31
「ねぇ、キミは、どうして僕を捜していたの?」
アンドロイドが、私に聞いた。
私がここに来た理由。それはひとつしかない。理由がなければ、私はこんな辺鄙なところまでわざわざ来たりはしない。
窓の外が藍色に染まりかけていた。もう少しで夜が明け、眩しい太陽が冷気を溶かしていくだろう。
それまでには、話をつけたい。私はアンドロイドを見据えた。
「私たちは、不足しているの」
「うん。足りないんだよね?」
「そう。今、人間は絶滅しかかっている。たぶん、そう遠くないうちに、本当に絶滅してしまうと思う」
保護都市の中で起こったことを、彼に聞かせた。
それは、相も変わらぬ人間同士の殺し合いの話だ。
「あなたが『お隣さん』と呼んでいたヒト。彼の残したデータを辿って、私はここに来たの。保護都市が襲われた最初のテロの被害者だったけれど、運が良いのか、悪いのか、体の半分近くを失っても彼は死ななかった。でも彼が目を覚まして、何とかここへ戻って来た時、あなたのマスターはここからいなくなっていた。その後、彼は保護都市に戻って、それなりに生きたようだけれど、保護都市内の抗争に巻き込まれて大変だったみたいね。あなたたちのデータが残っていたのは、奇跡だと言えるわ」
保護都市で起こった抗争。それは世界の在り方について、権力と技術の戦いだとも言える。
権力を持つ人間は、今までの世界を捨てて新しい世界を造ろうとした。技術を持つ人間は、自分たちの力で世界を立て直そうとした。権力者は技術者を買収し、技術者は権力者を武力で押した。どっちもどっちの戦いだったと、生き延びた人間たちは言う。
「人間がいなくなった後に残されるのは、私たちアンドロイドをはじめとする機械ばかり。私たちは保護都市を維持するために造られた。だから維持することに関しては有能。でも、新しく創りだすことは――――できないの」
私は捜しているのだ。
――――世界を引き継ぐ手段を。
そのために、人間がもっとも繁栄していた時代の記録を集めている。
「あなたのマスターは、とても優秀な人間だった。唄は娯楽に過ぎないけれど、娯楽は人間にとっては、とても大切なものよ。残念ながら、保護都市に集められた人間も、文化も、抗争で殆どが失われてしまった。私たちが人間を理解し、近づくための材料が欲しいの」
何より、私はこのアンドロイドに興味がある。
明らかに、私とは違う。より人間らしい感性を持ち、笑い、夢まで見る。
どんな記録を持ち、何が作用して、変異とも言える進化を遂げたのだろう。
それに、とても興味がある。
「私と一緒に来てほしい。私たちは、あなたを心から歓迎するわ」
薄暗かった部屋の中に、一筋の光が差し込まれた。
朝が来たのだ。




