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「交渉? 僕と?」
「そう、あなたとよ」
眼の前のアンドロイドは、静かに私を見返してきた。
その眸は、見れば見るほど、不可解だった。正面から観察すれば、風砂による疵がついて濁っているのに、やはり私を見る目は澄んでいるように思える。私と限りなく近いはずなのに、私とはぜんぜん違う。こんな僻地に、こんなにも長い間、放置されてきたというのに。
それが天然素材によるものなのか、それともこのアンドロイドが受けてきた『教育』によるものなのか、データがないから私には判別をつけられない。解析を諦めて、ふぅっと溜め息をついた。
「あなた、よくこんな処に独りでいられるわね」
砂の重みで傾きかけた柱。あちらこちらの隙間から、砂がさらさらと入り込んでいる。部屋の中にまで荒野に侵食されたここは、既に家と呼ぶのは相応しくない、年代ものの廃屋だった。
「私たちにとって、風砂は禁止事項のひとつよ。普通なら、とっくにショートして工場に逆送、もしくは廃棄されてるところだわ。それを、あんな簡単なメンテナンスで動くなんて。信じられない」
部屋を見回してそう言うと、アンドロイドは微かに笑った。何故だろう? 今の会話の、どこを可笑しい事柄として解析して笑ったのか、私には理解ができなかった。
「ねぇ。さっきから、何をそんなに笑っているの?」
ヒトのいないこの場で、なぜ彼は笑うのか。私には不可解だった。
通常、私たちは笑わない。『笑う』という行為は知っているし、一昔前の愛玩用アンドロイドなどには実装されていた機能らしい。
だがそれは『ヒト』がいるから作用する機能であるはずだ。顔の筋肉の動き、身振りや話し方の抑揚、数十万にもパターン化された会話の中からデータベースを構築し、所有者に合わせた『笑う場面』の結果を弾き出す。愛玩用であれば、確かに不可欠な機能なのだろう。
しかしここにヒトはいない。ましてや、私は愛玩用ではないのだから、要素のTPOが解らない。だから笑わない。
ヒトのいない場所で、必要もない『笑う』という行為をなぜアンドロイドが行うのか。不可解以外の何者でもなかった。
そう問うと、アンドロイドは不思議な表情をして首を傾げた。
「僕は、笑っていましたか?」
「笑っていたわ」
「じゃあ、きっと、マスタの夢を見ていたからです」
そして満面の笑みを浮かべたのだった。




