26話
この物語には自己解釈やオリジナル設定が含まれています。
オリジナルの妖怪が登場することもあります。
素人がただ思い付きで書いている物語なので最後まで温かい目で読んでいただければと思います。
冬休み前に演劇部の大会があり、そこで野々香が活躍した事により志乃へ手紙を出す人は減っていた。
読みはするが返信がない事が原因だったのだろう。
志乃は手間が減ってありがたく思っていたが、朝登校すると久しぶりに手紙が入っていたので読んでみた。
それはいつもの様なファンレターでは無く、困り事を相談する様なものだった。
気になる内容だったため、手紙に書かれていた場所に放課後行ってみる事にする。
校舎から少し離れた空き地に着くとそこには影法師の事件の時に知り合った大輝とその後ろに手紙の主であろう女性が居た。
志乃「久しぶりだな。」
大輝「あ。久しぶり。」
志乃「そっちが依頼人か?」
千佳「はい。詩織 千佳と言います。今回は私の話を聞きに来てくれてありがとうございます。」
志乃「それでこの手紙に描かれていた絵の生き物を拾ったと言う事で間違いないか?」
千佳「はい。ですがこんな事話しても良いのか、あの、誰もその生き物が見えなくて、、変ですよね。だけど悪戯ってわけでも無くて、その、、」
千佳は俯いてモジモジと話している。
志乃「下では無くこっち向いてくれないか?」
千佳「えっ、あ。ごめんなさい。私、人の目が見れなくて、、」
千佳が顔を上げると志乃の肩に乗っている12号と目が合う。
千佳「え。可愛い。何この子。」
志乃「こいつは管狐。私の手伝いをしてくれている。手紙の生き物と似た様なものだ。」
千佳「それじゃあ、あなたも見えるんですか?」
志乃「でないと私はここに来ていない。」
千佳「あの、私の拾った子が弱っているんです。助けられませんか?」
志乃「まずはそいつを見たい。何処にいる?」
千佳「私吹奏楽部で、今は部室のロッカーに入れてあります。」
志乃「案内してもらっても良いか?」
千佳「は、はい。」
大輝「相談して良かっただろ。」
千佳「はい。こんなの誰も信じてくれないと思ってました。ましてやどんな依頼も断っている浜名瀬さんが聞いてくれるなんて、、」
志乃「そう言えば大輝と千佳の関係って何だ?」
大輝「僕の妹の友達だよ。」
志乃「妹いたのか。」
大輝「あまり仲は良くないけど、友達思いなんだ。」
志乃「仲良くなくてもその友達のために動くのか。」
大輝「僕が浜名瀬さんを知っていたからだよ。知らなかったら僕だって何その生き物って思ったさ。」
志乃「まあ、そうだよな。」
そんな話をしていたら部室に着いたので入る。
大輝はその生き物が見えないからというのと自分の部活があるからと途中で離脱した。
今日は部活は休みの様で部室には誰もいない。
千佳「顧問の先生が怪我でお休みしているので部活も休みなんです。」
志乃「勝手に入っても良いのか?」
千佳「はい。ここに私物を置いていく人は結構いるので取りにくる人がいるんです。ロッカーには鍵も掛かるので部室の鍵はいつも空いています。」
志乃「そうか。それでお前のロッカーはどれだ?」
千佳「これです。」
千佳がロッカーを開けるとそこにはイタチのような猫のような姿で後ろ足が4本、尻尾が2本の灰色の毛をした生き物がタオルに包まれていた。
志乃「やっぱり雷獣か。」
千佳「雷獣?雷を起こすんですか?」
志乃「雷と共に落ちて来ると言われている妖怪だ。こいつ自体は特に何かするわけではない。」
千佳「そう言えば、この子と出会ったのは天気の悪い日でした。頭に何かが当たったと思ったらこの子が落ちていたんです。」
志乃「見たところ怪我もしていないし、最近天気が良いせいで元気が無いだけかな。」
千佳「雨が降れば元気になるんですか?」
志乃「なると思うけど、念のため精気を分けておこうか。」
千佳「精気?」
志乃「生命や万物の根源となる力だ。」
千佳「私にもあげれますか?」
志乃「やめといた方がいい。あげすぎると体調を崩したりするから。」
千佳「浜名瀬さんは大丈夫なんですか?」
志乃「慣れているから自分の限界は分かっている。」
千佳「そうなんですね。私に出来る事はありますか?」
志乃「それなら雲が出ている日に外に出してあげてくれ。自分で乗れる雲を探して空に帰るから。」
千佳「帰れるんですね。」
志乃「それに雷獣が乗った雲は雷が鳴るんだ。結構面白いから見てみたら良いよ。」
千佳「はい。」
志乃「こいつに関してはこのくらいかな。他に聞きたい事はあるか?」
千佳「浜名瀬さんはいつからこういう生き物が見えるんですか?」
志乃「雷獣に対しての質問を聞いたんだが。」
千佳「あ。すみません。そっちは今のところ大丈夫です。」
志乃「いや。こっちも聞き方が悪かった。」
千佳「いえ。勘違いして恥ずかしいです。今日はありがとうございました。あとは大丈夫です。」
志乃「そうか。また困った事があれば相談くらいは聞くから。」
千佳「はい。」
それからはたまに曇りの日があるくらいで雨が降る様な事はあまり無かった。
放課後、ある妖怪を探す為に志乃が町を見回っていると5号が反応したのですぐに向かい、目的の妖怪である鎌鼬を見つける。
最近何処かからやって来て町の人を斬りつけてるのだが、素早くて中々捕まらないのだ。
だが今回は志乃の隣をすり抜けようとしたのでそれを素手で捕まえる。
志乃が捕まえると鎌になっている四肢を振り回し、暴れられるが志乃は短刀で鎌鼬を突き刺し、鎌鼬は煙となって消えた。
そして鎌鼬の妖気を感じたという事は鎌鼬が何かしたという事なので鎌鼬が来た方へ行くと道端でしゃがみ込む人を見つける。
見覚えのある人だったので志乃は高校生の姿で声を掛ける。
志乃「千佳。大丈夫か?」
千佳「浜名瀬さん?良かった。私は大丈夫なんですが、雷獣が、、」
千佳の腕の中を見てみると、体を斬られてグッタリとしている雷獣がいた。
血は出ていないが傷が深いので直ぐに治療しないと危なそうだ。
千佳「この子いきなり飛び出したと思ったら怪我をしたんです。私、どうすればいいか分からなくて。」
志乃「分かった。そいつを渡してくれ。」
千佳「はい、、」
志乃「4号手伝って。」
志乃が雷獣を受け取り4号を呼ぶと4号は軟膏と針と糸を持って出て来る。
そこに樹霧之介と風見が現れた。
樹霧之介「志乃さん。鎌鼬いましたか?」
志乃「鎌鼬は退治した。丁度良い。説明は後でする。雫を呼んで来てもらえないか?」
樹霧之介「分かりました。」
樹霧之介は風見と共に雫を呼びに行った。
千佳「今の子供は?」
志乃「質問は後でしてくれ。」
千佳「すみません。」
志乃は針と糸で傷口を縫い、軟膏を付ける。
4号は追加で木綿布と包帯を持って来て傷を保護する。
そこに樹霧之介に連れられて来た雫が到着した。
雫「浜名瀬さんが呼んでるとしか聞いてないけどどうしたの?」
志乃「雫。急ですまないが雨を降らせて欲しいんだ。」
雫「別に良いけど。それ雷獣?」
志乃「ああ。鎌鼬に斬られて弱っている。」
雫「分かったわ。少し時間ちょうだい。」
それからしばらくすると雲が集まってきてポツポツと雨が降り出す。
それに気付いた雷獣は起きようとするが傷口が開く可能性があるので志乃はそれを優しく押さえて制止する。
雫「元気出て来たみたいね。」
志乃「ああ。ありがとう。」
千佳「もう、質問してもいいですか?」
志乃「いいぞ。」
千佳「雷獣は大丈夫なんでしょうか?」
志乃「しばらく木綿布と包帯を替えながら様子見だがこの様子なら大丈夫だろ。」
千佳「良かった。風が吹いたら急に怪我したから本当にびっくりしました。」
志乃「こいつはお前を鎌鼬から守ったみたいだな。」
千佳「鎌鼬。聞いた事はありますが本当にいるんですね。」
雫「そう言えばその鎌鼬は大丈夫なの?」
志乃「退治した。」
雫「そう。」
千佳「浜名瀬さんってそんな事もしているんですか?」
志乃「悪さをしていれば退治する。大輝から聞いてないか?」
千佳「えっと、こういうのを知っている人とだけ、、」
志乃「そうか。それでしばらくこいつは私が預かっても良いか?」
このまま千佳から雷獣を離せば繋がりが無くなり千佳は妖怪が見えなくなるかもしれないが雷獣の傷の手当てが優先だと思い志乃は雷獣を預かろうとする。
千佳「は、、」
志乃「ちょ。動くな。」
千佳がはいと答えようとした時、雷獣は志乃の腕から飛び出し千佳に飛びつく。
千佳「動いたら危ないよ。」
志乃「、、やっぱり預かってもらって良いか?1日に1回見に行く。」
千佳の腕の中から志乃を睨みつける雷獣を見て志乃は預かるのを諦めた。
千佳「は、はい。」
それから志乃は放課後に吹奏楽部の部室に顔を出していた。
そして数日が経ち、抜糸も終わり雷獣の傷はほとんど塞がって元気になっていた。
志乃「もう大丈夫そうだな。」
千佳「はい。ありがとうございます。」
志乃「治療の必要はもう無いから後は頼む。」
千佳「はい。空に帰れるよう頑張ります。」
それから1週間後、大雨が降り足跡のように続けて雷が鳴った日の次の日に志乃は千佳から雷獣が空に帰った事を聞いた。
それから数日後の休み時間に野々香に付き纏われていると千佳が教室に入って来た。
千佳「浜名瀬さんいらっしゃいますか?」
志乃「どうした?」
千佳「この子いきなり現れて、壁にぶつかって動かないんです。」
志乃「今度は風狸か。まだ見えるのか?」
千佳「え?はい。」
志乃「雷獣に結構懐かれていたようだな。」
千佳「何かあるんですか?」
志乃「いや。もうしばらくこういうのが見えるのと雨に会う確率が高くなったくらいだ。」
千佳「それでこの子は助かるんですか?」
志乃「野々香頼めるか?」
野々香「志乃が山に来るって約束してくれたら良いよ。」
志乃「そうか。10号。」
志乃は野々香に断られたので10号を出して風を吹かせると風狸は起き上がり窓から出て行った。
千佳「元気になった。」
志乃「こいつはすぐに動かなくなるが風が吹けば元気になるから心配はいらない。」
千佳「良かった。」
そう言っていると風狸が今度は木にぶつかって落ちて行った。
千佳「あ。」
志乃「風が吹けば勝手に飛んでいく。気にするな。」
千佳「...。」
数日後志乃は千佳が肩に風狸を乗せているのを見かけた。
その事を陽葵に聞かれたが無害なので放っておくように伝える。
それから数日経つと風狸に嫉妬したのか雷獣も戻って来ていて千佳の両肩には不思議な獣達が乗っている。
志乃は昔、人と妖怪の仲を取り持とうとしていたが諦めて均衡を保つ事に尽力してきた。
それなのに出会って間もない妖怪達と仲良くなっている千佳を見て少し複雑な気分になってしまった。
放課後、いつも通り陽葵が待ち構えていたので一緒に帰る。
陽葵「ねえ、浜名瀬さん。あの風狸を連れていた人、また新しい妖怪付いていたよ。」
志乃「あれは雷獣だ。それも無害だから放っておけ。」
陽葵「雷獣。カッコイイ名前だけど何するの?」
志乃「雷雲に住んでいるだけの妖怪だ。」
陽葵「だけど風狸と雷獣でしょ。風神雷神見たいでカッコいいよね。」
志乃「ただの珍獣2匹だろ。」
陽葵「それでも私もああいうの欲しい。」
志乃「欲しいって。妖怪は物じゃないぞ。」
陽葵「そうだけど。私にも浜名瀬さんの管狐みたいに頼もしい式神が欲しいの。」
志乃「前言った通り代償を伴う事がある。お前には早い。」
陽葵「それでも契約すれば大丈夫でしょ?」
志乃「お前はまだ妖怪の怖さを知らないのか?」
陽葵「それでも浜名瀬さんが守ってくれるよね。」
志乃「この前死にかけてたのによく言えたな。」
陽葵「それも浜名瀬さんが治してくれたもん。」
志乃「お前、慣れ過ぎて逆に危機感無くなってないか?」
陽葵「それくらい修羅場をくぐったって事でしょ。」
志乃「確かに実践は必要だとは思ったが、間違いだったか。」
陽葵「そんな事ないよ。」
志乃「写本も全然進んで無いだろ。」
陽葵「あんな分厚いの無理だよ。」
志乃「しばらくは基礎と写本だけしてくれ。」
陽葵「えー。」
それから志乃は陽葵と別れてしばらく進むと野々香の兄である玄羽と烏天狗が数人現れる。
志乃「何の用だ?」
玄羽「母上がお前に話があるそうだ。」
志乃「私には無い。」
玄羽「お前が食べた人魚についてだとしても?」
志乃「何でお前らがそんな事知っているんだ?」
玄羽「野々香がお前に執着している理由もそこにある。」
志乃「どんな話だ?」
玄羽「それは母上から話される。」
志乃「明日も学校がある。春休みを待つのでは駄目か?」
玄羽「それは彼女に担当してもらう。」
そう言う玄羽の後ろの1人の烏天狗が人化の術で志乃の姿になる。
志乃「、、分かった。その前に少し準備させてくれ。」
玄羽「ああ。」
志乃は一度アパートへ帰り着替えて元の姿に戻る。
志乃「待たせたな。」
玄羽「何で着替えるんだ?」
志乃「まだあの姿に慣れていないんだ。この姿で制服着るのも窮屈だからな。」
玄羽「管狐で化けているんじゃないのか?」
志乃「今は人魚の効果をいじって姿を変えている。8号には1度無理させてしまったからな。」
玄羽「よく分からないがまあいい。それで約束は覚えているか?」
烏天狗の1人が縄を持って現れる。
志乃「本当にするのか?」
玄羽「お前は見張も警備も1人で倒した危険人物なんだよ。」
志乃「別にそっちから襲って来なければ何もしないぞ。」
玄羽「念の為だ。屋敷に着いたら解いてやる。」
志乃「、、仕方ないな。」
志乃が腕を後ろに回すと烏天狗達は志乃に縄を掛ける。
玄羽「悪いな。」
志乃「信用無いんだな。」
玄羽「野々香のせいとはいえ、あれだけ暴れられればな。」
志乃「いきなり襲われたからな。」
玄羽「侵入者が来たからな。」
志乃「こちらとしては話し合おうとしたんだが。」
玄羽「侵入者の話を聞く奴はいないぞ。」
志乃「だから制圧してから伝えるしか無かったんだ。」
玄羽「いや、大人しく捕まってくれたら話くらいは聞いたぞ。」
志乃「それだと聞いてくれるか分からなかった。」
玄羽「結局、お前も同じじゃないか。」
志乃「なら警告ぐらいしてくれてもいいじゃないか。」
志乃の体の拘束が終わり、結び目をつけた布を口に当てられる。
志乃「それもつけないといけないのか?」
玄羽「そのままだと式神が使えるだろ。」
志乃「本当に後で外してくれるんだよな。」
そう言いながら志乃が口を開けると烏天狗は布の結び目を志乃の口に入れて口を塞ぎ、化生の面を志乃に被せる。
そして志乃を烏天狗達は籠へ入れて山へ運んで行った。
次の日の学校の休み時間。
野々香は志乃の教室へ行き志乃に化けた烏天狗に話し掛ける。
野々香「何で私に何も言わずに志乃を連れて行ったの?」
烏天狗「昨日の夜に連絡はあったはずです。」
野々香「お兄ちゃんには聞いたけどもう志乃と会えないってどう言う事?」
烏天狗「奥様はあなたの為に志乃様を地下深くの夢籠に入れられたんですよ。」
野々香「だから何でそんな事したのか聞いてるの!」
烏天狗「野々香様。あなたが望まれた事です。」
野々香「確かに志乃には安全な場所にいて欲しいけど、それはずっといて欲しいからで、、」
烏天狗「居るじゃないですか。」
野々香「会えないのに居るなんて言えないよ。」
烏天狗「あなたこそ何故あの事を志乃様に伝えなかったのですか?」
野々香「だって言ったらまた危ない事するでしょ。」
烏天狗「確かに奥様がお話しされた後、志乃様は解決策を探しに行こうとされました。」
野々香「よく止められたね。」
烏天狗「志乃様は前回の事もあり、入山時は拘束する規則となっていましたので。」
野々香「そう。、、ねえ、最後に志乃と話をさせて。」
烏天狗「出来ません。」
野々香「何で。」
烏天狗「今志乃様を起こしてしまえばまたお戻り頂く事が出来ないかもしれないからです。」
野々香「でも、それじゃ志乃はこのまま眠り続けるんでしょ。私が説得するから。」
烏天狗「それが出来ないから言わなかったのでしょう?」
野々香「、、そうだけど。」
烏天狗「野々香様。志乃様の事は忘れて試験に集中して下さい。」
野々香「私が試験を受けたのは志乃の為だったのにもう試験を受ける意味なんて無いよ。」
烏天狗「我儘もいい加減にしてください。」
野々香「、、もういい。」
野々香は教室を出てどこかへ行ってしまった。
放課後、志乃の姿をした烏天狗に陽葵が声を掛ける。
陽葵「浜名瀬さん。」
烏天狗「陽葵様ですね。初めまして。」
陽葵「え。何?誰?」
烏天狗「私はこれから志乃様の代わりをさせて頂く幻鴉と申します。」
陽葵「どういう事?浜名瀬さんはどこ?」
幻鴉「私達の山で保護しております。」
陽葵「保護?何で。」
幻鴉「奥様のご命令です。」
陽葵「浜名瀬さんは了承してるの?」
幻鴉「まあ、少々強引な手は使わせていただきましたが志乃様の為ですよ。」
陽葵「浜名瀬さんと話をさせて。」
幻鴉「それは出来ません。」
陽葵「何で?」
幻鴉「今志乃様は地下深くにある夢籠の中にいるのですから。」
陽葵「夢籠?何それ。」
幻鴉「中に入れたものを眠らせて閉じ込めておく場所です。」
陽葵「何でそんな物に浜名瀬さんを入れるの?」
幻鴉「そうしないと私達に抑える事ができないので。」
陽葵「なら浜名瀬さんは了承してないって事んじゃん。」
野々香「陽葵。」
幻鴉「野々香様。部活はどうされたんですか?」
野々香「理由付けて抜けてきた。あんた何で陽葵には志乃を演じないの?」
幻鴉「陽葵様は志乃様から修行を受けておいでですが私にはそれが出来ません。なので早々に正体を明かし、説明するのが得策だと考えました。」
野々香「そう。」
陽葵「野々香?」
野々香「こいつと話し合いなんて無駄。」
陽葵「でも、、そうだ。まこ姉に相談すれば。」
幻鴉「無駄ですよ。」
その言葉通り陽葵が電話を掛けても真琴が出る事は無かった。
陽葵「何かしたの?」
幻鴉「お答えできかねます。」
野々香「陽葵。行くよ。」
陽葵「え。待って。」
野々香は陽葵の手を引いて学校から出て行き、近くの公園のベンチに座って作戦を練る事になった。
陽葵「ねえ、どういうこと?さっきの偽の浜名瀬さんと知り合いなの?」
野々香「さっきのは私と同じ山の烏天狗で母上の部下だよ。」
陽葵「何で烏天狗が浜名瀬さんを連れて行くの?」
野々香「それは、、私が頼んだの。」
陽葵「何で?」
野々香「だって志乃いつも危険なことするんだもん。」
陽葵「それは、そうだけどこんなやり方は違うよ。」
野々香「私もそう思う。だから一度山に帰ろうと思ってる。」
陽葵「私も行きたい。」
野々香「部外者が入るには危険だよ。」
陽葵「だけど私だって浜名瀬さんに会いたい。」
野々香「今回だけは母上も本気なんだよ。」
陽葵「本気って?」
野々香「母上に烏で連絡したんだけど、会わせることは出来ないの一点張りなんだ。」
陽葵「何で?」
野々香「理由も教えてくれない。だから話し合いは無理だと思う。」
陽葵「なら野々香はその山に帰って何しようとしていたの?」
野々香「志乃の所まで忍び込もうと思ってる。」
陽葵「私も手伝う。」
野々香「だから危険なんだって。」
陽葵「どう危険なの?」
野々香「山に入るには監視の目をくぐらないといけないし、屋敷の中は私が案内はできるけど地下の構造は私も知らないんだ。その奥に行って志乃の場所を探さなきゃいけない。」
陽葵「浜名瀬さんの場所を探すなら私の式神が使えるよ。」
陽葵は野々香に志乃からもらった式神を見せる。
野々香「そっかそれがあるんだ。」
陽葵「明日は学校休みだし行こ。」
野々香「分かった。」
次の日、駅に集まって電車で野々香の住んでいた山へと向かった。
陽葵「この山?」
野々香「もう一つ奥だけどもう監視はあるから気を付けて。」
陽葵「うん。どうすればいい?」
野々香「動くものに敏感だからできるだけゆっくり動こう。鏡は持ってきた?」
陽葵「うん。何に使うの?」
野々香「烏は反射光や強い光が苦手なの。見つかりそうになったら反射光を当てれば時間稼ぎにはなるはずだよ。」
陽葵「そう言えば烏除けにDVDを使ってるの見たことある。」
野々香「見つからないことが前提だけどね。まずはまだ使えるか分からないけど屋敷近くに繋がる通路があるんだ。そこに行こう。」
陽葵「分かった。」
2人は静かに山へ入り、時間を掛けながら烏の監視を搔い潜るがもう少しというところで陽葵は1羽の烏と目が合ってしまいその烏は侵入者が来たことを知らせる声を上げる。
陽葵「ごめん。咄嗟に動けなかった。」
野々香「大丈夫。通路の入り口はこの先にあるからもう走って行こう。」
見つかってしまったので素早く移動し、目的の通路まで辿り着いた。
野々香「ここなら狭いから場所が分かっても中までは追って来れないよ。」
陽葵「待ち伏せとかされない?」
野々香「出口は隠れているから大丈夫、だと思う。とにかく行こ。」
陽葵「分かった。」
野々香「ここを通れば屋敷の近くまで出るはずだから。あと少しだよ。」
陽葵「うん。」
陽葵は慣れない山道を歩いて疲れてきていたが気合を入れ直す。
通路は狭く、陽葵は野々香の後をついて手を地面に付けながら歩いて行くと出口が見えた。
ここまで読んでいただいてありがとうございます。




