EX章~とある地下牢獄~
だめだぁ、全然打つ時間もないし、
思い浮かばない。
夢で見たのの適当に紡ぐのは結構厳しいものがあると思った。
あれからどれくらい経っただろうか…
もう数ヶ月は日の光を直接目にしていない。
このほの暗い地下牢には、
他にも何人かの女子供が囚われている。
シンと静まり返った辺りは時折他の誰かが身体をよじったり牢の隅で震える度に重苦しい鎖の摩擦音が聞こえる。
もう、慣れてしまった。
ある程度等間隔で新しい仲間が喚きながら連れてこられる。
あんなに騒いでも何も変わらないのに、
ただ疲れるだけで何も変えられないのに。
所詮私達、女や子供は屈強な男に抗う術を持たない。
日に日に弱っていく身体。
どうせ助けになんて誰も来ない…
他の誰かが連れていかれた時は心底ホッとする。
今日は私ではなかったと、安堵する。
…私はとても醜い心を持ってしまったようだ。
例えどんなに無意味だと解っていても、
男達が地下の石段に響かせる踵から発する音に恐怖を隠しきれない。
まただ。
響く踵の音に、皆鎖を揺らす。
金属音がやけに耳に響く。
男達は下卑た笑いを浮かべ、私の牢の前で立ち止まり、牢の鍵を開け始める。
嫌だ、嫌だ。
頭を抱え、身体が震える。
なんだ。やけにうるさい鎖の音は私か。
なんて解ったところで何の役にもたたない。
男達に腕を引かれる
重りのついた鎖を一人が持ち、
2人が両脇から肩をしっかりと掴まれ逃げることなんて出来やしない。
助けて、
助けて、
誰か…
……お父さん!!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
私の名前はミマ。
リヤド村という辺鄙な村から
遊戯大国クムルンランドの大都市のひとつ、
ニズウェルという街に父と共に引っ越した。
リヤド村は近年クムルンランドの領域になったものの、魔物に怯えて暮らしていた所
、領主様が数家庭ずつクムルンの内地の方に移住させることに同意した。
国の方針は人一人一人を大事に、楽しく人生を謳歌する事を第一としているみたいだった。
初めて来る都市ニズウェル。
砂漠を抜け、大きな大きな壁が見えたときは開いた口が塞がらなかった。
父に
「舌さ、噛むど」
と何度言われた事か…
砂漠に囲まれているというデメリットをものともしない、高い城壁の中の暮らしは活気に溢れ、これが街なのだとそれまでの人生の中で他にないほど興奮したものだ。
都市ニズウェルは畜産を主とした都市で、
大きな牧場がいくつもあった。
元々リヤド村で馬を扱っていた父は案の定、馬の牧場で働く事になった。
初めて大きな牧場で働く事になって父は戸惑っていたけれど、すぐに調子を取り戻し牧場の皆から信頼されていった。
私もそんな父を一生懸命に支えた。
父の仕事ぶりが都市のお偉いさん達に伝わったのか、中規模の牧場を任されるという話が出た。
当然その分の責任は生じてしまう。
父は断ってしまったらしいが、
私はやってほしかった、
皆に認められていく父が誇らしくて、そして自慢だった。
また暫くして今度は今働いている牧場を分譲してくれるという話が来た。
父はあまり乗り気ではなかったものの、
私は全力で父を支えるから、と説得した。
父も父で仕事は大変ではあるが、充実しているようだった。
やがて父も牧場で何人かの人を雇って経営せねばならないほどの規模になってくると今度は餌代や人件費等のコストを気にして仕事をしなければいけなくなった。
しかし、仕事は充実し自分の手伝いがあまりいらなくなって来て私は編み細工の手伝いをして働くようになっていった。
父と二人、母は幼い頃亡くしてしまったけど
それでも幸せだった
そしてソレは前触れなく訪れた。
ここクムルンランドでは毎月市民一人一人に役人さんが面談を行い、何か困った事はないか相談にのってくれる。
小降りで木造の談話室に入ると、
いつも通り協会の懺悔室のような作りの席につく。
いままでは話を聞いてくれる役人さんは女性だったのに、今日は男性だった。
それでもとても気さくなかんじで話しやすかったのか、ポツポツと話していた口は次第に父を楽させてあげたいとかこれからの事とか、個人的に思っていた不満というよりは不安を口にしだした。
それを聞いた男性の役人さんに、中央への出稼ぎを提案された。
中央で働いた分の1%が毎月親元にも支給され、どれだけ稼げているかの確認等も出来るという、
それになんといっても賃金が2倍近くにはねあがるらしい。
とてもいい話を頂いた、と父に報告。
父はあまり簡単には首を縦に振ってくれなかったが、
何度も交渉をするとやっと折れてくれた。
ニズウェルでさえ、初めて見たときには都会に心躍り、
中央なんて行ってみればこの心臓はどうなってしまうのだろう。
出稼ぎの期間は決めず、色々な仕事をやってみようと思った。
中央ではどの職にも守秘義務があるようで、
決められた期間の中で決められた場所以外で手紙を書き送ることも出来ず、
中央への出入りの際は、極めて厳しい持ち物、身体検査が行われる。
各国からの要人や貴族も遊びに来る為の安全確保だそうだ。
中央へ行く直前まで、
父の仕事の手伝いを優先し最後は笑顔で見送って貰った。
「ようこそ! 夢の国、クムルンランド中央へ!!」
身ぐるみ剥がされ、荷物も一通りチェックされた後ランドー型の馬車にのりながら門を通過した後の第一声はこれだった。
そこはもはや別の世界。
至るところにクムルンを模した大きなキグルミがおり、そのキグルミは子供達に囲まれ見たことのないグルグルのおやつを配っている
すれ違う人達も笑顔で過ごしている
皆が笑顔で輝いている
やっぱりこの国は凄い所なのだ!
石段で作られた家なのに傾いていたり、
よくわからないモノがよくわからないモノを貫いていたり、
オブジェクトや彫刻なんてよくわかんないけど、きっと、きっと凄いモノなのだ。
今までのリヤド村はどこの国の所属でもなかった。
それ故に魔物や盗賊に怯えながら暮らすのが当たり前だった。
そしてこの国では亜人種も、
人の往来のあるところで堂々と歩いている。
大陸の五大国の中でも一番亜人種にも寛容なのがクムルンランドであると聞いたことがある。
私が紹介された仕事は中央の屋敷に暮らす貴族への奉公の仕事だ。
所謂メイドやお手伝いさんのような仕事である
紹介され、案内されるがまま、
一つの大きな屋敷の前に着いた。
目の前の建物は大きく、
外からパッと見ただけでも裕福な事が目でわかってしまう。
礼儀作法等習った事など微塵も無いが、
一から覚えてすぐに仕事をこなせるようにならなきゃ…
父も牧場を任せられてきっと頑張っているんだ、
だからこそ私も頑張って、お給金を稼いで父を楽させなきゃ!
意気込みは上々、
フンす、と荒い鼻息でやる気を形に表す。
ある程度の礼儀作法を4日間程習ってから
屋敷主に挨拶をさせて貰える事となった。
本邸の門を潜り、年配のメイドに案内され本邸のドアが開く。
これからそんなに長くはないけれどお仕えさせていただく方なのだから、いい印象をつけて貰えるようしなきゃ、と
歩く姿勢を正し、目線は真っ直ぐ少し遠くを見据えた。
いつもありがとうございます、
今更ながら設定の裏あわせをやってます。
なのでもしかしたらまた次すぐ書けるかも