「レックスは金で雇われただけだった。そのレックスの雇い主がまだ見つかっていない。自称ドラン国出身で魔法力の高い二十代男性。混乱に乗じて逃げたのか、まだ潜伏しているのかは不明だ。この男の狙いは私の命だとわかっているが、女の刺客の狙いはアン嬢だった」




 息がとまるかと思いました。




 攻撃が向けられているような気はしていましたが、狙いがお嬢様だったなんて。信じられません。信じたくありません。


「アン嬢を狙ったのはミニダス帝国だ」

「ミニダス帝国!?」


 思わず声を上げられたのは旦那様です。


「ああ、ミニダスだよ、伯爵」

「どうして、どうしてアンが狙われるのです」


 今度は奥様が涙声で訊かれます。今にも泣き崩れてしまいそうな奥様の肩を旦那様がそっと抱かれました。


「ミニダスは我が国と友好条約を結びながら、もう何十年も前から我が国を狙っている。我が国は面積も国力もミニダスには及ばないかもしれないが、魔法力だけは格段に上だ。逆をいえば、魔法力さえ手に入れば、我が国と戦争をしても勝てるとミニダスは思ったのだろう」


 ミニダス帝国はとても好戦的な国として知られています。


「ミニダスはこれまで何度も我が国の魔法力のある人物を婚姻で取りこもうとしてきた。実際にミニダスへ嫁いだ女性も少なくはない。しかし今のところミニダスに卓越した魔力持ちは生まれていない。それでミニダスはレオポルドを欲した」


 レオポルド様が旦那様方に向かって、深々と頭を下げています。こんな悪魔をかつて見たことがあったでしょうか。


「何度もレオポルドへの結婚の打診はあった。公爵家へも王家へも。しかし知っての通り、レオポルドにはアン嬢しか見えない」


 悪魔は頭を上げません。


「それでアン嬢の存在を疎ましく思ったミニダスが刺客を放った。これについては我がクリスタルスト国から正式に抗議することに決まった。しかしミニダスが認めるとは思えない。そしてこの先アン嬢へ刺客を放たないという保証もない」


 震える体を自分で抱きます。今回のような危険がこの先も続くかもしれない。その可能性に目の前が暗くなります……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ