次男は居てもたってもいられなかった
区切り方おかしいかもしれない…
元サルスムーナ帝国の有していたスデルーク城。
およそ8年程前に赤い竜が住み着いた事を皮切りに、
帝国は多くの兵を出兵させて奪還を図るも、
その悉くを竜によって撃退されていった。
やがて帝国の軍や上層部の決定によりスデルーク城は放棄。
それにより帝国本領からスデルーク城までの間の村々も竜に畏怖し人口は見る間に減り荒廃していった。
スデルーク城北部にはクムルンランドという名の不可思議な国が近年立ち上り、
西側には屑砂砂漠と呼ばれる砂漠が広がる。
そして東には忌み死にの森と呼ばれる大森林。
南にはスデルークを見棄てたサルスムーナ帝国が位置する。
南東にはグングニラ聖教国もあり、
三つの大国に挟まれたそこは軍事拠点としてとても理想的な位置にある。
しかし、サルスムーナ帝国が手を引いた後もグングニラやオルグラフィアといった軍事力を持つ国も竜を相手に返り討ちに会い、攻めあぐね諦めるようになっていった。
スデルーク城に居座る赤い竜は炎を司ると言われており、
一瞬で人の身など焼き尽くす灼熱の炎、それに比例した青銀の氷を出現させる。
熱を操る上での副産物ではあるが、
闘いの場においてはその氷が死角からの壁として活用される。
同時には出せぬものの他を寄せ付けぬ戦法を可能とし一方的に他を蹂躙する事の出来る竜である。
尚、この竜は伝承にも残されており、
他に風を司る竜に、水を司る竜、闇を司る竜と光を司る竜がいるとされている。
どの竜も伝説とされており、
実際に見た者は生きてはいない。
その為眉唾物の物語とされていたが、
炎を司る竜の出現で、各国が竜の力を欲し、
各国の水面下では軍事力として竜を操る研究と、
各地に散らばる竜の遺跡への調査が進められている。
そんな事は露知らず、契約を結び私利私欲の為に竜の力をもて余している者がいる。
それがこのスデルーク城に赤い竜と共に住むアリシア・ローリア・コ・ロルデ・カラット姫である。
元はサルスムーナ帝国の王位第13位の王族であり、今では国に棄てられ、竜に囚われた姫君という状況。
近隣諸国には
アリシアを見初めた竜に母親、執事達諸とも氷漬けにされ、城に幽閉されている姫。
…ということになっている。
そんなアリシアは今日も変わらずに城で王子様を待っていた。
「この頃、私を助けに来てくれる軍が少なくなってる…」
近隣諸国もアリシアと財宝、赤い竜の力を諦めかけていた。
それというのも大陸一のオルグラフィア王国は国内での権力争いの激化、
続くサルスムーナ帝国は竜による被害を被り軍は疲労困憊。
常に好戦的なグングニラ聖教国ですら赤い竜には手をつけれない状況だった。
コルトバッツ貿易港国は元から静観の姿勢を崩さない。
地理的に一番近いクムルンランドは監視体勢のまま6年間も不動。
ムールヌーガに関しては我関せずと元より興味すら示さない。
そんなこんなで今現在竜と争い、捕縛する余力のある国は大陸にはなかった。
それでも一部の貴族は竜と姫を手に入れるべく、盗賊は竜の隙を狙い宝物を手に入れようと画策してくる。
幾多の軍を撃退し葬ってきた竜の純然たる力。
そんな伝説の竜をも虜にする美貌の囚われの姫。
多くの軍や冒険者が撃退される度に増えていく遺品という名の魔法武具や、宝物。
それらを踏まえても
もはやスデルーク城は手に負えぬからと言って忘れることすら出来ない程になっていた。
ミルオ・ロ・レルド伯爵の軍が殲滅されて十日ばかりが経った頃、
また数こそ少なくなっているものの五百を越える軍が同じ鎧を装着し、ナウレラロッジ渓谷を進んでいた。
その先頭に幾つもの宝石を溶接し、
飾り付けてあるきらびやかな鎧を着た若者はデジャヴの様に近衛兵に声をかけた。
「隊長、あとどれくらいで着きそうか」
それに応じる隊長も
「ハッ、この速度を維持しておりましたらあと半刻もあれば着くと思われます!」
声をかけた青年も声をかけられた側もまだ鎧が慣れぬようで馬に乗りながらも時折鎧同士の噛み合わせを確認していた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
その頃のアリシアと言えば半身浴に興じていた。
日々の肌のケアは怠らない。
都から仕入れたという翼のオイルで保湿をしていく。
やがて、
ベッドに潜り惰眠を貪り始め、やや10分弱で歓声がわきあがる。
先日から特に日数も経っていないのに、またすぐ来るなんて驚きと迷惑半分な気持ちでもそりとベッドから起きあがる。
そして慣れた様にいつもの化粧台へ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「これが伝説の竜か……これが私の父を…」
この軍の全指揮をとるカルジ・ロ・レルドは伯爵家の次男であった。
生まれながらにして当主になることは叶わず、家を盛り立て支える脇役を約束された身だ。
だがカルジはその事はあまり気にしていなかった。
彼は心より父を尊敬し彼が決めたことは絶対であったからだ。
かつて帝国の懐刀とまで言わしめた彼の父親もこの竜には為す術もなく殺されたと聞いている。
逃げ帰ってきた兵の話によれば、
伯爵は竜の口に飲み込まれたのを最後に
最後まで吐き出さなかったという。
「父の敵わなかった相手を私が出来るとは思わない、だが当家の宝剣と首飾り、叶うならば父の遺骨の一部でも持ち帰れないだろうか。」
そんな事を考えつつも頭のなかには一人の少女を思い浮かべていた。
今よりずっと前になる、
一度だけ見た少女は皆の前では凛とした姿勢を崩さず、
幼いながらにも貴族としての振る舞いを完璧にやってのけた。
大人達からも賞賛されていた覚えがある。
しかし、一人になったときに庭園で泣いていた彼女を見てカルジはホッとした。
彼女もまだ年相応の女の子であると、
それと同時にその姿がカルジには美しく見えた。
そしてカルジは彼女とは違う涙を流した。
それ以来、彼女と出会うことはなかった。
月日は流れても、彼女のことを不思議と忘れたことはなかった。
内心また会えるかもしれないという高揚感を胸に押込み、
今やらなければいけないことを必死に思い出す。
今回はただ他城に行くわけではない、竜がいる死地に踏み込み
レルドの宝剣とレルド家の徽章を取り戻すのが最優先事項である。勿論どこにあるかなんてわからず、現地で探すしかない。
ただ父の鎧は見ればわかるはずなので、竜と交戦したと思われる
一帯から少し離れた所で陽動を行う予定である
ごくりと喉を鳴らし、カルジは軍に向かって指揮伝達をしていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
つけたしつけたし。




