馬鹿と美食家は紙一重
――某市役所・幽霊総務課
その日、荷物が届いた。
段ボールに貼られたラベル。
【農場班より】
高未練濃度野菜(試食用)
取り扱い注意
――嫌な予感しかしない
箱がかすかに動いている。
「零さん、受領印お願いします。」
私はため息をつきつつ受領印を押した。
――ドクン
中から音がした。
「生きてませんよね?」
「……野菜です^^」
「なんの間ですか今の…」
箱を開けるとそこには農場で見た紫黒い白菜があった。
葉の間からはもやもやしたオーラが漂っている。
「農場の失敗作です。
心霊スポットから回収した負の感情エネルギーが濃すぎたそうです。」
「ああ、あの“夜中に来たカップルが別れ話して帰る場所”で定番の…」
「ええ。未練と嫉妬と自己嫌悪のブレンドです。」
――最低なブレンドだな…
つまりこれは負の感情がたっぷり注がれた野菜。
「廃棄でいいですか?」
「いえ!」
背後から低い声。
「めったにお目にかかれない香ばしい香り!
それを待っていました。」
振り向くとそこにいたのは細身の男の幽霊。
首にはナプキン。
手にはフォーク。
「…誰ですか?」
「わたくしは幽霊グルメ研究会の創始者…
まあ会長とでも呼んでください。」
「そんな団体あるんですか!?」
「失礼な!
我々は味を追求する者だ。」
「死んでますよね?」
「えぇ…だが味覚は死んでいない!」
名言みたいに言うな。
「この白菜からは素晴らしい未練の香り!
トップノートは嫉妬が、
ミドルには後悔が、
そしてラストに微かな自己否定…」
「…ワインみたいに分析しないでください。」
会長はうっとりしている。
他の幽霊たちはいつの間にか距離を取っていた。
「零さん、調理お願いします。」
「なんで私が!?
食べたいなら会長がすればいいでしょう!?」
「あなたは総務ですから。」
「総務を便利屋か何かと間違えてませんか!?」
使われていない給湯室。
包丁で白菜を刻む。
ザクッ、プシュー…
黒い煙が立つ。
「うわっ目に染みる!」
「それはあふれんばかりの未練です。」
「玉ねぎより厄介!」
鍋に入れるとぐつぐつと紫色に煮える。
「これ、保健所案件じゃないですか?」
「幽霊に腹痛という概念はありません。
さあ、まずは試してみてください。」
味見を促される。
「いやです。」
「そんなこと言わずに」
「絶っ対にいや!!死んでもいや!!」
周囲の幽霊たちがニヤニヤしている。
「零ちゃんもう死んでるからいけるね!」
「うるさい!」
覚悟を決めて一口。
ぱく。
――うっ!
頭の中に映像が流れ込む。
『あの時LINE返さなきゃよかった』
『なんであんなこと言ったんだろう』
『あんな奴に幸せになってほしくない』
「重い!! 感情が重い!!」
鍋を抱えてうずくまる。
「どうですか?」
会長が目を輝かせる。
「……後味が最悪です。」
「最高の褒め言葉だ」
「どこが!?」
会長は優雅に一口食べる。
「……くっ、これは攻めている!
舌を殴る未練が口いっぱいに広がる…!」
「それ誉め言葉ですか……?」
「だがまだ甘い!
もっと純度の高い絶望が欲しい!!」
「何を目指してるんだこの人…」
総務課長がメモを取る。
「ふむふむ…高未練濃度野菜は一定需要ありっと。」
「商品化する気ですか!?」
「まあ…財源確保?」
「役所らしい理由やめて!」
その時、鍋がボコッと爆ぜた。
黒い液体が天井に張り付く。
「うわあああ!」
「ヤバい!換気 換気!」
「零さん緊急速報!」
「なんで私!?」
反射的に叫ぶ。
「只今、室内で負の感情が暴走しています!
窓を閉鎖し未練拡散防止に努めてください。
書類が侵されないよう避難させてください!」
幽霊たちが一斉に動く。
数分後。
「ふー何とかなりましたね。
ほんとに大丈夫なんですかこの食材…」
「これもまたグルメの醍醐味というやつですね。」
「そんなわけはない!!」
その日の報告書。
・禍々しい白菜、試食成功
・一部爆発するも被害軽微
・グルメ層に需要確認
・調理時は感情漏出対策必須
・驚衣零、やっぱりおもしろい
「消してくださいその一文!」
「零さんは見ていて飽きないですから。」
私は机に突っ伏した。
幽霊なのに胃もたれしている気がする。
死んでもなお、人は未練を味わうらしい。(物理的に)
――幽霊にも偏食家は存在してしまうんですね…
ご愛読ありがとうございます。
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