第十一部 パンイチで挑む美闘祭
宇宙船は、もはや船というよりも一つの小さな街になっていた。
イリスの改造によって内部は何倍にも広がり、通路は迷路のように伸び、天井は星空を映す透明装甲。
まるで宇宙そのものの中を歩いているようだった。
「……でかくなりすぎだろ」
久世がぽつりと呟く。
右を見れば訓練室。
重力を自在に変えられる戦闘区画。
左には温泉のような回復ルームまで用意されていた。
「なんで温泉あるの」
かやが素で聞く。
「長旅には癒しが必要だからよ」
イリスが当然のように答える。
さらに奥へ進むと――
・朔姫と凛専用のスピード訓練室
・夜叉と難波用の耐久破壊ゾーン(既に壁がボコボコ)
・華陽の作戦指令室
・ミラとルークの居住エリア
・レオン専用充電ステーション(なぜか高級仕様)
「……レオンだけ扱いよくないか?」
「気のせいだと思う」
レオンは球体ボディをぷいっと回転させた。
そして最後に現れたのは、大きな共有ラウンジ。
宇宙を一望できる窓。
テーブルとソファ。
食事も会議も団らんも全部ここでできる空間。
かやが静かに言う。
「……旅、ほんとに始まったんだね」
久世は窓の向こうの銀河を見ながら微笑った。
「戦うためだけの旅じゃない。
生きるための旅だ」
こうして久世一行は、
銀河を巡る“家”を手に入れた。
だがこの安らぎの裏で――
ネメシスは確実に次の一手を進めていた。
宇宙はまだ、終わらない。
宇宙船自慢の回復温泉ルーム。
天然銀河鉱石から作られた湯船に、星屑のような光がゆらゆら浮かぶ極上仕様。
「はぁ〜生き返る……」
かやが肩まで浸かる。
朔姫と風夏も気持ちよさそうに目を細めていた。
一方――
入口で止まっている存在がひとつ。
丸い。
ツヤツヤしている。
レオンだった。
「……なあ」
全員が振り向く。
「俺、入れないんだが?」
沈黙。
確かに球体に手足。
服も脱げない。
湯船に沈めたら普通にショート案件である。
「いや無理でしょ」
華陽が即答。
「ロボは風呂じゃなくて整備だ」
夜叉も冷静。
レオンは納得していなかった。
「だがな、久世。
皆が気持ちよさそうにしてるのに俺だけ汚れたままっておかしくないか?」
「……汚れてるのか?」
「宇宙の砂とか戦闘の煤とか付いてるんだよ!」
レオン、謎に潔癖。
久世が腕を組む。
「つまりどうしたい」
「俺も綺麗にしろ」
「方法は?」
「知らん」
堂々。
イリスが少し考えて指を鳴らす。
「じゃあ高圧エネルギーシャワー作る?」
「死ぬわ!」
「分解洗浄?」
「バラすな!」
「洗濯機サイズに改造?」
「扱い雑すぎだろ!」
最終的に完成したのは――
ロボ専用・超音波泡洗浄ポッド
レオンを丸ごと入れて、泡と振動で洗う仕様。
「これでどうだ」
久世が言う。
レオンは半信半疑で入る。
スイッチオン。
ぶぉおおおおおん……
泡まみれで回転するレオン。
「うおおおお!?!?!?
ちょ、目回る!回る!回る!!」
停止。
数秒後。
ピカーーーーン✨
新品みたいに輝くレオン。
「……」
「……」
「……悪くない」
満足。
かやがくすっと笑う。
「レオン、ツヤツヤだね」
「だろ?」
なぜかドヤ顔(球体だけど)。
宇宙船は静かにワープ航路を進み、
星々の光が窓の外をゆっくり流れていく。
船内は平和――
だったはずだった。
「……ドサッ」
突然、金属音とともに倒れる何か。
「レオン!?」
久世が一瞬で駆け寄る。
かやたちも振り向いた。
床に転がる、球体ロボ。
ピクリとも動かない。
「まさか故障か……?」
久世が状態チェックに触れた瞬間、
レオンのランプがチカチカ点滅。
そして弱々しい声。
「く、久世……」
「話せ」
「頼む……俺の……」
一同ゴクリ。
「俺の股間からエネルギー電池替えてくれやぁ……」
ニュッ
本当にニュッと出てくる単一電池。
静まり返る船内。
「」
「」
「」
華陽が目をそらしながら。
「設計者のセンスを疑う」
イリス遠くで口笛吹いてる(完全に犯人)。
久世は無言で電池を引き抜く。
「……切れているな」
「そりゃ風呂入って回転洗浄されてたら切れるわ!」
レオン必死。
かやが予備電池を差し出す。
「これ使う?」
「女神か」
カチッ。
新しい電池を差し込む。
ブォン……ピカァ
レオン復活。
「っしゃあああああ!!生き返った!!!」
即立ち上がる。
さっきまで瀕死だったとは思えないテンション。
久世が低い声で言う。
「……つまり今のは」
「ただの電池切れだ」
「そうなのか…」
夜叉が腕を組む。
「騒ぎすぎだ」
「いや死にかけた気分だったんだよ!?警告音とか出ない仕様なのが悪い!」
朔姫がニヤっと笑う。
「じゃあこれからレオンの体力=単一電池残量ね」
「HP1本=電池1本とかやめろ!!」
そして船内に新ルールが追加された。
“レオンの電池残量は定期確認すること”
かやのメモ帳にでかく書かれた。
「じゃあ私は野菜切るね」
かやが包丁を持ち、リズムよくトントン刻む。
「私は火を調整しますわ」
風夏は姿勢まで美しくフライパンを操る。
炎の強さも完璧。
完全にできる女コンビ。
その横。
「えっと……これはこう?」
朔姫がジャガイモを握りつぶしそうな力で皮をむこうとしていた。
ボリッ。
「……潰れた」
「朔姫、剥くのであって粉砕じゃないから」
「戦場なら勝ってた」
その様子を見守る球体ロボ。
レオンは腕を後ろで組む(細すぎて組めてない)。
「落ち着け朔姫……料理とは力を制する知の戦いだ……」
「父上みたいなこと言うな」
「よし、俺も手伝うか」
レオンが意気揚々と調理器具棚へ。
細っっっそい手でお玉を持つ。
グニャ。
「……あ」
パキッ。
お玉と一緒に腕が折れる。
静寂。
「」
「」
「」
腕、床に転がる。
レオンの本体だけが残る。
「うわああああ俺の戦闘力以前に生活力が低すぎる!!」
「戦場なら無双できるのにキッチンで欠損するな」
夜叉が真顔で突っ込む。
風夏がそっと拾って言う。
「……とても繊細な構造なのですね」
「イリスの趣味だよ!!!」
かやが苦笑。
「レオンは見守り専門だね」
「くっ……監督ポジションか……」
朔姫が包丁を持ちながら言う。
「じゃあ私は?」
「力加減覚える係」
「戦場より難しい」
レオンは折れた腕を戻して(カチッてはめた)
「料理というのは……人類最大の強敵かもしれん……」
その後――
・朔姫が混ぜすぎてボウル破壊
・難波が味見で鍋ほぼ空に
・久世は火力上げすぎて宇宙船アラーム作動
という地獄絵図になりつつも、
最終的には
かや&風夏が全部まとめて立て直して
ちゃんと美味しい宇宙飯が完成した。
レオンしみじみ。
「文明とは……かやと風夏で保たれている……」
久世が頷く。
「同意だ」
この宇宙の平和、
だいたい料理できる人が支えていた。
宇宙船の居住ブロック。
皆がそれぞれ休憩している静かな時間――
凛が忘れ物を取りに通路を曲がった、その先で。
「……ん?」
半開きのドアの向こうから、妙に楽しそうな気配。
そっと覗くと――
そこにはレオン。
いや、正確にはレオンだったもの。
球体ボディは消え、
人型・長身・小柄・筋肉質・細身と次々フォルムが切り替わり、
しかも――
服まで完璧に再現して遊んでいた。
「おおっ、この身体だと可動域が最高だな!」
「こっちはバランス型!」
「この衣装、風通しがいい!」
くるくる回りながらファッションショー状態。
そして――
凛の目が止まる。
それはどう見ても
かやの服
風夏の上品ドレス
朔姫の動きやすい戦闘服
を完全再現した姿のレオン。
しかもノリノリ。
「いや〜再現率100%!科学の勝利だなこれは!」
凛「…………」
数秒フリーズ。
「レオン」
低く呼ぶ声。
ビクッ!!!
レオンが変形途中で
上半身かや・下半身レオン球体という事故状態になる。
「ちょっ!?見てた!?」
凛、無表情で一言。
「……何をしている」
「いやこれはだな、身体可変のテストというか文化研究というか趣味というか」
「なんで女子の服なんだ」
「そこに服があったからだ!!!」
凛、静かに近づく。
「許可は?」
「科学に許可は必要ない」
「必要だ」
その瞬間――
後ろから足音。
かやと風夏と朔姫登場。
かや「え?なにして――」
風夏「……」
朔姫「……」
そこに立っていたのは
かやの姿をしたレオンが風夏の服を着て朔姫ポーズを決めている存在
沈黙。
宇宙より静か。
朔姫「……レオン?」
レオン(かや姿)
「これは事故です」
風夏「どこがですの」
かや「楽しそうだったよね?」
レオン、全力土下座変形。
「すみませんでしたァァァ!!!再現が楽しくてェェ!!」
凛は腕を組んで冷静に一言。
「次やったら久世に報告する」
レオン「それだけはやめろ!!!存在が消される!!!」
久世(遠くでくしゃみ)
「……誰か俺の名を呼んだか?」
こうしてレオンの
無断コスプレ実験事件は宇宙船内で語り継がれることになる。
そして以降――
レオンの変形には
必ず「服の持ち主の許可制」が導入された。
レオン事件から数時間後――
宇宙船のラウンジ。
そこには、妙に静かな空気と。
満面の微笑みを浮かべる風夏。
そしてその正面に立たされているのは……
かやの姿になったレオン。
「ではレオン、動かないでくださいね?」
「嫌な予感しかしないんだが???」
風夏の手には
どこから取り出したのか分からない大量の服。
上品ワンピース
宇宙ドレス
リボン付きコート
ちょっとお嬢様風
なぜか和装まで。
「普通のかや様は、こういうことさせてくれませんもの」
にっこり。
「ですから……いい機会ですわ」
レオン「待て待て待て理屈がおかしい」
風夏「遠慮なさらず」
シュババババッ
(着せ替え速度が異常)
数秒後。
そこにいたのは
・清楚系かや
・貴族令嬢かや
・戦闘ドレスかや
・アイドルかや
・王女かや
を高速ローテーションされるレオン。
レオン(かや姿)
「俺はロボだ!!!着せ替え人形じゃない!!!」
風夏「はいはい、とてもお似合いです」
そこへ通りかかる朔姫。
「……なにしてるの?」
風夏「教育です」
レオン「拷問だ!!!」
次に凛。
凛、状況を一目で理解。
「……自業自得だな」
レオン「助けろよ!」
凛「むしろ続けていい」
さらに難波。
「おぉ!?かやが増えた!?」
レオン「俺だ!!中身俺!!」
難波「……夢か?」
風夏、満足そうに腕を組む。
「やはりかや様の姿は、どんな装いも完璧ですわね」
レオン「中身の尊厳は!?」
「知りません」
そこへ久世の足音。
一同、凍る。
久世「……何をしている」
風夏、優雅に一礼。
「着せ替えです」
久世、レオン(かや姿)をじっと見る。
「……悪くない」
レオン「お前まで肯定するな!!!」
久世はかや本人を見る。
「かや、今度これ着てみないか」
かや「絶対やだ」
即答。
風夏、満足げにうなずく。
「やはりレオン様は貴重な存在ですわ」
レオン「実験動物扱いじゃねぇか!!!」
こうしてレオンは悟った。
久世家において一番怖いのは風夏である。
剣でも鬼でもなく、
笑顔で服を持つ女性こそ最強。
ジンはレオン(まだかや姿でフリフリドレス)の横を通りながら、ふっと真顔になる。
「……風夏。
その行為、決して無駄ではない」
一同「?」
ジンは宇宙船の窓の向こう、航路マップを指さす。
「次に向かう星――
ファッションの星」
「別名、“美の星”。
文明の価値基準がすべて美と表現力で決まる世界だ」
レオン「……嫌な予感しかしない」
ジンは淡々と続ける。
「この星では戦闘力よりも
・服装
・立ち振る舞い
・オーラ
・美意識
これらが“階級”を決める」
「着こなしひとつで王族扱い
失敗すれば即下層民だ」
朔姫「え、怖」
凛「戦わなくても地獄じゃん」
ジンは風夏を見る。
「つまり風夏の行動は――
生存訓練だ」
風夏、誇らしげに微笑む。
「やはり必要でしたのね」
レオン「俺が犠牲なの納得いかねぇ!!」
ジンはレオン(かや姿)を評価するように眺める。
「だがレオン、君は完璧な被写体だ」
「どんな姿にも変形できる身体
これは美の星では最強の才能だ」
レオン「才能の使い道が屈辱方面なんだが!?」
久世は腕を組み、少し楽しそうに言う。
「つまり次の星では――
戦う前に魅せる戦場というわけか」
ジン「その通り」
「美を制した者が、星を制す」
かや、小声で。
「……久世、また目立つよね」
久世「避けられんな」
風夏は新たな服を手に取る。
「ではレオン様、第二ラウンドですわ」
レオン「話聞いてなかっただろ!!」
宇宙船は静かにワープ準備に入る。
その先に待つのは――
剣でも拳でもなく、美で殴り合う星。
そして犠牲になるのはほぼ確実にレオン。
ルミエラ上空。
宇宙船の窓いっぱいに広がるのは、宝石をばら撒いたような都市群だった。建物はすべて曲線で構成され、光が流れるように走り、空中にはドレスのホログラム広告やモデルの映像が舞っている。
降下するだけで分かる。
ここは「美」が通貨で、「存在感」が武器の星だ。
着陸と同時に、透明な光のゲートが展開される。
ジン「全員、降りるぞ」
地面に足をつけた瞬間――
ブォン、と光が久世たちを包んだ。
無機質なアナウンスが響く。
《外部文明種族を確認》
《美意識ランク:未登録》
《階級判定:下層民》
次の瞬間。
景色が一変した。
さっきまでのきらびやかな都市は消え、ひび割れた床、色あせた建物、くすんだネオン。
空気すらどんより重い。
まるで別世界だった。
朔姫「うわ……落差えぐ……」
凛「同じ星とは思えないな」
風夏「美で身分が分かれる社会……恐ろしいですわね」
そして一番ショックを受けていたのが――
レオン(球体ボディ)
「ちょっと待て!?俺さっきまでファッションモデルだっただろ!?今ゴミ置き場の隣なんだが!?」
通りすがりの住民が鼻で笑う。
「外星人かよ」
「見た目ダサすぎ」
「下層民エリアがお似合いだわ」
久世の目が一瞬細くなる。
だがジンが小さく首を振る。
「ここで力を使えば即拘束だ。
この星では“美を持たぬ暴力”は罪になる」
久世「……なるほど、厄介だな」
そこへドローン型の管理端末が飛んできた。
《下層民は居住区Dブロックへ移動せよ》
《昇格条件:美的評価ポイント100以上》
かや「ポイント制なんだ……」
ジン「美しい服装、立ち居振る舞い、影響力。
すべてが数値化される」
「この星では努力すれば上に行ける。だが――
下から這い上がるのは地獄だ」
遠くの上層エリアでは、光に包まれた人々が優雅に歩き、歓声と音楽が響いている。
それを隔てるのは、見えない“美の壁”。
朔姫、拳を握る。
「つまりここは戦場じゃなくて……
オシャレで殴り合う世界ってことね」
凛「最悪のルールだな」
その時。
下層エリアの大型スクリーンが突然切り替わる。
そこに映ったのは――
息を呑むほど美しい男女たち。
《本日の美闘祭》
《優勝者は即・上層民昇格》
レオン「え、なにそれ命綱イベントじゃん」
ジン「ルミエラ最大の昇格戦だ」
「美で戦い、美で這い上がる」
久世は静かに笑った。
「面白い星だな」
かや「久世……嫌な顔してないのが一番怖い」
そして風夏が袖をまくる。
「下層民スタート……
つまり、ここから完璧に成り上がれということですわね」
朔姫もニヤリ。
「美の戦場?望むところよ」
一方レオン。
「待って待って待って!!
俺この星来てまだ5分なんだけど人生ハードモードすぎない!?」
こうして――
戦わずして地獄、
美を制さねば人権なしの星編が始まった。
ここから久世たちは
力ではなく“魅せ方”で世界をひっくり返すことになる。
下層エリアに降ろされてから数時間。
イリスはというと――
宇宙船の工房で一人楽しそうに工具を振り回していた。
「この推進器、花みたいに開いたら可愛いよねぇ〜」
「レオン用に変形ギミック百二十七個目っと♪」
完全に現地の惨状を知らない。
その頃、ルミエラ下層。
かや・風夏・朔姫の三人が歩いただけで空気が変わっていた。
人々が振り返る。
ドローンが一斉に反応する。
《美的評価+5》
《存在感補正+8》
《視線捕捉ボーナス+12》
かやが首を傾げる。
「……なんか増えてる?」
風夏は優雅に微笑むだけで+15。
朔姫が軽く髪を払った瞬間、
《連続視線補足ボーナス発動》
ポイント爆増。
通りのスクリーンが更新される。
【下層民ランキング】
1位:カヤ
2位:フウカ
3位:サクヒメ
わずか十分。
一方――
久世。
《評価:0》
凛。
《評価:0》
夜叉。
《威圧が強すぎます −5》
難波。
《建物が揺れました −10》
レオン。
《分類不能:物体》
ポイント以前の問題。
久世「……おかしいな」
凛「俺たち何もしてないのに減ってないか?」
夜叉「視線が逃げていく」
難波「子供が泣いたぞ」
レオン「俺生物扱いされてないんだけど!?」
かや達の端末はキラキラ光り続けている。
対して男性陣の表示は灰色。
通行人のヒソヒソ声。
「下層にしてはあの三人、上層レベルじゃない?」
「でも後ろの連中……災害じゃん」
「ロボ混じってるし」
朔姫が振り返る。
「え、なんでみんなゼロなの?」
久世「理不尽すぎるだろこの星」
風夏「この星は“美に安心感”が必要なのですわ」
「威圧と筋肉と殺気はマイナス評価です」
夜叉&難波、同時に納得。
「ああ……」
レオンが地面に転がる。
「終わった……俺この星で一生下層民だ……」
その瞬間。
ランキング更新音が鳴り響く。
かや達はもう中層民昇格ライン目前。
久世たちは依然ゼロ。
凛「これ、完全に詰んでないか?」
久世「力じゃ解決できない世界が一番厄介だな……」
そしてその頃――
宇宙船の工房。
イリスは鼻歌まじりで巨大メカを作りながら言っていた。
「外のみんな、どうなってるかな〜♪」
絶望の空気が下層民エリアを覆っていた。
女性陣はポイント爆上がり。
男性陣とロボはゼロのまま。
まさに美の格差社会。
レオンは端末を見て震えていた。
《評価:物体》
《ポイント:0》
「……いや待て」
「俺、“見た目”が問題なら――」
球体ボディがぷるっと震える。
「変えればいいじゃん!!」
その瞬間。
レオンの身体が分解するように展開し、光のラインが走る。
ぐにゃり、と形が伸び――
数秒後。
そこに立っていたのは。
長身スリム、銀髪、シャープな顎線、モデル体型の超イケメン。
完璧すぎる造形。
通行人たちが一斉に振り向く。
ドローンが過剰反応。
《美的評価+20》
《存在感+25》
《希少美補正発動》
レオン(イケメン形態)
「ほら見ろォォォ!!!これが科学の力だァァァ!!!」
端末更新。
《レオン:ポイント47》
一瞬で中層民目前。
久世「裏切ったなロボ」
凛「お前だけ進化方向おかしいだろ」
夜叉「許せん」
難波「つか掴みたい」
レオンはドヤ顔。
「美は努力だよ諸君」
「努力(改造)だけどな!!」
通行人がうっとり。
「誰あの人……」
「下層にいるのおかしくない?」
そしてレオンが振り返って言う。
「つまりさ」
「君たちも“変身”すればいいんじゃない?」
男性陣が静かに固まる。
久世「……変身?」
凛「嫌な予感しかしない」
その時。
宇宙船の工房から通信が入る。
イリスの声。
「え、なに?
下層民で詰んでる?
じゃあ今から全員“美仕様改造スーツ”作るね♪」
久世たち、戦慄。
宇宙船の工房。
状況を知ったイリスが静かに眼鏡を光らせた。
「ふーん……下層民で詰んでる?」
「なら“美の再構築”しよっか」
数分後。
凛・夜叉・難波は改造台に並べられていた。
光のアームが高速で動く。
凛はシャープな黒のロングコート系宇宙スーツ。
顔立ちがさらに映える洗練デザイン。
夜叉は威圧を抑えた重厚エレガント鎧風スーツ。
怖さが“カリスマ”に変換される。
難波は筋肉を活かした王者スタイル。
力強さが「頼れる男補正」に変わる。
ドローン反応。
《美的評価急上昇》
《威圧マイナス解除》
ポイントが一気に増えていく。
凛「……増えてる」
夜叉「視線が逃げぬ」
難波「子供が泣かなくなった」
完璧。
そして久世。
イリスがじーっと見つめる。
「……」
「久世はね」
「完成されすぎてて足すものが無い」
一瞬安心する久世。
「そうか」
次の瞬間。
服が消えた。
パンイチ。
完全パンイチ。
宇宙仕様ですらない、ただのパンイチ。
久世「……は?」
凛「え?」
夜叉「殿???」
難波「何が起きた???」
イリスは満足げ。
「余計な情報を消したの」
「究極の素材美」
「“存在そのものがファッション”理論」
レオンが爆笑。
「やべぇ!!この星で一番攻めたスタイルだぞそれ!!」
久世「ふざけるな」
だがドローンが狂ったように反応する。
《原初美補正発動》
《肉体黄金比》
《カリスマ存在補正》
《異次元オーラ評価》
ポイント爆増。
通行人がざわめく。
「なにあの人……」
「怖いのに目が離せない……」
「美しすぎて意味わからない……」
ランキング更新。
【下層民 → 中層民 → 上層民直行ライン】
久世、一気にトップ。
凛「服着てないのに勝ってるのおかしくないか?」
夜叉「殿だけジャンルが違う」
難波「裸の王だ」
久世、頭抱える。
「この星の価値観どうなってる……」
イリスが親指立てる。
「成功♪」
ルミエラ中央上層都市。
巨大円形コロシアム――美闘祭会場。
光の階段をモデルたちが優雅に降りてくる。
ドレス、装甲服、ホログラム衣装。
美の頂点を競う者たち。
観客は歓声の嵐。
そこへ。
場違いすぎる影が現れた。
ぺた…ぺた…と響く足音。
静まり返る会場。
パンイチ。
筋肉と威圧と王の風格だけで立つ男。
ざわっ……!!!
「え?」
「は?」
「なにあれ」
「服どこ???」
司会ドローンがエラー音を鳴らす。
《未登録衣装を検知》
《美意識違反……評価不能》
観客の一人が震える声で言う。
「……いや違う」
「“裸”が完成形なんだ」
次の瞬間。
評価装置が暴走。
《原初美臨界突破》
《王威オーラ過剰反応》
《観客心拍上昇率異常》
会場がどよめく。
「誰だあの男!!」
「裸なのに圧倒的に一番美しい!!」
「近づけないのに目が離せない!!」
いつの間にか誰かが叫ぶ。
「裸の王だ!!」
その名が連鎖する。
「裸の王!!」
「裸の王!!」
「裸の王!!」
久世(小声)
「帰りたい」
かやが観客席で顔を覆う。
「久世……!」
風夏は笑いを必死にこらえ。
朔姫は腹抱えてる。
凛「歴史に名を刻んだな……」
対戦相手の美闘士たちが一歩後ずさる。
「近づけない……」
「美ってレベルじゃない……存在が暴力……」
司会ドローンが震えながら宣言。
《緊急ルール変更》
《本試合は“存在感勝負”へ移行》
久世、ただ立っているだけ。
風が吹くだけ。
観客が息を呑むだけ。
10秒後。
《勝者:裸の王》
即終了。
コロシアム、爆発的歓声。
上層民エリアがざわつく。
「下層から怪物が出たぞ」
「美の概念が崩れた」
こうして久世は――
ルミエラ史上最短優勝者にして伝説の存在となった。
翌日――ルミエラ全域に緊急法令が流れる。
ホログラム掲示板が一斉点灯。
《美闘祭特別法 第001号》
公共空間でのパンイチ行為を永久禁止とする
(違反者:美ポイント即時没収)
街中ざわつく。
「そりゃそうだろ!」
「昨日がおかしかっただけだ!」
「文明守れ!」
その瞬間――
久世のステータス端末がピコンピコン鳴り狂う。
《美ポイント減算:−100000》
《減算:−50000》
《存在が場違いです》
《減算:無限》
数秒後。
《あなたは下層未満ランクに降格しました》
場面転換。
ゴミ処理区画。
煙の上がる廃棄炉。
腐った果物と壊れたドローンの山。
その横に――
パンイチ男、体育座り。
王の風格ゼロ。
久世
「……昨日は頂点だったんだがな」
通行人が遠巻きに囁く。
「あれが伝説の裸の王?」
「今はただの不審者じゃん」
「臭そう」
風に舞う紙くずが久世の頭にペタッ。
そこへかやたちが探しに来る。
かや「久世ぇぇ!?何してるの!!」
風夏「星で一番落差激しい男」
朔姫「歴史に残る転落」
凛「ポイント制度こえぇ」
久世、真顔で言う。
「……文明は裸を許さぬ」
その背後。
ゴミ処理ロボが警告音。
《不審人物を検知しました》
《排除対象》
レーザー準備。
かや「待って待って待って!!!」
こうして――
昨日:美の頂点
今日:処分対象
という宇宙史上最速転落記録が誕生した。
ゴミ処理区画。
焼却炉の熱風が吹き荒れる中――久世は静かに立ち上がった。
目を閉じ、深く息を吸う。
久世
「……文明が衣を求めるなら、俺は文明を超える」
次の瞬間。
ドン―――ッ!!
創生エネルギーが下腹部に集中。
そして――
謎の神々しい光
完全防御フィールド発動。
もはやパンツという概念すら超越。
かや「ちがう!!そうじゃない!!!」
風夏「進化の方向おかしいです!!」
朔姫「なぜそこに全力を注ぐの父上!!」
凛「これが創生の守護者の末路か……」
だが久世は止まらない。
神々しく発光しながら堂々と歩き出す。
ゴミ処理ロボのスキャンが止まる。
《衣服…未検出》
《だが……神聖すぎて判断不能》
《通行許可》
久世、勝利。
そして向かう先は――
ルミエラ最大の舞台。
美闘祭コロシアム。
観客数十万人。
煌びやかな衣装の戦士たち。
そこへ――
股間だけ神の光を纏った男、降臨
会場、静まり返る。
数秒後。
「なにあれ……」
「新ジャンル?」
「裸の神?」
「いやただの変態では?」
審判ロボ困惑。
《服装違反……だが神格判定が高すぎます》
《ルール適用不能》
久世、堂々と宣言。
「衣を競う場ならば――
俺は存在そのものが美だ」
イリス(通信越し)
「なんで改造待たずに裸で覚醒してんのこの人」
こうして始まる――
光のパンイチ守護神 vs 銀河ファッション戦士たち
誰も予想しなかった美闘祭の伝説回。
久世は歩みを止め、静かに息を整えた。
股間だけに集中させていた創生エネルギーが、ゆっくりと全身へ流れていく。
髪がふわりと浮かび上がり、闇の宇宙を映したような深い青銀へ変化。
一本一本が光の粒子をまとい、星屑が舞っているようだった。
肌には薄く幾何学模様の光紋が浮かび、鼓動に合わせて脈打つ。
まるで――
人型のビッグバン。
観客がざわつく。
「なにあれ……芸術?」
「神話クラスじゃない?」
「服着てないのに一番美しいってどういうこと?」
かやは呆然と見つめて、ぽつり。
「……久世、進化の仕方だけ毎回ズレてるけど、かっこよすぎるでしょ」
朔姫
「父上がついに“存在が衣装”の領域へ……」
凛
「もはや美闘祭の概念が崩壊している」
審判ロボが再スキャン。
《個体識別:創生存在》
《衣装評価:不要》
《存在美:測定不能》
《……特別参加許可》
久世、公式ルールを超越。
創生エネルギーは髪だけでなく、筋肉の動きに合わせて光が走り、動くたびに残光が舞う。
一歩踏み出すたび、床に星の軌跡が残る。
完全に神話枠参戦。
久世
「なるほど……この星の“美”とは、飾ることじゃない
生き様そのものか」
その瞬間。
対戦相手のファッション戦士たちが、
武器を構える手を震わせる。
「勝てるわけないだろ……あれ“存在”で殴ってくるタイプだ」
そして実況が叫ぶ。
「美闘祭史上初!!
装備ゼロ!だが神格MAXの創生戦士、久世エントリー!!」
コロシアム全体が静まり返った。
空間そのものがきらめき、光の花弁のような粒子が舞い落ちる。
玉座がゆっくりと宙から降臨する。
そこに座るのは――
この星ルミエラにおいて最古にして最美と語られる存在。
誰もがひざまずく。
「美の女王が……現れた……」
女王はゆっくりと視線を上げた。
星の輝きを閉じ込めたような瞳。
だが――
その視線は、観客ではなく、一直線に久世を射抜く。
数秒の沈黙。
次の瞬間。
女王は玉座から立ち上がり、裾を引きずりながら歩み寄る。
ざわめく民衆。
「え……?」
「まさか……」
「女王が自ら……?」
そして。
女王は久世の前で、跪いた。
「……クゼ様」
コロシアムが凍りつく。
かや
「えっ……女王が……久世に?」
朔姫
「この星で跪くのは神だけのはず……」
凛
「つまり父上は……この文明より古い存在……?」
女王の声は震えていた。
だが恐怖ではなく、懐かしさと敬意だった。
「創生の時代……
星々がまだ名も持たぬ頃……
あなたはこの星を“美の光”で満たしてくださった」
「我らが文明は、クゼ様のエネルギーの余波から生まれたのです」
観客たち、理解が追いつかない。
「え……この星の始祖……?」
「美の起源……?」
「伝説どころじゃない……宇宙史……」
久世は目を見開く。
「……俺は、そんなことまでしてたのか」
女王は微笑む。
「はい。
あなたは戦いの合間に、こう言われました」
《力だけの宇宙では滅ぶ
美があるから命は守りたいと思える》
「その言葉で、この星は生まれました」
女王は顔を上げ、涙を浮かべる。
「そして今日、創生の守護者は再び帰還された……」
場内システムが暴走気味に表示。
《存在認証:創生起源》
《文明創始者:クゼ》
《美闘祭権限:全解放》
実況、声が裏返る。
「ルミエラ文明の創始神が参戦中だとォォォ!?」
久世、パンイチどころか
文明の祖降臨エンド。
女王は静かに息を吸い、遠い時代を思い出すように語り出した。
「クゼ様……このルミエラで」
「最初に女王となり、最初にこのコロシアムを制した存在」
「それが――セラ様でした」
その名が落ちた瞬間、空気が変わる。
かやが息を呑み
朔姫の指が震え
凛はゆっくり目を閉じる。
久世だけが、言葉を失っていた。
女王は続ける。
「創生の時代、セラ様はただ美しいだけの存在ではありませんでした」
「戦いの中で傷ついた星々を癒し
争いで荒れた文明を立て直し
そしてこの星に“競い合いで進化する文化”を残した方」
「それが――美闘祭の始まりです」
観客席がざわめく。
「美闘祭って戦争をなくすためにできたって伝説…」
「勝者が支配するんじゃなく、導く存在になる制度……」
女王は久世をまっすぐ見る。
「セラ様はこう言われました」
《争いを力で終わらせても、また争いは生まれる
だから“美しさ”で人を導く世界を作る》
「そしてその理念を支えたのが、クゼ様――あなたです」
久世の胸が締め付けられる。
忘れていた記憶の奥で
セラの笑顔が、確かに重なっていく。
「セラ様は初代女王となり」
「初代王者としてコロシアムを制し」
「この星を“戦いの星”から“美と進化の星”へ変えました」
女王は深く頭を下げる。
「私たち女王は皆、セラ様の系譜です」
「血ではなく、意志を継ぐ者として」
沈黙の中、かやがそっと久世の手を握る。
「……久世」
「あなたが守った人が、宇宙を変えてたんだね」
久世はかすかに笑う。
「セラは……どこまでも凄いな」
女王は最後に静かに告げる。
「ですが――」
「ネメシスが最初に滅ぼそうとした星も」
「最初に奪おうとした欠片も」
「すべて――セラ様に縁のある文明でした」
つまり。
ネメシスの標的は最初から
セラと久世の創った宇宙そのもの。




