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26話

この物語には自己解釈やオリジナル設定が含まれています。

オリジナルの妖怪が登場することもあります。

素人がただ思い付きで書いている物語なので最後まで温かい目で読んでいただければと思います。

冬休み前に演劇部の大会があり、そこで野々香(ののか)が活躍した事により志乃(しの)へ手紙を出す人は減っていた。

読みはするが返信がない事が原因だったのだろう。

志乃(しの)は手間が減ってありがたく思っていたが、朝登校すると久しぶりに手紙が入っていたので読んでみた。

それはいつもの様なファンレターでは無く、困り事を相談する様なものだった。

気になる内容だったため、手紙に書かれていた場所に放課後行ってみる事にする。

校舎から少し離れた空き地に着くとそこには影法師(かげぼうし)の事件の時に知り合った大輝(だいき)とその後ろに手紙の主であろう女性が居た。

志乃(しの)「久しぶりだな。」

大輝(だいき)「あ。久しぶり。」

志乃(しの)「そっちが依頼人か?」

千佳(ちか)「はい。詩織(しおり) 千佳(ちか)と言います。今回は私の話を聞きに来てくれてありがとうございます。」

志乃(しの)「それでこの手紙に描かれていた絵の生き物を拾ったと言う事で間違いないか?」

千佳(ちか)「はい。ですがこんな事話しても良いのか、あの、誰もその生き物が見えなくて、、変ですよね。だけど悪戯ってわけでも無くて、その、、」

千佳(ちか)は俯いてモジモジと話している。

志乃(しの)「下では無くこっち向いてくれないか?」

千佳(ちか)「えっ、あ。ごめんなさい。私、人の目が見れなくて、、」

千佳(ちか)が顔を上げると志乃(しの)の肩に乗っている12号と目が合う。

千佳(ちか)「え。可愛い。何この子。」

志乃(しの)「こいつは管狐(くだぎつね)。私の手伝いをしてくれている。手紙の生き物と似た様なものだ。」

千佳(ちか)「それじゃあ、あなたも見えるんですか?」

志乃(しの)「でないと私はここに来ていない。」

千佳(ちか)「あの、私の拾った子が弱っているんです。助けられませんか?」

志乃(しの)「まずはそいつを見たい。何処にいる?」

千佳(ちか)「私吹奏楽部で、今は部室のロッカーに入れてあります。」

志乃(しの)「案内してもらっても良いか?」

千佳(ちか)「は、はい。」

大輝(だいき)「相談して良かっただろ。」

千佳(ちか)「はい。こんなの誰も信じてくれないと思ってました。ましてやどんな依頼も断っている浜名瀬(はまなせ)さんが聞いてくれるなんて、、」

志乃(しの)「そう言えば大輝(だいき)千佳(ちか)の関係って何だ?」

大輝(だいき)「僕の妹の友達だよ。」

志乃(しの)「妹いたのか。」

大輝(だいき)「あまり仲は良くないけど、友達思いなんだ。」

志乃(しの)「仲良くなくてもその友達のために動くのか。」

大輝(だいき)「僕が浜名瀬(はまなせ)さんを知っていたからだよ。知らなかったら僕だって何その生き物って思ったさ。」

志乃(しの)「まあ、そうだよな。」

そんな話をしていたら部室に着いたので入る。

大輝(だいき)はその生き物が見えないからというのと自分の部活があるからと途中で離脱した。

今日は部活は休みの様で部室には誰もいない。

千佳(ちか)「顧問の先生が怪我でお休みしているので部活も休みなんです。」

志乃(しの)「勝手に入っても良いのか?」

千佳(ちか)「はい。ここに私物を置いていく人は結構いるので取りにくる人がいるんです。ロッカーには鍵も掛かるので部室の鍵はいつも空いています。」

志乃(しの)「そうか。それでお前のロッカーはどれだ?」

千佳(ちか)「これです。」

千佳(ちか)がロッカーを開けるとそこにはイタチのような猫のような姿で後ろ足が4本、尻尾が2本の灰色の毛をした生き物がタオルに包まれていた。

志乃(しの)「やっぱり雷獣(らいじゅう)か。」

千佳(ちか)雷獣(らいじゅう)?雷を起こすんですか?」

志乃(しの)「雷と共に落ちて来ると言われている妖怪だ。こいつ自体は特に何かするわけではない。」

千佳(ちか)「そう言えば、この子と出会ったのは天気の悪い日でした。頭に何かが当たったと思ったらこの子が落ちていたんです。」

志乃(しの)「見たところ怪我もしていないし、最近天気が良いせいで元気が無いだけかな。」

千佳(ちか)「雨が降れば元気になるんですか?」

志乃(しの)「なると思うけど、念のため精気を分けておこうか。」

千佳(ちか)「精気?」

志乃(しの)「生命や万物の根源となる力だ。」

千佳(ちか)「私にもあげれますか?」

志乃(しの)「やめといた方がいい。あげすぎると体調を崩したりするから。」

千佳(ちか)浜名瀬(はまなせ)さんは大丈夫なんですか?」

志乃(しの)「慣れているから自分の限界は分かっている。」

千佳(ちか)「そうなんですね。私に出来る事はありますか?」

志乃(しの)「それなら雲が出ている日に外に出してあげてくれ。自分で乗れる雲を探して空に帰るから。」

千佳(ちか)「帰れるんですね。」

志乃(しの)「それに雷獣(らいじゅう)が乗った雲は雷が鳴るんだ。結構面白いから見てみたら良いよ。」

千佳(ちか)「はい。」

志乃(しの)「こいつに関してはこのくらいかな。他に聞きたい事はあるか?」

千佳(ちか)浜名瀬(はまなせ)さんはいつからこういう生き物が見えるんですか?」

志乃(しの)雷獣(らいじゅう)に対しての質問を聞いたんだが。」

千佳(ちか)「あ。すみません。そっちは今のところ大丈夫です。」

志乃(しの)「いや。こっちも聞き方が悪かった。」

千佳(ちか)「いえ。勘違いして恥ずかしいです。今日はありがとうございました。あとは大丈夫です。」

志乃(しの)「そうか。また困った事があれば相談くらいは聞くから。」

千佳(ちか)「はい。」

それからはたまに曇りの日があるくらいで雨が降る様な事はあまり無かった。

放課後、ある妖怪を探す為に志乃(しの)が町を見回っていると5号が反応したのですぐに向かい、目的の妖怪である鎌鼬(かまいたち)を見つける。

最近何処かからやって来て町の人を斬りつけてるのだが、素早くて中々捕まらないのだ。

だが今回は志乃(しの)の隣をすり抜けようとしたのでそれを素手で捕まえる。

志乃(しの)が捕まえると鎌になっている四肢を振り回し、暴れられるが志乃(しの)は短刀で鎌鼬(かまいたち)を突き刺し、鎌鼬(かまいたち)は煙となって消えた。

そして鎌鼬(かまいたち)の妖気を感じたという事は鎌鼬(かまいたち)が何かしたという事なので鎌鼬(かまいたち)が来た方へ行くと道端でしゃがみ込む人を見つける。

見覚えのある人だったので志乃(しの)は高校生の姿で声を掛ける。

志乃(しの)千佳(ちか)。大丈夫か?」

千佳(ちか)浜名瀬(はまなせ)さん?良かった。私は大丈夫なんですが、雷獣(らいじゅう)が、、」

千佳(ちか)の腕の中を見てみると、体を斬られてグッタリとしている雷獣(らいじゅう)がいた。

血は出ていないが傷が深いので直ぐに治療しないと危なそうだ。

千佳(ちか)「この子いきなり飛び出したと思ったら怪我をしたんです。私、どうすればいいか分からなくて。」

志乃(しの)「分かった。そいつを渡してくれ。」

千佳(ちか)「はい、、」

志乃(しの)「4号手伝って。」

志乃(しの)雷獣(らいじゅう)を受け取り4号を呼ぶと4号は軟膏と針と糸を持って出て来る。

そこに樹霧之介と風見が現れた。

樹霧之介「志乃(しの)さん。鎌鼬(かまいたち)いましたか?」

志乃(しの)鎌鼬(かまいたち)は退治した。丁度良い。説明は後でする。雫を呼んで来てもらえないか?」

樹霧之介「分かりました。」

樹霧之介は風見と共に雫を呼びに行った。

千佳(ちか)「今の子供は?」

志乃(しの)「質問は後でしてくれ。」

千佳(ちか)「すみません。」

志乃(しの)は針と糸で傷口を縫い、軟膏を付ける。

4号は追加で木綿布と包帯を持って来て傷を保護する。

そこに樹霧之介に連れられて来た雫が到着した。

雫「浜名瀬(はまなせ)さんが呼んでるとしか聞いてないけどどうしたの?」

志乃(しの)「雫。急ですまないが雨を降らせて欲しいんだ。」

雫「別に良いけど。それ雷獣(らいじゅう)?」

志乃(しの)「ああ。鎌鼬(かまいたち)に斬られて弱っている。」

雫「分かったわ。少し時間ちょうだい。」

それからしばらくすると雲が集まってきてポツポツと雨が降り出す。

それに気付いた雷獣(らいじゅう)は起きようとするが傷口が開く可能性があるので志乃(しの)はそれを優しく押さえて制止する。

雫「元気出て来たみたいね。」

志乃(しの)「ああ。ありがとう。」

千佳(ちか)「もう、質問してもいいですか?」

志乃(しの)「いいぞ。」

千佳(ちか)雷獣(らいじゅう)は大丈夫なんでしょうか?」

志乃(しの)「しばらく木綿布と包帯を替えながら様子見だがこの様子なら大丈夫だろ。」

千佳(ちか)「良かった。風が吹いたら急に怪我したから本当にびっくりしました。」

志乃(しの)「こいつはお前を鎌鼬(かまいたち)から守ったみたいだな。」

千佳(ちか)鎌鼬(かまいたち)。聞いた事はありますが本当にいるんですね。」

雫「そう言えばその鎌鼬(かまいたち)は大丈夫なの?」

志乃(しの)「退治した。」

雫「そう。」

千佳(ちか)浜名瀬(はまなせ)さんってそんな事もしているんですか?」

志乃(しの)「悪さをしていれば退治する。大輝(だいき)から聞いてないか?」

千佳(ちか)「えっと、こういうのを知っている人とだけ、、」

志乃(しの)「そうか。それでしばらくこいつは私が預かっても良いか?」

このまま千佳(ちか)から雷獣(らいじゅう)を離せば繋がりが無くなり千佳(ちか)は妖怪が見えなくなるかもしれないが雷獣(らいじゅう)の傷の手当てが優先だと思い志乃(しの)雷獣(らいじゅう)を預かろうとする。

千佳(ちか)「は、、」

志乃(しの)「ちょ。動くな。」

千佳(ちか)がはいと答えようとした時、雷獣(らいじゅう)志乃(しの)の腕から飛び出し千佳(ちか)に飛びつく。

千佳(ちか)「動いたら危ないよ。」

志乃(しの)「、、やっぱり預かってもらって良いか?1日に1回見に行く。」

千佳(ちか)の腕の中から志乃(しの)を睨みつける雷獣(らいじゅう)を見て志乃(しの)は預かるのを諦めた。

千佳(ちか)「は、はい。」

それから志乃(しの)は放課後に吹奏楽部の部室に顔を出していた。

そして数日が経ち、抜糸も終わり雷獣(らいじゅう)の傷はほとんど塞がって元気になっていた。

志乃(しの)「もう大丈夫そうだな。」

千佳(ちか)「はい。ありがとうございます。」

志乃(しの)「治療の必要はもう無いから後は頼む。」

千佳(ちか)「はい。空に帰れるよう頑張ります。」

それから1週間後、大雨が降り足跡のように続けて雷が鳴った日の次の日に志乃(しの)千佳(ちか)から雷獣(らいじゅう)が空に帰った事を聞いた。

それから数日後の休み時間に野々香(ののか)に付き纏われていると千佳(ちか)が教室に入って来た。

千佳(ちか)浜名瀬(はまなせ)さんいらっしゃいますか?」

志乃(しの)「どうした?」

千佳(ちか)「この子いきなり現れて、壁にぶつかって動かないんです。」

志乃(しの)「今度は風狸(ふうり)か。まだ見えるのか?」

千佳(ちか)「え?はい。」

志乃(しの)雷獣(らいじゅう)に結構懐かれていたようだな。」

千佳(ちか)「何かあるんですか?」

志乃(しの)「いや。もうしばらくこういうのが見えるのと雨に会う確率が高くなったくらいだ。」

千佳(ちか)「それでこの子は助かるんですか?」

志乃(しの)野々香(ののか)頼めるか?」

野々香(ののか)志乃(しの)が山に来るって約束してくれたら良いよ。」

志乃(しの)「そうか。10号。」

志乃(しの)野々香(ののか)に断られたので10号を出して風を吹かせると風狸(ふうり)は起き上がり窓から出て行った。

千佳(ちか)「元気になった。」

志乃(しの)「こいつはすぐに動かなくなるが風が吹けば元気になるから心配はいらない。」

千佳(ちか)「良かった。」

そう言っていると風狸(ふうり)が今度は木にぶつかって落ちて行った。

千佳(ちか)「あ。」

志乃(しの)「風が吹けば勝手に飛んでいく。気にするな。」

千佳(ちか)「...。」

数日後志乃(しの)千佳(ちか)が肩に風狸(ふうり)を乗せているのを見かけた。

その事を陽葵(ひまり)に聞かれたが無害なので放っておくように伝える。

それから数日経つと風狸(ふうり)に嫉妬したのか雷獣(らいじゅう)も戻って来ていて千佳(ちか)の両肩には不思議な獣達が乗っている。

志乃(しの)は昔、人と妖怪の仲を取り持とうとしていたが諦めて均衡を保つ事に尽力してきた。

それなのに出会って間もない妖怪達と仲良くなっている千佳(ちか)を見て少し複雑な気分になってしまった。

放課後、いつも通り陽葵(ひまり)が待ち構えていたので一緒に帰る。

陽葵(ひまり)「ねえ、浜名瀬(はまなせ)さん。あの風狸(ふうり)を連れていた人、また新しい妖怪付いていたよ。」

志乃(しの)「あれは雷獣(らいじゅう)だ。それも無害だから放っておけ。」

陽葵(ひまり)雷獣(らいじゅう)。カッコイイ名前だけど何するの?」

志乃(しの)「雷雲に住んでいるだけの妖怪だ。」

陽葵(ひまり)「だけど風狸(ふうり)雷獣(らいじゅう)でしょ。風神雷神見たいでカッコいいよね。」

志乃(しの)「ただの珍獣2匹だろ。」

陽葵(ひまり)「それでも私もああいうの欲しい。」

志乃(しの)「欲しいって。妖怪は物じゃないぞ。」

陽葵(ひまり)「そうだけど。私にも浜名瀬(はまなせ)さんの管狐(くだぎつね)みたいに頼もしい式神が欲しいの。」

志乃(しの)「前言った通り代償を伴う事がある。お前には早い。」

陽葵(ひまり)「それでも契約すれば大丈夫でしょ?」

志乃(しの)「お前はまだ妖怪の怖さを知らないのか?」

陽葵(ひまり)「それでも浜名瀬(はまなせ)さんが守ってくれるよね。」

志乃(しの)「この前死にかけてたのによく言えたな。」

陽葵(ひまり)「それも浜名瀬(はまなせ)さんが治してくれたもん。」

志乃(しの)「お前、慣れ過ぎて逆に危機感無くなってないか?」

陽葵(ひまり)「それくらい修羅場をくぐったって事でしょ。」

志乃(しの)「確かに実践は必要だとは思ったが、間違いだったか。」

陽葵(ひまり)「そんな事ないよ。」

志乃(しの)「写本も全然進んで無いだろ。」

陽葵(ひまり)「あんな分厚いの無理だよ。」

志乃(しの)「しばらくは基礎と写本だけしてくれ。」

陽葵(ひまり)「えー。」

それから志乃(しの)陽葵(ひまり)と別れてしばらく進むと野々香(ののか)の兄である玄羽(くろは)烏天狗(からすてんぐ)が数人現れる。

志乃(しの)「何の用だ?」

玄羽(くろは)「母上がお前に話があるそうだ。」

志乃(しの)「私には無い。」

玄羽(くろは)「お前が食べた人魚についてだとしても?」

志乃(しの)「何でお前らがそんな事知っているんだ?」

玄羽(くろは)野々香(ののか)がお前に執着している理由もそこにある。」

志乃(しの)「どんな話だ?」

玄羽(くろは)「それは母上から話される。」

志乃(しの)「明日も学校がある。春休みを待つのでは駄目か?」

玄羽(くろは)「それは彼女に担当してもらう。」

そう言う玄羽(くろは)の後ろの1人の烏天狗(からすてんぐ)人化(じんか)の術で志乃(しの)の姿になる。

志乃(しの)「、、分かった。その前に少し準備させてくれ。」

玄羽(くろは)「ああ。」

志乃(しの)は一度アパートへ帰り着替えて元の姿に戻る。

志乃(しの)「待たせたな。」

玄羽(くろは)「何で着替えるんだ?」

志乃(しの)「まだあの姿に慣れていないんだ。この姿で制服着るのも窮屈だからな。」

玄羽(くろは)管狐(くだぎつね)で化けているんじゃないのか?」

志乃(しの)「今は人魚の効果をいじって姿を変えている。8号には1度無理させてしまったからな。」

玄羽(くろは)「よく分からないがまあいい。それで約束は覚えているか?」

烏天狗(からすてんぐ)の1人が縄を持って現れる。

志乃(しの)「本当にするのか?」

玄羽(くろは)「お前は見張も警備も1人で倒した危険人物なんだよ。」

志乃(しの)「別にそっちから襲って来なければ何もしないぞ。」

玄羽(くろは)「念の為だ。屋敷に着いたら解いてやる。」

志乃(しの)「、、仕方ないな。」

志乃(しの)が腕を後ろに回すと烏天狗(からすてんぐ)達は志乃(しの)に縄を掛ける。

玄羽(くろは)「悪いな。」

志乃(しの)「信用無いんだな。」

玄羽(くろは)野々香(ののか)のせいとはいえ、あれだけ暴れられればな。」

志乃(しの)「いきなり襲われたからな。」

玄羽(くろは)「侵入者が来たからな。」

志乃(しの)「こちらとしては話し合おうとしたんだが。」

玄羽(くろは)「侵入者の話を聞く奴はいないぞ。」

志乃(しの)「だから制圧してから伝えるしか無かったんだ。」

玄羽(くろは)「いや、大人しく捕まってくれたら話くらいは聞いたぞ。」

志乃(しの)「それだと聞いてくれるか分からなかった。」

玄羽(くろは)「結局、お前も同じじゃないか。」

志乃(しの)「なら警告ぐらいしてくれてもいいじゃないか。」

志乃(しの)の体の拘束が終わり、結び目をつけた布を口に当てられる。

志乃(しの)「それもつけないといけないのか?」

玄羽(くろは)「そのままだと式神が使えるだろ。」

志乃(しの)「本当に後で外してくれるんだよな。」

そう言いながら志乃(しの)が口を開けると烏天狗(からすてんぐ)は布の結び目を志乃(しの)の口に入れて口を塞ぎ、化生(けしょう)(めん)志乃(しの)に被せる。

そして志乃(しの)烏天狗(からすてんぐ)達は籠へ入れて山へ運んで行った。

次の日の学校の休み時間。

野々香(ののか)志乃(しの)の教室へ行き志乃(しの)に化けた烏天狗(からすてんぐ)に話し掛ける。

野々香(ののか)「何で私に何も言わずに志乃(しの)を連れて行ったの?」

烏天狗(からすてんぐ)「昨日の夜に連絡はあったはずです。」

野々香(ののか)「お兄ちゃんには聞いたけどもう志乃(しの)と会えないってどう言う事?」

烏天狗(からすてんぐ)「奥様はあなたの為に志乃(しの)様を地下深くの夢籠(むかご)に入れられたんですよ。」

野々香(ののか)「だから何でそんな事したのか聞いてるの!」

烏天狗(からすてんぐ)野々香(ののか)様。あなたが望まれた事です。」

野々香(ののか)「確かに志乃(しの)には安全な場所にいて欲しいけど、それはずっといて欲しいからで、、」

烏天狗(からすてんぐ)「居るじゃないですか。」

野々香(ののか)「会えないのに居るなんて言えないよ。」

烏天狗(からすてんぐ)「あなたこそ何故あの事を志乃(しの)様に伝えなかったのですか?」

野々香(ののか)「だって言ったらまた危ない事するでしょ。」

烏天狗(からすてんぐ)「確かに奥様がお話しされた後、志乃(しの)様は解決策を探しに行こうとされました。」

野々香(ののか)「よく止められたね。」

烏天狗(からすてんぐ)志乃(しの)様は前回の事もあり、入山時は拘束する規則となっていましたので。」

野々香(ののか)「そう。、、ねえ、最後に志乃(しの)と話をさせて。」

烏天狗(からすてんぐ)「出来ません。」

野々香(ののか)「何で。」

烏天狗(からすてんぐ)「今志乃(しの)様を起こしてしまえばまたお戻り頂く事が出来ないかもしれないからです。」

野々香(ののか)「でも、それじゃ志乃(しの)はこのまま眠り続けるんでしょ。私が説得するから。」

烏天狗(からすてんぐ)「それが出来ないから言わなかったのでしょう?」

野々香(ののか)「、、そうだけど。」

烏天狗(からすてんぐ)野々香(ののか)様。志乃(しの)様の事は忘れて試験に集中して下さい。」

野々香(ののか)「私が試験を受けたのは志乃(しの)の為だったのにもう試験を受ける意味なんて無いよ。」

烏天狗(からすてんぐ)「我儘もいい加減にしてください。」

野々香(ののか)「、、もういい。」

野々香(ののか)は教室を出てどこかへ行ってしまった。

放課後、志乃(しの)の姿をした烏天狗(からすてんぐ)陽葵(ひまり)が声を掛ける。

陽葵(ひまり)浜名瀬(はまなせ)さん。」

烏天狗(からすてんぐ)陽葵(ひまり)様ですね。初めまして。」

陽葵(ひまり)「え。何?誰?」

烏天狗(からすてんぐ)「私はこれから志乃(しの)様の代わりをさせて頂く幻鴉(まどか)と申します。」

陽葵(ひまり)「どういう事?浜名瀬(はまなせ)さんはどこ?」

幻鴉(まどか)「私達の山で保護しております。」

陽葵(ひまり)「保護?何で。」

幻鴉(まどか)「奥様のご命令です。」

陽葵(ひまり)浜名瀬(はまなせ)さんは了承してるの?」

幻鴉(まどか)「まあ、少々強引な手は使わせていただきましたが志乃(しの)様の為ですよ。」

陽葵(ひまり)浜名瀬(はまなせ)さんと話をさせて。」

幻鴉(まどか)「それは出来ません。」

陽葵(ひまり)「何で?」

幻鴉(まどか)「今志乃(しの)様は地下深くにある夢籠(むかご)の中にいるのですから。」

陽葵(ひまり)夢籠(むかご)?何それ。」

幻鴉(まどか)「中に入れたものを眠らせて閉じ込めておく場所です。」

陽葵(ひまり)「何でそんな物に浜名瀬(はまなせ)さんを入れるの?」

幻鴉(まどか)「そうしないと私達に抑える事ができないので。」

陽葵(ひまり)「なら浜名瀬(はまなせ)さんは了承してないって事んじゃん。」

野々香(ののか)陽葵(ひまり)。」

幻鴉(まどか)野々香(ののか)様。部活はどうされたんですか?」

野々香(ののか)「理由付けて抜けてきた。あんた何で陽葵(ひまり)には志乃(しの)を演じないの?」

幻鴉(まどか)陽葵(ひまり)様は志乃(しの)様から修行を受けておいでですが私にはそれが出来ません。なので早々に正体を明かし、説明するのが得策だと考えました。」

野々香(ののか)「そう。」

陽葵(ひまり)野々香(ののか)?」

野々香(ののか)「こいつと話し合いなんて無駄。」

陽葵(ひまり)「でも、、そうだ。まこ姉に相談すれば。」

幻鴉(まどか)「無駄ですよ。」

その言葉通り陽葵(ひまり)が電話を掛けても真琴(まこと)が出る事は無かった。

陽葵(ひまり)「何かしたの?」

幻鴉(まどか)「お答えできかねます。」

野々香(ののか)陽葵(ひまり)。行くよ。」

陽葵(ひまり)「え。待って。」

野々香(ののか)陽葵(ひまり)の手を引いて学校から出て行き、近くの公園のベンチに座って作戦を練る事になった。

陽葵(ひまり)「ねえ、どういうこと?さっきの偽の浜名瀬(はまなせ)さんと知り合いなの?」

野々香(ののか)「さっきのは私と同じ山の烏天狗(からすてんぐ)で母上の部下だよ。」

陽葵(ひまり)「何で烏天狗(からすてんぐ)浜名瀬(はまなせ)さんを連れて行くの?」

野々香(ののか)「それは、、私が頼んだの。」

陽葵(ひまり)「何で?」

野々香(ののか)「だって志乃(しの)いつも危険なことするんだもん。」

陽葵(ひまり)「それは、そうだけどこんなやり方は違うよ。」

野々香(ののか)「私もそう思う。だから一度山に帰ろうと思ってる。」

陽葵(ひまり)「私も行きたい。」

野々香(ののか)「部外者が入るには危険だよ。」

陽葵(ひまり)「だけど私だって浜名瀬(はまなせ)さんに会いたい。」

野々香(ののか)「今回だけは母上も本気なんだよ。」

陽葵(ひまり)「本気って?」

野々香(ののか)「母上に烏で連絡したんだけど、会わせることは出来ないの一点張りなんだ。」

陽葵(ひまり)「何で?」

野々香(ののか)「理由も教えてくれない。だから話し合いは無理だと思う。」

陽葵(ひまり)「なら野々香(ののか)はその山に帰って何しようとしていたの?」

野々香(ののか)志乃(しの)の所まで忍び込もうと思ってる。」

陽葵(ひまり)「私も手伝う。」

野々香(ののか)「だから危険なんだって。」

陽葵(ひまり)「どう危険なの?」

野々香(ののか)「山に入るには監視の目をくぐらないといけないし、屋敷の中は私が案内はできるけど地下の構造は私も知らないんだ。その奥に行って志乃(しの)の場所を探さなきゃいけない。」

陽葵(ひまり)浜名瀬(はまなせ)さんの場所を探すなら私の式神が使えるよ。」

陽葵(ひまり)野々香(ののか)志乃(しの)からもらった式神を見せる。

野々香(ののか)「そっかそれがあるんだ。」

陽葵(ひまり)「明日は学校休みだし行こ。」

野々香(ののか)「分かった。」

次の日、駅に集まって電車で野々香(ののか)の住んでいた山へと向かった。

陽葵(ひまり)「この山?」

野々香(ののか)「もう一つ奥だけどもう監視はあるから気を付けて。」

陽葵(ひまり)「うん。どうすればいい?」

野々香(ののか)「動くものに敏感だからできるだけゆっくり動こう。鏡は持ってきた?」

陽葵(ひまり)「うん。何に使うの?」

野々香(ののか)「烏は反射光や強い光が苦手なの。見つかりそうになったら反射光を当てれば時間稼ぎにはなるはずだよ。」

陽葵(ひまり)「そう言えば烏除けにDVDを使ってるの見たことある。」

野々香(ののか)「見つからないことが前提だけどね。まずはまだ使えるか分からないけど屋敷近くに繋がる通路があるんだ。そこに行こう。」

陽葵(ひまり)「分かった。」

2人は静かに山へ入り、時間を掛けながら烏の監視を搔い潜るがもう少しというところで陽葵(ひまり)は1羽の烏と目が合ってしまいその烏は侵入者が来たことを知らせる声を上げる。

陽葵(ひまり)「ごめん。咄嗟に動けなかった。」

野々香(ののか)「大丈夫。通路の入り口はこの先にあるからもう走って行こう。」

見つかってしまったので素早く移動し、目的の通路まで辿り着いた。

野々香(ののか)「ここなら狭いから場所が分かっても中までは追って来れないよ。」

陽葵(ひまり)「待ち伏せとかされない?」

野々香(ののか)「出口は隠れているから大丈夫、だと思う。とにかく行こ。」

陽葵(ひまり)「分かった。」

野々香(ののか)「ここを通れば屋敷の近くまで出るはずだから。あと少しだよ。」

陽葵(ひまり)「うん。」

陽葵(ひまり)は慣れない山道を歩いて疲れてきていたが気合を入れ直す。

通路は狭く、陽葵(ひまり)野々香(ののか)の後をついて手を地面に付けながら歩いて行くと出口が見えた。

ここまで読んでいただいてありがとうございます。

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