12話
「こ、こんど後輩にちゃんと分かりやすかったか、聞こう。私はきちんと教えていたはずなのにー」
「いやー、そうやって『言わせた』みたくパワハラになったらダメなんだろ」
「そんなパワハラなんてしてないよー。嫌われてる先輩みたいじゃん」
「まぁまぁ、お世辞をいってくれる程度には嫌われていなかったはずですよ」
「えー!距離おかれてたみたいな言い方やめて!愛される尊敬される先輩なんだから」
二人から散々な言われようでいじけてしまう。
「アイ・ハ殿の人間性はともかくですな。射型の話にもどりますぞ」と1984号さん
「私の人間性がダメみたいなことになってるー!」
「ハッハッハ」
「笑ってごまかされたー!」
なんか途中から1984号さん、中に人がいるみたくなってる、悪い意味で。
「うむ。それよりアイ・ハ殿は射型の基本は出来ております。ここでレベル上げするなら近射より18メートルの距離で練習されてはいかがですか?」
と勧められる。
競技アーチェリーの試合での最短距離は30メートル、けど初心者が練習する時や、チューニングしたばかりの弓矢を試すときなどは18メートルの距離で行う。たしかにサイト・照準器なしでの射型に慣れるためには近射ばかりやっているわけにはいかない。
っと、その前に
「ここでレベル上げっていうのは制限はないの?」
私の人間性に関する話は後でちゃんと解決することにする。それより、ここは練習場という扱いのはずだ。無限にレベルアップできるのだろうか?
「うむ、システム的な制限はないですがな、今のままでは実質的に制限されますな」とまたもやナゾナゾみたいな答えが返ってくる。
「そうか、最高ダメージですね。」とメハシ君。
「あぁ!なるほど私だけレベルアップしていた理由ね」
メハシ君の一言で私にも理解できる。二人は私と同じくらい練習していても射型に問題があるためダメージがでていないらしい。最高ダメージが高い私だけがレベルアップしていたのだ。けど逆に言うと私も今の装備、スリングショットではダメージに限界がすぐに来てしまう。今の装備より良い装備に更新していかないとレベルがあげられないという事だろう。
「とりあえず今の装備でもまだレベル上げできるのかな?」と聞くと
「うむ。その質問にはお答えできのです。どうかご自分で試されてほしいですぞ」
と1984号さんに返される。
うーん、システム的に回答が制限されているのかな。自分でやってみてレベル上げできるか試すしかないみたい。
でも、延々と練習してみて現在の武器では経験値がたまらずに無駄だったとなったら、かなり嫌だ。
それなら新しい弓を作ったり、ギルドに入るなりしてストーリーを進められるような次のステップに進みたい。
そう思って悩んでいると、ちょうど良くメハシ君が自分の携帯端末を見ながら
「僕の戦闘職の経験値は今、70%ってなってますね。」
と、確認している。なるほど、そこで確認できるのね。
自分の端末を取り出して見てみる。システム画面から辿っていくと職業画面というのが表示できる。レベル上げてから喋ってばかりで何射も射ってないけれど7%ほど経験値が溜まっている。
「私もまだレベル上げ出来るみたいだし、もすこしスリングショットで納得のいく射型を研究してみるから、ちょっと離れて練習するけど。何か分からないことあったら何時でも聞いてね?」
そういって二人から離れる。
さて、的までの距離が今までの近射に比べて、だいぶ遠くなる。18メートルと言えば的もはっきり視認できるけど、感覚的には全然違う。近射ははっきり言えば身体の使い方、弓の引き方を知るための練習になる。上級者にとっては準備運動になる。
でも距離があると、さっきまで質問していたこと『照準器なしで狙う』ことの難しさが、より一層はっきりしてくる。
一回、二回、三回とスリングショットで玉を射ち込んでいく。とりあえず競技アーチェリーでやるように顎の真下に手を持ってくるように引いていく。
1射目は的に当たらず、的の上、壁に当たってしまう。2射目はギリギリ的には当たるが上すぎる。3射目も的の上の方にあたる。
うーん、やっぱり狙いがつけにくい。
言葉にすると『狙う』と言うのは単純なことだし、究極的には感覚の問題なので自分がしっくり来て、キチンと当たれば良いんだけど。
こういうことを整理できないとマズイのだ。部活の時に、先輩から言われたことがある。
「なんとなく練習していても、ずっとやってると何故か当たりだすときが来るんだよ。それが試合の時ならいいけどな。でもダイタイはそう上手くいかない。なんとなく調子が良いのは長続きしない。
自分なりの言葉で良いから、どうして上手く行かないのか原因を考えて、対策をたてる。そうして意識的に練習して、問題を解決する。そうすれば試合だろうと練習だろうと何時でも上手くいくようになるから。だから頭を使って練習しろ」
話は長いし、お説教も多い人だったけど教えるのに熱心な先輩で、そこは良い人だった。たしかに頭を使わないとね。身体をつかって弓を射るわけだけど。
この『狙い』問題も、なんとなく引きづらいとか、なんとなく狙いにくいんじゃなく、『これ』って分かる原因を探り出して、解決しないと上達しない。少なくともそんな気がする。
やっぱりアンカーは唇の横に持ってくるのが一番良いと思う。引いてきたゴム紐が視界の中にきれいに収まるのだ。ゴム紐の線を心のなかで伸ばしていく。その線が的に向かっていくようにする。この感覚が「狙う」って感じがする。
今までよりちゃんと引けている気がする。押手も狙いを保ったままキチンと伸ばせている。
この感覚は、いわゆるトップアスリートが経験するゾーンってやつかしら。
今なら身体のすみずみまで意のままに動かせる気がする。スリングショットすら自分の一部になったような気がする。
今なら当たるっ!
そう確信して放った。
ボスんっと音を立てて、的の下の木材がへこむ。
は、外れた。しかもさっきより大きく外している。
「そ、そんなアホな!」
調子に乗るとあたらない。




