水面下の衝撃
風邪をひきました。
喉がつぶれて全く声が出ない時代が僕にもありました。
コリンドールは焦っていた。
つい先日サルスムーナ帝国のミルオ・ロ・レルド伯爵が討死したと一報が入り、落胆した所にまた今度はその息子まで討死したというのだから驚きと動揺は隠せなかった。
どう足掻いても竜に対抗する術を自国は持ち合わせていない。
「あのレルド伯爵家がこうも簡単に落ちるとは…」
というのも、元々コリンドールはサルスムーナ帝国の軍事長官をしていた事もあり、
レルド家の軍事力をよくわかっていたからでもある。
また若い頃はミルオと共に戦場を駆け、その背中を追い続けていたものだ。
ミルオがレルド家として、
帝国に確固たる地位を手に入れた頃、
コリンドールはクムルンランドに離反した。
そして軍事長官まで登り詰めた。
クムルンランドは元はツーレツーレ鉱脈を起点に広げた村から成り上がった国の為、軍事には力を入れきれていない。
まずは国として運営できる様に経済を回す事を最優先に行ってきた。
事態は深刻である。
もしも何かの気まぐれでクムルンランドに竜が飛来した際は為す術無く、
今まで築き上げてきた物が破壊し尽くすされるのを全て指を咥えて見ている事しか出来ない。
国内の戦力は僅かだ、
防衛戦では守る物の多いコチラの方が明らかに分が悪い。
ならばこちらから打って出るしかない。
「戦力…戦力を集めなければ…」
コリンドールは部下を呼びつけると自由連合の支部に1つの書簡を持たせ向かわせた。
「国を守るためなら、か…」
コリンドールは天井を見上げ、ボソリと呟やいた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ついにこの日がやって来たわね!」
アリシアは馬車完成の報せを聞き、工房へ向かっていた。
ルシリアはカブの手紙を受け取りに行っている。
馬車の制作依頼後、買い出しはほぼ髭に任せっきりにしており、馬車に後は詰めるだけだ。
ルシリアが合流次第、
そのままランド中央へ向かう予定である。
工房に着くとまたあのガタイいい職人が
待っていましたとばかりに立っていた。
目の前には布を掛けられた大きな物がある。
「お待ちしておりました。」
ペコリと礼儀正しくお辞儀をする職人に
「聞けば貴方がここの親方だそうね。」
「その通りです、私がここのオーナー兼責任者オースと申します。」
「?」
今までの対応といきなり変わりアリシアは困惑していた。
「どうしてそんな急に堅苦しく?」
「いえ、私は元よりこういうスタンスでございます。それよりルシリア様はいらっしゃらないのでしょうか?」
「ん?」
…気持ち悪いな、コイツ。
先日までの方が不躾ではあったが、まだよかった。
コイツの思い通りにはしたくないな。
それがアリシアの浮かんだ考えだった。
アリシアは髭に向かって手をちょいちょいと振ると耳打ちをし、そのまま馬車のお披露目もそのままに工房を去った。
カブの娘に宛てた手紙を受け取ったルシリアは街により、肉の串を二本持ちニズウェルの街門に向かった。
予定通りであれば
馬車にアリシアが乗って街門にて荷を積んでいるはずなのだが…
アリシアの姿が見えない。
肉の串を齧りながら辺りを見渡す。
立派な馬車はあるのだが肝心のアリシアがみあたらない。
髭が他の換金屋の従業員とせっせと荷を積み込んでいるが…
「ルシリア様ー」
少し離れたところから自分を呼ぶ声に振り向けば工房の職人である。
工房に向かったアリシアはここにはいないというのに
工房の主である職人が来た。
「アリシア……金髪の娘はそちらに向かわなかったか?」
ルシリアが息を切らす職人に尋ねるが、
職人は首を振り、
「それが、馬車のお披露目も済む前に工房を発ってしまったのです。」
「そうか、またか…」
顎に手を当て考え込んでいると
「あの、もうこの街を発ってしまわれるのですか?」
「そうだな、私と彼女は色んな場所を回ってみたいのでな。」
「そうですか…」
しゅんとする職人に
「ところで、話は変わってしまうが、個人でとても強いと言われる者の噂や話を聞きたいのだが、何か情報はないか」
「強い者…ですか。」
ふむ、と顎に手を当て考え込むしぐさをすると
「腕力だけで言えば、工房のプグスかな…いや、割と俺の方が強かったり…?」
ブツブツと呟く内容に少し残念がりながら
やっとアリシアが来たことを察知する。
「あー!でた、キモいやつ!!」
「き、キモ!?」
アリシアが職人を指差すと、
ルシリアの手を取り馬車に乗り込もうとする。
「そんなキモいの気にしてないで、さっさと行くわよ。」
そんな職人にルシリアは肉の串を渡そうとすると、アリシアが反応する
「なんでそんなやつに大きい方を!私のは!?」
と怒号。
「すまない、礼にはならないかもしれないが私が先程まで食べていたやつだがよかったら貰ってくれ。」
と食べかけの肉の串を手渡し、馬車にのる。
「私の!」
そう言うとアリシアはルシリアの手から肉の串を取り上げるとすぐに頬張る。
ルシリアは馬4頭と繋がる手綱を握るとそのまま馬を走らせていった。
馬車が見えなくなるまで頭を下げ続ける髭の横で
ニズウェルの露天によくあるような肉の串を両手にずっと何かを考えているようだった。
後にこの街の門の付近にとても美味しそうな肉の串の銅像が建ち、街の中で一番有名な観光スポットとして知られる様になる事をまだ誰も知らない。
そして、アリシア達と入れ違うように
ニズウェルの街に徴兵の報せが届くのはこの日が始めてであった。
やっと色んな国が動き始めます。
そしてやっと面倒な事に巻き込まれてい…くのかな?




