杖のミュール ①
※今回はミュールさんの視点からです。
かつて七高の1人と呼ばれ、
杖を扱わせれば右に出るものはいないとまで言わせしめた魔女。
アンブローズを師として
師をも越えた最強の魔女、ミュール。
そんな彼女もこの作品の中では割りと重要人物です。
いつもの部屋なのに今日は起きてからいつも通りに過ごしているもののソワソワして止まない。
そういえば久しく前線に出ていない。
マトモに大きな魔法を使ったのはかれこれ130年近く前であり、全盛期の様な魔力は今の自分にはない。
自分も前線に出るとは言ったものの少し後悔し始めていた。
魔王と命懸けで戦って早130年。
戦いから解放され、やっと手に入れた平和な世界。
魔王はいなくなっても魔族や魔物がいなくなった訳ではないから自由連合という物を創設した。
少しでも魔物に立ち向かえる人間を増やす為だ。
それは自分が直接戦う事を怖れていて体のいい言い訳を振りかざし、自分を戦いから遠ざける為の手段の一つだった。
そんなことを考えていると
「ミュール、お茶が溢れているぞ」
「へ?」
年季の入ったドワーフが驚いた様にミュールの手元を指差す
そういえば紅茶をカップに注いでいる所だったのを忘れていた。
「大丈夫ですか?」
すかさず高齢ではあるものの渋みのあるエルフが駆け寄ってくる。
それを手で制止しながら
「あつっ」
ついスカートに紅茶を溢したようだ、
「え」
「…本当に大丈夫ですか?ミュール。」
「最強の魔女もついに年貢の納め時か?」
「バウエル、ミュールは繊細なのです。きっと竜との戦いを前に考えることがあるのでしょう、大丈夫ですよ?ミュールは私が護りますので。」
「いやいや、ひょろひょろのガリガリなんかにゃ護れはせんわ!儂が護ってやるんだ」
150年来の仲ではあるが、2人とも変わらない。
「大丈夫よ、ちょっと考え事があっただけ。」
軽く手を振るとティーカップとポットを魔法で下げ、立ち上がる。
手でパッパッとスカートを払い、一瞬で染みごとなかったかの様にお茶を溢す前の状態に戻した。
今の自分は所謂隠居だ。
しかし、ギルド創設以来、
所属する者に私達、かつての七高の一人にでも敵う人材はまだいない。
魔王というのは倒されても残留する魔力を糧に世代が代わる毎に強くなっていくと言われている。
七高ではないが、偉大なる賢者アンブローズも後進を育てる為に「五剣」という大陸を代表する剣士を集めている。
確かに剣士というものは汎用性が利き、どんな状態においても一定以上の強さを持つ為、パーティーとしては心強いが勿論剣士だけでは長く続く戦いを上手く回せない。
つまり、回復役や補助をするサポートをする存在が必要になる。
勿論戦闘中に足を引っ張らない様にそれなりに前衛職に引けを取らない位の強さが必須だ。
ただでさえ素質のある人数が少ない回復役や魔法使いは後進が育ちにくいのに、
アンブローズが五大国と連携して用意した五剣は、魔法の素質があるものまで魅了し、職業としての剣士の人気を多く勝ち取ってしまった。
アンブローズには自分も中々頭が上がらないし、かつての師であることも災いし何も言い出せずにいる。
このままでは魔法使いや僧侶なんて職業はほぼ潰えてしまう。
そうなれば戦線維持も難しく、魔族に対しても敗北する未来が見えてしまう。
かの大賢者アンブローズは何を考えているのか。
そんな事を考えてはいても自分は自分の出来ることをする他ないし、
折角育ってきた自由連合の魔法使い達も竜にぶつけて傷も付けたくない。
ならば一番倒す確率が高くなるのは生き残りの七高三人が討伐パーティーに加わる事になるのは自明の理だ。
全盛期の自分よりもやはり今は衰え、およそ出せても70%前後
バウエルやハウゼのステータスもそのくらいに落ち着いている。
化粧台の椅子から立ち上がり、
前勇者から貰ったまりょくのうでわを目を閉じ握りしめる
七高として共に戦っていた際に貰った腕輪だ。
効果は下の中。
剣の勇者と共に駆け出しの頃の話だ。
「どうか、私に力を貸して…レイド」
今はいない勇者の名前を呟くと
ノックの音が聞こえる。
「ミュール、そろそろ行きますよ。」
ハウゼだ。
「えぇ、今支度が終わった所よ」
腕輪をはめて扉を出ていく。
「待ってましたよ、」
「カカッ、久しいのぅ。この面子で戦闘に立つのは…なぁ、我が愛しの魔女さんよ」
「何を言ってるの?これで本当に終わりにするんだから。後の世代に繋ぐためにも…終わらせるわよ」
「おうよ!」
「…。」
「?」
ハウゼは無言のまま私の腕を見ていた。
「久しぶりにみましたよ、その腕輪」
「初心に立ち返って挑む、そういう意味の呪いよ」
笑顔をつくってみせる。
「哀しみの匂い…」
小さく呟くハウゼの言葉にミュールは気付かなかった。
久しぶりにアリシアの世界、続きの夢を見ました。
ここ数日連続で物語の続きから夢でみるので大分捗ります。
元々アリシアさんの物語は私の見た夢を描いてるものなので、変な所とか色々あると思いますがごさしょうくださいませ。




