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Lv.14 夢は夢のままで

淡く優しい光がテラスに差し込む。

精巧に作られたアンティークのテーブルに彩られるはスコーンや紅茶、色とりどりのお菓子達。


優雅なティータイムを私は愛しい人と過ごしていた。



「母様、母様の淹れてくれた紅茶とても美味しいよ。」

「本当?かなとが誉めてくれるなんて母様嬉しいわ。」

「母様の淹れてくれる紅茶は世界一美味しいもん!堺のより美味しいよ。」

「あらあら、ありがとね。」



整いすぎている顔立ちは、本当に父親にそっくりで、茶色がかった髪をそうっと撫で付けてやれば嬉しそうに微笑む。


ああ、私は天使を産んだのかもしれないな、なんて。

親バカまっしぐらなことを考えるのは、私だけのせいじゃなく、息子が、贔屓目抜きにして誰の目から見ても美形と称されるに相応しい見目を持っているからだと思う。




「………音葉、また俺抜きでかなととティータイム?」



聞こえてきた忙しいはずのあの人の声にびっくりしながら後ろを振り向けば、彼は少し不貞腐れた顔を覗かせていて思わずふふ、っと笑いが零れる。



「奏ってば。息子相手に大人げないんだから。」

「…………いつもかなとばっかりの音葉が悪い。」


思わず席を立ち、奏に抱きつく。

私達が見つめ合うと何故か周りが花畑へと変わった。

そこへ愛しい息子も駆けてきて、その息子を愛しの旦那様が抱き上げる。




「私、本当に幸せだなー。」

「俺も、だ。」

「僕もー!」


うふふふふふふ、あははははは、うふふふふふふ、あははははは。






そして時間はゆっくりと流れて……………………………………………………………………………………………………。



ゆっくりと流れ、て……………………………………?










「いやああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」



バッと目を開ければ目の前に広がるのは天井のみ。



「………ゆ、夢…………………!!」



私は、安堵のため息と共に涙を吹き出した。











「あ゛ー…………。」



こっちも夢ならばどんなに良かっただろう。




「夢だけど夢じゃなかった…、なんてね、はは、は……。」



はぁ、と何度目かわからないため息を吐きながらノロノロと支度を整え廊下に出ると、なにやら1つの部屋方から声が聞こえてきたので足を運んでみることに。



(堺さんと麻生奏………?)


完全に閉じていなかった扉の隙間からそっと中を伺う。



「よろしいですか、奏様。」

「………もうじゅうぶんわかった。」

「では奏様、どうぞ。」

「『最初のうち無理はさせない』『音葉の嫌よ嫌よは好きのうち』『ピロートークは甘く囁くように』。」

「ちょ、待て!なんの話だコラァァァァ!!」



聞き捨てならない台詞に、扉を思いっきり開け放つ。




「音葉、おはよう。そんなに強くドア開かなくても俺は逃げない。」

「音葉様、おはようございます。よく寝むれたようで何よりでございます。ただ淑女たるもの、扉の開閉はお静かに願います。」

「あ、すいません…………。」



(そうだよね、ここはよそのお家な訳だし、何より高そうだし、壊しちゃまずいよね…………。)





「って違う!!そういうことじゃない!!」

「………音葉、お腹すいてる?お腹すいてるからって暴れるのはよくない。」

「おや、それはよろしくありませんね。元気なお子を産むためには、健やかな体から。つまりは食事からですよ。すぐにお食べになって下さい。さあさあ、こちらへ。」

「本当突っ込みどころがありすぎてどこから突っ込めばいいのかわからないんですけど。…………誰か本当に助けて。」









半ば無理矢理朝食を食べさせられた私に、堺さんは掃除の基本的な事を教えて去っていった。

どうやら本当に花嫁修行はやるらしい。


ちなみに麻生奏は父の仕事の手伝いだとかで書斎に籠らなくていけないと本人から聞いたが、別に私には関係ないのでどうでもいい。



好きでここに来たわけではないし、ヤツのための花嫁修行などごめんこうむりたいのだが、タダ飯という名の借りをヤツなんかに作りたくないし、ここにいても暇なわけで。


なんて。

自分自身によくわからない言い訳をしつつ、とりあえず近場の部屋からでも掃除を始めることにした。





「……あれ?ここって誰か使ってる部屋………?」


今この別荘に滞在している誰かが使っている部屋なのだろうか。

黒と白を基調としたその部屋は、シンプルながらも趣味の良い調度品が置かれていて、チリ1つ見あたらない。


掃除なんか必要無さそうだが、きっちりと片付けられた部屋にそぐわない、机の上に無造作に置かれてるそれが視界に入る。



「!?『うれし恥ずかしドキドキ堺ダイアリーマル秘』…………?え、嫌な予感しかしない……。」


少し厚めで皮張りの、まさかの奇妙な言葉で飾られたそれは堺さんの日記帳であるらしい。


どの面下げてはうれし恥ずかしとか書いているんだろうか。




(………うん、他人の日記だし見ちゃだめだよね。)



見てはいけないと思いつつ、正直とても気になる。

だって人間だもの。


葛藤しつつ、思わずその日記を持ち上げてみると、中からバラバラと何かが飛び散った。




「あちゃー…、堺さんごめんなさい。……………?」



慌ててそれらを拾い集めれば、視界に写りこんだのは私とヤツ。


どこから隠しどったのか。

他人から見れば仲睦まじそうにも見える私とヤツの写真達が。




「うわー!仲良さそうー!………ってんなわけあるかっ!!思いっきり隠し撮りじゃない!あり得ない!」


震える手で散らばった写真達をかき集めると、1つだけ写真ではなく、奏様プレゼント用と書かれた封筒が混ざっているのに気づく。





(激しく開けたくない。開けたくないけど、逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだ………!)


自分を叱咤しつつゆっくりとその封筒を開く。





「……なによ!これっ!!!!」



中から出てきたのはどう見てもお風呂上がり、そして下着姿で牛乳を飲んでいる自分の写真。




それは私のなけなしのライフゲージがガラガラと音を立てて崩壊した瞬間だった。




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