第20話 マディアの家
オルシャドール殿下の後を追うとオルシャドール殿下は王族の居住区までは来たが自分の部屋ではなく中庭へと出て行く。
ここは最初に潜入した時にオルシャドール殿下が池の中を見てエドと会話をしていた中庭だ。
すると今度もオルシャドール殿下は池の中を覗き込む。
そしてなにやら短い呪文を唱えた。
もしかしてまたエドと会話するつもりかしら。
エドを真の魔王にしたくなくても表向きはオルシャドール殿下は魔王代理だもんね。
自分の本性を隠してエドに仕えているに違いないわ。
今の段階でエドにオルシャドール殿下はエドの敵だと伝えても証拠はない。
まだ王家の魔法書は見つかっていないしオルシャドール殿下が真の魔王にしたいと思っている人物も特定できていないのだ。
シャナールの仕事はなにより確実な情報とそれを裏付けする証拠品をそろえること。
それがなくては依頼主への依頼を果たせたとは言えない。
今回の場合は王家の魔法書の場所を示すモノかもしくはオルシャドール殿下が確実にエドの敵である証拠が欲しいところだ。
オルシャドール殿下がすぐにエドに危害を加える可能性がなければ焦らずに証拠集めをした方がいい。
なので私はオルシャドール殿下から少し離れたところで池の中を覗き込むオルシャドール殿下の様子を伺う。
「元気にしているかい? マディア」
え? マディアって言ったけど話している相手はエドじゃないの?
マディアってなんか女性っぽい名前だけど。
「ああ。またポーラン商会から買い物をしたから後日届けるよ。それより至急あの御方に会いたいのだが今夜君の家に行ってもいいかい?」
あの御方ってきっとオルシャドール殿下が真の魔王にしたい人物よね。
マディアって人の家にその人物がいるのかな。
「そうかい。それじゃ、今夜0時前に王宮を出る。いつも通りに使用人に化けて行くからよろしく頼む」
そう言ったオルシャドール殿下は再び中庭から出て行く。
そこで私は考える。そろそろ私の透明人間になれる時間の制限時間が迫っているのでここは一度出直して夜中にマディアの家に向かうオルシャドール殿下を尾行した方がいいかもしれない。
もしかしたら王家の魔法書もそのマディアという人物の家にあるのかもしれないし。
まずはオルシャドール殿下があの御方と呼ぶ相手を特定するのが大事だ。
その人物が具体的に誰か分かることでエドの本当の敵が分かるはず。
そうと決まったら夜中のスパイ活動のためにマクシオン商会に戻って昼寝をしておこうっと。
私は王宮を脱出してマクシオン商会に戻ると夜まで仮眠を取った。
そして夜になると再び私は王宮へと向かう。
えっと、王宮の正門は夜中は閉じているわよね。
オルシャドール殿下は使用人に化けるって言ってたからきっと使用人用の通用口から出てくると思うんだけど。
大きな正門は閉じられていても使用人たちが出入りする通用口は開いている。
もちろん見張りの兵士はいるけれど。
私は王宮の通用口が見える建物の陰で待機する。
すると通用口からひとりのフードを被った外套と来た人物が出て来た。
「どこに行くのだ?」
兵士がその人物に問いかける声が聞こえた。
「オルシャドール殿下の密命で外出します。これがオルシャドール殿下からいただいた許可証です」
「うむ。間違いないな。通っていいぞ」
許可証を兵士に見せた人物はそのまま王宮の外に出る。
この時間にオルシャドール殿下の密命での外出許可証を持っているならこの人物がオルシャドール殿下本人に間違いないわね。
顔は分からないけど背恰好はオルシャドール殿下に瓜二つだし。
その人物をオルシャドール殿下だと確信した私はその人物の後を追う。
しばらく王都の通りを歩いていたがある庶民の家にしては少し大きい家の前までやって来た。
ここがマディアの家かしら。
お金持ちの屋敷には見えないけど比較的大きな家ね。
家を見てマディアという人物は少なくとも貴族のような身分ではなさそうだと私は推測する。
ここから先は透明人間にならないとマディアの家に侵入できないので私は急いで透明人間になった。
オルシャドール殿下らしき人物が家の扉を叩くと扉が開いた。
中から顔を出したのは茶髪に茶の瞳の若い女性。若い女性に見えても魔族なら実年齢は分からないけど。
「オルシャ。お持ちしておりました」
「マディア。遅くなったがあの御方は起きているか?」
「はい。あなたが来ると話しておいたので昼間いっぱいお昼寝をして起きています。今、玩具で遊んでいますわ」
は? あの御方っていう人物は玩具で遊ぶような人なの?
いったいどんな人なんだろう。
「そうか。では中に入れてくれ」
「どうぞ」
私もオルシャドール殿下らしき人物の後から家の中に滑り込む。
するとフードを被っていたその人物がフードを取り外套を脱いだ。
やはりその人物はオルシャドール殿下だった。
そして家の中を見渡すと床の絨毯の上で玩具で遊んでいる幼女がいる。
しかし他にあの御方らしい人物は誰もいない。
え? まさか、この幼女があの御方って訳じゃないわよね。
だってまだ3歳ぐらいにしか見えないし。
いくら魔族が見た目と実年齢が比例しないと言っても3歳に見える幼女が大人だとは思えない。
「クレア」
オルシャドール殿下が幼女の近くに座り声をかける。
玩具で遊んでいた幼女がオルシャドールの顔を見た。
「パパあ~」
そうか。この子がオルシャドール殿下の子供なのね。
じゃあ、このマディアって人はオルシャドール殿下の奥さんなのかな。
「クレアに間違いないな。マディア、今の時刻は?」
「あと3分で午前0時になります」
「それじゃあ、3分後を待つか」
3分後を待つってどういう意味だろ?
カップラーメンでもできるのかな。
疑問に思いながらも私もその二人と一緒に3分待つことにした。
そして3分後、午前0時の鐘が鳴るのが聞こえる。
「ああ、まったく、この身体もうぜえな」
その瞬間、クレアがそう話し玩具を放り投げた。
え? 今の言葉ってこの幼女のクレアが言ったの?
クレアって何者!?




