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「夢?」
少女は怪訝な顔をした。
「アンドロイドは、起きている間も、消灯している間も、夢なんか見ないはずだわ」
疑わしそうな眸を向けてくる。確かに、僕も自分のことじゃなかったら、同じような反応を返していたかもしれない。でも――――。
「ええ。僕も、見たのは初めてです」
少女は奇妙な顔をしながらも、僕の話をちゃんと聞いてくれた。
「――――それはきっと、記憶装置の誤作動ね。ヒトの見る夢、その仕組みは、睡眠時に休止している脳が活動を起こす為といわれているけれど、あなたの場合は、脳の一部とも言える記憶装置と思考回路の老朽化、それによって通常、消灯時には繋がらない回線同士が繋がってしまったために起きた現象、なんじゃないかしら」
アンドロイドの見るものを、『夢』と定義づけていいのかは解らないけど、と置いて、少女は頷いた。
「確かに、あなたの見たものはヒトの言う『夢』というものと、きわめて似ているものかもしれない」
「とても、いい夢だったんです」
そう言う僕の顔を、少女はじっと見つめた。
「あなた、やっぱりおもしろいわ」
そして言う。
「私がこんな埋もれた僻地にまできたのには、ちゃんとした理由があるの。あなたは、とても老朽化している。今の時代からみれば、骨董だとも、化石だとも言えるくらい。あなたに使われている技術は、とても古い。でも同時に、私たちにとっては新しいものでもあるの。あなたは、私たちと同じものだけどけれど、全然違う。今では失われた技術と素材。今では、手に入らないモノ。あなたはそういうもので造られている」
そして少女は続けた。
――――私たちが欲しているのは、それなのだ、と。
夜。時間換算装置が停まっているから、正確な時間は解らないけど、多分、真夜中。
ガラスの失くなった窓からは、白くて明るい光が射し込んでいる。
光はきっちりと窓の形に切り取られていて、窓の向こうの砂丘は、光を受けてキラキラしていた。霜が降りているのかもしれない。
少女は言った。
「あなた自身は人工だけど、使われているのは天然素材。あなたの皮膚も、髪の毛も、内にある色々な機器や基盤だって、今では世界中のどこを探しても見つからないものばかりなの。化石と言ったのは、そういうことよ」
世界の話を知っているかと、少女は言った。その眸は強く、どこか悲しそうだった。
僕は首を振る。マスタは、僕を世界とつなげなかった。不正侵入を防ぐためだと言っていたけど、でも僕はマスタがいなくなった後、一度だけ世界を繋げたことがある。だから本当は、ほんの少しだけ、世界のことを知っているのだけれど。
「それは、街のヒトタチがいなくなったことと、関係があるの?」
でも、僕が覗いた世界の情報は、きっとほんの一握りだ。サーバも、アンテナも、繋げるものは殆ど断絶していたし、そもそも発信されている情報自体が少なかった。
少女は「そう」とひとつ頷くと、少しだけ考えるように時間を置いてから、僕に向き直った。
「結論から話しましょう。世界は『処分』されたのよ」
遠くで、砂の流れる音が聞こえた。