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荒野につがれる物語  作者: |||&_.
砂の章
30/33

30

「ねぇ、マスタも、処分されたの?」


マスタ。苦しんでいた。泣いていた。ずっと熱が続いていて、辛そうだった。


少女が何を言うのか、僕は待っていた。


「あなたのマスターは、保護都市に招待されていた。それを蹴ったのは、あなたのマスターの意思だわ」


どうして。


さっきからずっと、僕は同じことばかり考えている。


マスタは、どうして行かなかったのだろう。

行けば、苦しい思いをしなくてもよかったかもしれないのに。

もっと生きられたかもしれないのに。

僕といるのがイヤになっちゃったのかなぁ。

僕の歌わせるのがイヤになっちゃったのかなぁ。


僕は、もっと、ずっと、たくさんの想いを、唄に――――。



掌の疵を、そっとなでる。静かに、螺子を巻いて、僕は記憶の糸を辿る。


遠くで、ささぁと風が砂を撫でた。

夜露がゆっくりと霜に降りていく音を聞いた。


永い、永い夜の中に、僕はいた。

独りだと思っていた。みんな、いなくなってしまったのだと。


でも、そうだ。

風はいつだって音をのせて僕を訪ねてきてくれたし、夜にだって、光はあった。


エネルギーの補給をやめれば、いつだって停まれた。停まることを選ばなかったのは、僕の意志。



「そっかぁ」


行かなかったのは、マスタが決めたこと。楽になることを選ばなかった。ここで、さいごまで、唄をつくって、――――。


「うん。それなら、いいんだ」


お隣さんは、マスタのことも、僕のことも、保護都市へ連れて行こうとしてくれていた。何度も、何度も。でも僕は、全部断ってしまったけれど。

ごめんね、お隣さん。でも僕は、少しも後悔していないんだ。


だって、マスタのいるところが僕のいるところだから。

ここにいることを、マスタが選んだのだから。


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