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荒野につがれる物語  作者: |||&_.
砂の章
32/33

32

――――僕は。


風の音は、嫌いじゃない。むしろ好きだ。

風は砂を鳴らしてくれる。乾いた空気の中にだって、風は音の粒を落としてくれるから――――。


掌を眺めた。皮膚がめくれて、錆びた骨格が見えている。

ズタズタになってしまった僕の掌。そっと撫でて、螺子を巻く。


思い出す。マスタのことを。掌の疵は、僕とマスタを繋ぐ糸だから。

気づいた。

だから僕は忘れない。

僕がここにいる理由。

僕が歌う意味。

マスタの唄。

マスタは、僕に色々なことを教えてくれた。

僕は、やっぱりマスタが好きだ。いなくなってしまっても、ずっと。


僕が彼女についていけば、世界は何か変わるのだろうか?

僕のデータが、マスタの唄が、色んなヒトに伝わっていくのは凄いことだと思う。

そこにマスタがいるんだと思う。やっぱりマスタは凄い。


でも、僕は――――。




「ごめんね?」


マスタは自分で、ここに残ることを決めた。

僕も、ちゃんと自分で決めたい。


僕は、マスタの傍を離れたくない。

マスタの傍が、僕のいる場所だから。


たとえ彼女について行っても、あるいはついて行かなくても。

僕という存在は、世界とマスタを繋ぐ媒体でしかない。

平和な世界で、あるいは壊れかけてる今の世界で、僕という媒体を通して、少しでも届けばいいと思う。

でも、僕はここを離れない。


だから。


思い出のつまった記憶装置メモリーチップ

これを外せば、思考回路と、記録と、僕の意識は繋がらなくなる。

僕は僕じゃなくなる。

外殻だけの入れ物になる。


だから、記憶装置を抜く時に、僕は一緒に思考回路を焼き切ってしまう。

中枢神経の一部を失えば、僕は動かなくなる。でも、僕は僕のままでいられる。


「それでいいかなぁ?」


少女は少し考えた後、諦めたように溜め息を吐いた。そして静かに頷いた。

マスタの唄は、ちゃんと届く。

僕の記憶も、ちゃんと届く。

僕は僕のまま、ここにいられる。


「眠い」っていうことの意味が、僕にもようやく解りかけていたんだ。


僕はここで眠る。マスタと一緒に、この荒野に。




項から、脊髄に走る中枢神経に指を埋めた。元からガタがきていたから、思ったよりも簡単に出来そうだ。

思考回路と記憶装置を同時に掴んで、強く引っ張った。

こんな強引なやり方、マスタにバレたら怒られるけど、これが一番、手っ取り早いから仕方がない。



全身に僅かな電流が走って、視界が白く染まった。


みんなの声。

笑っている。

マスタの唄と、僕の歌と、お隣さんも。

ずっと思い出せなかった、マスタの――――。


――――あ。


マスタ、お久しぶり。


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