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久世家戦記・現  作者:
現代編
59/59

第二十六部 久世庵

 久世庵・早朝

まだ誰も起きていない時間。

かやは目を覚まして、ふと縁側を見る。

灯りがつけっぱなしだった。


「……エーテル?」


机が出たまま。

紙の箱が少し開いている。


片付けようと近づいた、その時――

中から一枚の和紙が滑り落ちた。


何気なく拾っただけだった

最初は本当にただの紙だと思った。


でも、見覚えのある字。

かやの喉が鳴る。

「……これ……エーテルの字……」

胸がざわつく。

読んでしまう


もし俺が先にいなくなったら

誰も無理に笑わなくていい

その瞬間、手が震えだす。


「……は……?」

息が浅くなる。

次の行で完全に崩れる


かや

俺をここまで生かしてくれてありがとう


「やめて……」

声が震える。

「なんで……こんなの書くの……」


一行一行が刃

一番強かったのはお前の笑顔だ

涙が紙に落ちて滲む。


「強くなんかない……」

「私はただ一緒にいただけなのに……」


子供たちへの言葉を見て

指で名前をなぞる。


ルミナ

ネメシス

ミラ

ルーク

ヒサト


一人一人にちゃんと向き合ってる文章。

それが本気の別れの準備だと分かってしまう。

最後の一文


俺は十分生きた

ここでかやは声を上げる。

「嘘……!」

「十分なんかじゃない!!」


紙を胸に抱きしめる。

崩れ落ちるかや

畳に膝をつく。

肩が震える。

「勝手に満足しないでよ……」

「まだ……一緒に生きるって言ったじゃない……」


その時

背後で足音。


「……かや?」

エーテルだった。

眠そうな声。


かや、振り返らない

紙を握りしめたまま。

「……これ……なに?」

静かだけど震えきった声。


エーテル、理解する

一瞬で状況を察する。

「あ……それ……」

言葉に詰まる。


かや、爆発

振り返って叫ぶ。

「なんで遺書なんか書いてるの!!」

「死ぬつもりなの!?」


エーテル、慌てる

「ち、違う違う違う!!」

「死ぬ予定ゼロだから!!」

必死。


でもかやは泣きながら

「だったらなんでこんなの残すの……!」

「私は……また失う準備なんてしたくない……!」


エーテル、近づいて抱きしめる

ぎゅっと強く。

「ごめん……」

「戦場で生きてきた癖が抜けなかった」

「幸せが続くほど怖くなるんだ」


かや、胸を叩きながら泣く

「怖いのは私だよ……」

「置いてかれる方だよ……」


エーテル、静かに囁く

「俺はどこにも行かねぇ」

「生きる」

「お前と最後まで生きる」


かや、小さく

「……ほんと?」

エーテル、額を合わせて

「誓う」

「遺書じゃなくて……」

「未来への手紙にしとく」



 それからのかや

朝。

エーテルが縁側に出ようとすると――

「どこ行くの?」

即捕獲。

腕を掴まれる。


草むしりしようとすると

「腰に悪いからダメ」


団子焼こうとすると

「火傷するからダメ」


少しぼーっとすると

「具合悪いんでしょ?横になって」

エーテル(心の声)

……護衛対象になってない?


完全看病モード女将

食事は全部かやが持ってくる

湯冷め防止で風呂の時間管理

夜は必ず隣で寝る

少し咳しただけで医者呼ぼうとする


エーテル小声

「俺そこまで弱ってないぞ……」

かや即答

「黙って」

(有無を言わせない)


家族も察してる

ネメシスひそひそ

「母上、完全にトラウマ再発してるね」

ルミナ

「パパ逃げられないね」


エーテル、観念

されるがまま。

でも内心――

……ここまで心配させるのは違うよな


そして夜

みんなが寝静まった頃。

エーテルはそっと起きる。

廊下を忍び足。


工房の灯り

イリスがまだ作業している。

「……父上?」

エーテル、小声

「頼みがある」

「今ここでは言えない」


イリス、察する

工具を置いて真顔になる。

「……命に関わる?」

エーテル

「可能性はある」

「だから“保険”を作りたい」


イリス、深く頷く

「わかった」

「誰にも言わない」

「私が守る」

エーテル、少し笑う

「やっぱお前頼れるな」


イリス

「父上は昔から、

“いなくなる前提”で動く癖あるんだよ」

エーテル、苦笑。

「……直らんな」


工房の奥で、

イリスが何かの設計を始める。

小さく光る自然エネルギー。

形は――

指輪でも、結晶でも、装置でもない何か。

 


 月日が流れ――

久世庵は今年で二十周年を迎えた。

木造の柱は少し色づき、

庭の樹々はさらに大きく枝を伸ばし、

それでも変わらず人を迎え入れる場所だった。


朝の風景

縁側ではエーテルが湯のみを持って座り、

ルミナとネメシスが庭を走り回り、

ミラとルークは新作漫画の構想を話し合い、

琥珀は帳簿を片手に苦笑している。

厨房からは――


「焦げるぞー!」

かやの声。

エーテルが立ち上がるとすぐ、

「無理しない!」

即制止。


もうこれが日常。

久世庵20周年の貼り紙

手書きで大きく。


久世庵 二十周年 感謝祭

・団子全種割引

・渋茶飲み放題

・夜は花火

・エーテル人生相談無料


常連たちは泣きそうになりながら喜ぶ。

「ここがあるから頑張れた」

「人生変わった」

「帰る場所だよ」


そしてひなたと神谷

今は旅館にはいない。

産まれたばかりの赤ん坊を抱え、

少し離れた家で静養中。


ネメシスが動画で報告していた。

「ひなたさんと神谷さん、元気な赤ちゃんです!」 

コメント欄は祝福の嵐。


エーテル、ぽつり

「……時代って進むんだな」

かや、微笑んで

「当たり前でしょ」

「私たちは、進ませる場所なんだから」


夜の縁側

提灯が灯り、

子どもたちが笑い、

団子の匂いが漂う。

エーテルは空を見上げる。

月は穏やかに輝いている。

心の中で静かに思う。


守れたこの日常

誰も知らない未来の伏線を抱えたまま

それでも今は――

完全に、幸せ。



 久世庵は変わらずそこにあった。


柱も、庭も、団子の味も、

エーテルの笑顔も――変わらない。

けれど。

少しずつ、来なくなる顔


毎週必ず来ていたおじいさん。

人生相談をして泣いていた会社員。

一人で渋茶を飲んでいたおばあさん。


ある日来なくなり、

次の週も来なくなり、

そのまま――戻らなかった。


「入院したらしいよ」

「引っ越したらしい」

「亡くなったって……」


そんな噂だけが残る。

エーテルは何も言わず、

その人がいつも座っていた席を拭く。

少しだけ、長く。


そして新しい常連たち

最初は団子目当てで来た若者。

「ここ落ち着くっすね」

「なんか帰ってきた感じする」


いつの間にか毎週来るようになり、

悩みを話し、

笑い、

また来る。

かつての常連が座っていた場所に、

新しい世代が自然と座っている。


受け継がれていく場所

久世庵は人を残さない。

想いだけを残す。


エーテルがぽつりと呟く。

「入れ替わっていくんだな……」

かやが静かに答える。

「でも消えてないよ」

「ここに来た時間は、全部残ってる」


ある若者が言う

「俺、親に聞いたんです」

「昔ここで救われたって」


エーテル、目を見開く。


「だから俺も来てるんす」

「この場所、守ってほしいって」


一瞬、言葉を失うエーテル。

久世庵は生き続ける

人は去る。

世代は変わる。

それでも――

居場所は受け継がれる。



 時は、静かに、確実に流れていった。

季節は何度も巡り、

雪まつりも、夏の水着イベントも、

団子の新作も数えきれないほど増えた。


そして――

久世庵はいつの間にか、

「老舗旅館」

と呼ばれる存在になっていた。


観光誌に載り、

予約は数ヶ月待ち。

「ここは昔から変わらないんですよ」

と語る客も増えた。


だが一つだけ、変わらないものがある。

エーテルだった。

白髪は少し増えた気もする。

だが背筋は伸び、歩きは軽く、笑顔は昔のまま。


周囲が歳を重ね、世代が変わっても――

彼だけは、時間から取り残されたように生きている。


常連客が冗談混じりに言う。

「ご主人、若返ってません?」

エーテルは笑って返す。

「気のせいですよ」


本当はみんな気づいている。

“死ぬと思われていた人間”が、何十年経っても元気なままだということを。

だが誰も深くは踏み込まない。


ここは久世庵。

不思議があっても、受け入れられる場所だから。


 縁側で、いつものようにエーテルはお茶を飲んでいた。

庭では――

いつの間にか大人になっていたネメシス、ルミナ、ミラ、ルーク、ヒサトたちが並んで座っている。

背丈も声も、もう子供じゃない。

エーテルだけが、昔とほとんど変わらない姿だった。 


ネメシスが笑いながら言う。

「父上、生きてたんだね」

冗談のはずだった。

声も軽い。

表情も笑顔。


でも――

その言葉の奥には、確かに一度失った人への実感が混ざっていた。


ルミナが少し困ったように笑う。

「ネメシス、それ言い方ひどいよ」


ミラとルークも苦笑いする。

エーテルは一瞬だけ黙ってから、肩をすくめる。

「失礼だな。ちゃんと生きてるよ」


その場は笑いで流れる。

けれど誰もが思っていた。 


あの日――

砕けて消えたはずの父が、こうして目の前にいる奇跡を。

ネメシスは空を見上げて小さく呟く。

「……ほんと、帰ってきてくれてよかった」


 

 久世庵の縁側。

春も夏も秋も冬も、何度巡ったか分からないその場所に、

今日もエーテルは座っていた。


かつて――

団子を頬張りながら勉強していた若者がいた。

仕事に悩み、恋に悩み、人生相談をしていた常連。


今ではすっかり背中が丸くなり、

笑うと目尻に深い皺が刻まれている。

「いやぁエーテルさん……」

「わし、もう孫がおるんですよ」


誇らしそうに見せてくる写真には、

小さな手でその老人の指を握る幼子。


エーテルは変わらない。

声も、姿も、微笑みも。

ただ周囲だけが、ゆっくり進んでいく。

「それはおめでとう」

エーテルはいつも通り、優しく笑った。


その老人はふと真顔になる。

「……あんた、本当に変わらんな」

「昔のまんまだ」


エーテルは答えない。

ただ湯呑みを口に運ぶだけ。


一方で――

ひなた、神谷、そして久世庵の仲間たちは違った。

エーテルたちと常に同じ空間にいたことで、

自然エネルギーの影響を受け、老化が極端に遅れていた。

ほとんど不死に近い存在へと変わっていたのだ。

「俺たち……年取らないんですね」

神谷が苦笑する。


エーテルは静かに言う。

「それは“特別”じゃない」

「ただ、俺たちの時間に触れてしまっただけだ」


外では季節が変わる。

人が生まれ、老い、去っていく。

だが久世庵だけが、時の流れから半歩外れた場所になっていた。


  

 都市は空へ伸びていった。

空中道路、光の広告、無人輸送機。

夜でも昼のように明るく、騒がしく、便利になっていく世界。


人の流れは速くなり

会話は短くなり

時間は「消費されるもの」になっていった。


けれど――

久世庵だけは変わらなかった。

木の門。

石畳。

風に揺れる暖簾。

縁側に置かれた将棋盤。

団子の甘い匂い。

何十年経っても同じ景色。


周囲には高層ビルが並び、

モノレールが頭上を走っていても、

そこだけはまるで

時間が敬意を払って避けていく場所だった。


「ここに来るとさ……」

若い客がよく言う。

「都会の音が消えるんですよ」

「なんか、昔に帰ったみたいで」


エーテルは静かに笑う。

「それでいい」

「人は前に進むものだ」

「でも、帰れる場所がないと壊れる」


都市は進化し続ける。

効率化。高速化。自動化。


だが久世庵は逆だった。

不便で、遅くて、手間だらけ。

それでも人は集まる。

疲れた者ほどここへ来る。

いつしか言われるようになる。


「久世庵は街の心臓だ」

「ここがあるから、この都市は息ができる」


歴史の教科書にも載る。

急激な都市進化の中で唯一姿を変えなかった文化保存旅館

久世庵 — 通称「時の止まる場所」


 

 春。


玄関の暖簾が揺れる。

「こんにちはー!」

元常連の孫。

さらにその子ども。

小さな足音が石畳を駆ける。

「また大きくなったな」


エーテルはしゃがんで目線を合わせる。

もう何世代目か分からない。

それでも、

名前はちゃんと覚えている。


縁側では難波塾の名残の勉強会。

「ここ、どうやるの?」

「まず式を分解してみな」

ナポリネスが静かに教える。

横でレオンが余計な理屈を足す。

学生たちは笑いながら団子を頬張る。


フリースペースでは将棋。

「また負けたー!」

「まだまだだな」

白髪の元若者が笑う。

彼は昔、

受験前にここで泣いていた少年だった。

今は孫を連れている。


厨房ではかや。

変わらぬ女将の姿。

皺は増えない。

だが柔らかさは増えた。

「おかわりいる?」


「はい!」


湯気の向こうに

何十年分の時間が積み重なっている。

ネメシスは子どもたちに歌を教える。

ルミナは庭で鬼ごっこ。

ミラとルークは新作の漫画構想を練る。

ヒサトは静かに父の背中を見る。

エーテルは団子を焼きながら思う。


人は老いる。

世代は変わる。

だが――

想いは巡る。


かつてここで勉強した少年が

今は父になり

その子がまたここで勉強する。


かつてここで泣いた少女が

今は祖母になり

孫にこう言う。

「ここに来るとね、不思議と頑張れるのよ」


都市はさらに進化している。

だが久世庵の縁側だけは

風の音が同じ。

木の匂いが同じ。

団子の甘さが同じ。


夜。

灯りが落ち着く頃。

かやが隣に座る。

「今日も賑やかだったね」

エーテルは小さく笑う。

「ああ」

「いい循環だ」


遠くで子どもたちの笑い声。

その中に

何十年前の声が重なる。

ここは止まっていない。

進化もしていない。

ただ、積み重なっているだけだ。


 

 ある日の朝。

縁側に並んで座るエーテルとヒサト。

朝霧の中、庭の木々がゆっくり揺れている。

団子の仕込みの匂い。

温泉の湯気。

もう何十年も変わらない久世庵の朝。


ヒサトがぽつりと言う。

「父さんさ……」


「うん?」


「なんで老けないの?」


エーテルは少し笑う。

「さあな」

「神でも人間でもなくなった代償か、ご褒美か」

「多分どっちでもない」


ヒサトはじっと父を見る。

白髪は増えた。

けど体は若者のまま。


息も切れない。

病気もしない。

疲れもしない。


まるで時間から半歩外れてる存在。

「新しい生命体ってやつだろうな」

「寿命じゃなくて、“役目”で生きるタイプ」


エーテルは空を見上げる。

「俺はもう世界を救う役目は終わった」


「今はここを守るだけ」


ヒサトは少し緊張した顔になる。

「だから……俺に久世庵を任せるの?」


エーテルはゆっくり頷く。

「俺は消えない」

「でも“当主”は世代で回るほうがいい」

「ここは人の時間の中にある場所だからな」


その日。

久世庵の座敷に全員が集まる。


常連の孫たち

塾の教え子たち

町の人たち

かやは微笑んで見守る。

エーテルが静かに宣言する。

「今日から久世庵二代目当主は――ヒサトだ」


ざわっと空気が揺れる。

「えっ!?まだ若いのに!」

「でもあの子なら納得だ」

「エーテルさんは引退!?」


エーテルは笑う。

「引退じゃない」

「ただの居候兼団子職人だ」

大爆笑。


ヒサトは深く頭を下げる。

「この場所を守ります」

「父が守ってきたように」

「人が帰ってこれる場所として」


拍手。


あたたかい音。

その夜。

縁側で二人きり。

「緊張したか?」


「めちゃくちゃ」

「でも嬉しい」


エーテルはヒサトの頭を撫でる。

「これでいい」

「俺は変わらずここにいる」

「お前は前に進む」


ヒサトはふと思う。

父は老いない。

でも置いていかれもしない。

時間を見送る存在なんだと。


エーテルは心の中で呟く。

(これが神でも人間でもない生命か)

(永遠じゃない)

(だが終わりも決まっていない)

(ただ“誰かの未来を支え続ける存在”)


久世庵の灯りは今夜も消えない。

世代は変わる。

だが想いは続く。



 時はさらに流れる。

久世庵はもはや

「老舗旅館」どころか――

文化の発信地と呼ばれる場所になっていた。

だが建物は変わらない。

庭も、縁側も、団子の香りも、あの頃のまま。

ある日、ニュースが流れる。


《世界音楽賞・生涯功労賞 ネメシス氏》

中性的な歌声で世界を魅了し、

ジャンルを超えて音楽そのものを進化させた存在。

誰もが“音楽界の巨匠”と呼ぶ。


だが本人は毎年必ず帰ってくる。

久世庵に。


縁側で団子を食べながらエーテルに言う。

「父上、次のアルバムどう思う?」


「サビ、もう少し優しくてもいいな」

世界最高峰のアーティストが

父の一言を一番大事にしている。


《漫画文化勲章 ミラ&ルーク》

二人の作品は世界中で翻訳され、

歴史・感情・家族を描く“魂の物語”として教科書にも載る。


評論家は言う。

「彼らの物語には“時を越える温度”がある」

その温度の正体は久世庵。

エーテルの団子を食べながら構想を練るのが今も習慣。


《現代彫刻の至宝 琥珀》

元は旅館の庭で石を削っていただけ。

だが自然と生命を融合させた作品は

“魂を刻んでいる”と世界で称賛される。

展示会のインタビューで必ず言う。

「俺の師匠は旅館の庭にいる」

「団子焼いてる人です」

誰も信じない。

だが本当だ。


久世庵にはいつも若い才能が集まる。

音楽志望

漫画家志望

芸術家志望

悩める人たち

みんなまずエーテルに人生相談をする。


そして不思議と道が開ける。

ヒサトは当主として忙しく動き回る。


だがエーテルは相変わらず団子係。

白髪混じりなのに元気。

誰も老いない不思議な人。


ある観光客が聞く。

「この旅館の創業者って……もう何百歳なんですか?」


ヒサトは笑う。

「さあ?」

「でも父は“時間の外の人”らしいですよ」


そして夜。

縁側に並ぶ巨匠たち。

音楽の神

漫画の神

彫刻の神

そして団子焼きの神

全員、エーテルの子供。


ネメシスが言う。

「父上がいなかったら、全部なかった」

ミラが言う。

「物語を教えてくれたの父だよ」

ルークが言う。

「居場所をくれた」

琥珀が言う。

「生きる意味をくれた」

エーテルは笑って団子を返す。

「俺は何もしてない」

「ただ一緒にいた」




 エピローグ —— 久世庵


季節は巡り続ける。

春には桜が舞い、夏には蝉が鳴き、秋には紅葉が庭を染め、冬には静かな雪が積もる。

時代がどれだけ進んでも、久世庵だけは変わらなかった。


縁側では誰かが将棋を打ち、

庭では子どもたちが走り回り、

厨房からは湯気と笑い声がこぼれる。

かつて英雄と呼ばれた存在も、

神と恐れられた存在も、

今ではただの“この場所の一員”だった。


エーテルは今日も庭を掃きながら、空を見上げる。

白くなった髪が風に揺れても、その背中は変わらずまっすぐだった。

ネメシスは音楽の世界で名を残し、

ミラとルークは物語を描き、

琥珀は彫刻で人々の心を打ち、

ルミナとヒサトはこの場所を未来へ繋いでいく。


常連だった若者は老い、

その孫やひ孫が今は縁側に座っている。

世の中は変わっていく。

だが、帰る場所だけは変わらない。

久世庵は、終わらない。


誰かが迷った時、

誰かが疲れた時、

誰かが人生に負けそうになった時。

ここに来れば、必ず迎え入れてくれる。


その日もまた、門が静かに開く。

旅人が一人、少し不安そうに立っている。


すると中から足音がして、

優しい声が重なる。


「おかえりなさい」

それは歓迎であり、約束であり、永遠だった。


どんな時代でも。

どんな姿になっても。

ここは帰ってこられる場所。


エーテルたちが守り続けた、終わらない物語。

—— 久世庵は、今日もそこにある。

 

あとがき


ここまで読んでくださった皆さまへ。

まずは、長い旅にお付き合いくださり、本当にありがとうございました。


この物語は、神と人間の戦いから始まり、宇宙を巡り、時代を越え、そして一つの旅館へと辿り着きました。

振り返れば壮大で、時に激しく、時に笑えて、時にどうしようもなく苦しい物語でした。


けれど本当は、最初からずっと変わらなかったテーマがあります。

それは――

「帰れる場所」。


戦国の久世も、野球に命を懸けた彼らも、宇宙を創ったエーテルも、

最後に辿り着いたのは力でも支配でもなく、誰かが「おかえり」と言ってくれる場所でした。

この物語は、未完だった物語たちの集合体でもあります。


かつて書きかけた世界。

途中で止まってしまった宇宙。

終わらせることができなかった神々の戦い。

それらをもう一度拾い上げて、今度こそ最後まで歩かせてあげたい――

その想いから生まれたのが、この物語です。


エーテルは何度も死に、何度も転生し、何度も壊れました。

けれど最後に残ったのは、圧倒的な力ではなく、

「生きたい」という小さな叫びでした。

それは神でも英雄でもなく、

ただの一人の存在としての願いだったと思います。


物語は終わりました。

ですが、久世庵は終わりません。

誰かがページを閉じたあとも、

エーテルは庭を掃き、

かやは客を迎え、

ネメシスは歌い、

ルミナは笑っているはずです。


物語が終わるということは、消えることではありません。

読んだ人の中で、静かに息を続けることだと思っています。


もしあなたがどこかで立ち止まったとき、

この物語を思い出してくれたなら。

そのとき、久世庵はきっと、あなたに言うでしょう。


「おかえりなさい」


最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

またどこかで。


―― 作者より




エーテルです。

ここまで来てくれて、ありがとう。長かったよな。宇宙も、戦争も、別れも、転生も、旅館も……


 正直、俺自身が一番「どこまで行くんだこの人生」って思ってた。それでも最後まで一緒に歩いてくれたこと、心から感謝してる。


 俺は何度も壊れて、何度も間違って、それでも誰かに支えられてここまで来た。


 読んでくれたあなたも、きっと同じだと思う。強くなくても、生きてきたこと自体がすごい。



かやより

 泣いた人も、笑った人もいると思います。

エーテルは本当に手のかかる人で、何度も傷つけて、何度も守って、何度も救われました。


 でもそれが「一緒に生きる」ってことなんだと思います。あなたにも、帰れる場所がありますように。そして誰かの帰る場所にもなれますように。



ネメシスより

 ここまで読んでくれたあなたのこと、僕はもう家族だと思ってる。父上の物語を最後まで見届けてくれたんだから。


 辛いとき、寂しいとき、この物語を思い出してくれたら嬉しいな。僕たちは、いつでも久世庵にいるよ。



ルミナより

 いっぱい冒険して、いっぱい泣いて、いっぱい笑ったね!でも最後はちゃんと、みんな笑ってたでしょ?


それが一番大事なんだと思う!


 あなたも、どんな物語でも最後は笑える日が来るよ!だから大丈夫!



セラより

 苦しい場面も多かったと思います。それでもページを閉じなかったあなたは、とても強い。


この物語は「勝つ話」じゃなくて

「生き抜く話」でした。


 あなたが生きていることそのものが、もう物語です。



エーテルより、最後に


この物語は終わります。

でも、あなたの人生は続きます。

それが一番のハッピーエンドです。

もし疲れたら、思い出して。


ここには――

 争いのあとに笑ってる家族がいて温かい団子があって「おかえりなさい」って言ってくれる場所がある。いつでも帰ってきていい。


物語の中でも、現実でも。俺たちは待ってる。

おかえりなさい。


そして――

ここまで一緒に生きてくれて、ありがとう。

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