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過去編5/5

この物語には自己解釈やオリジナル設定が含まれています。

オリジナルの妖怪が登場することもあります。

素人がただ思い付きで書いている物語なので最後まで温かい目で読んでいただければと思います。

()()はすでに斎守(さいもり)家の屋敷に忍び込んでいた。

黒根(くろね)妖ノ郷(あやかしのさと)に投げ入れたのは()()に変化した8号だったのだ。

屋敷に妖力を吸い取る結界が張ってあるのは本当だったので()()は8号に町の様子を探らせながら何かあれば感覚を共有できるようにしていたのだ。

黒根(くろね)()()自身が妖ノ郷(あやかしのさと)の入口を開けているのをみて()()本人でないことは察していた。

()()は屋敷の奥にある部屋を見つける。

覗いてみると中には複数の木が結界の中に閉じ込められていてどれも元気が無く、枯れかけている。

人の気配は無かったので入ってみるとどれも木霊(こだま)だということがわかる。

力が吸い取られ、人の姿を保てなくなっている。

その部屋を出てもうしばらく探索していると8号が黒根(くろね)に会って柚子(ゆず)が攫われた事を話していることを念話で知る。

きっと柚子(ゆず)とそれを追って来た黒根(くろね)もここに並べるつもりなんだろう。

6号の能力で()()は自身の声を飛ばして8号がしゃべっているように偽装しながら黒根(くろね)に伝えたいことを伝え、8号に黒根(くろね)を無理にでも妖ノ郷(あやかしのさと)へ帰すように命令する。

()()「たしかこっちだったよな。」

()()木霊(こだま)の部屋の場所を確かめる。

あの部屋を木霊(こだま)柚子(ゆず)黒根(くろね)には見られたくない。

近くには来ているはずだからすぐにどこにいるのか探索すると縄で縛られた柚子(ゆず)を見つける。

思った通りあの部屋に向かっているようでこちらへと進んでいる。

柚子(ゆず)に付いているのは2人、片方は普通の人だがもう1人は術者のようであの部屋の結界や力を吸収している術をかけている奴だろう。

周りに人がいないことを確認して奇襲を仕掛ける。

まずは天井から術者の顔面に蹴りを入れて気絶させると、柚子(ゆず)の縄を持っている人の腹に回し蹴りを食らわせる。

()()「大丈夫?」

柚子(ゆず)()()!」

忍び込むのに大きな刀は邪魔だったので短刀を持って来ていた。

それを懐から出して柚子(ゆず)の縄を切って解放する。

柚子(ゆず)「ありがとう。」

()()「怪我とかない?」

柚子(ゆず)「大丈夫。だけどどうして()()がここにいるの?」

()()「それは後で、今は逃げるよ。」

柚子(ゆず)の手を掴んで引っ張るが柚子(ゆず)は動かない。

柚子(ゆず)「ごめん。ここに来てから何か力が入らなくて。」

()()「結界のせいか。」

()()柚子(ゆず)に背中を向けてしゃがむ。

()()「早く乗って、あまりここに長くいたら駄目だ。」

柚子(ゆず)「わかった。」

()()柚子(ゆず)を担いで外に出れる場所まで人目を避けて走る。

柚子(ゆず)()()、ここの建物の構造詳しくない?」

()()「あ、うん。たまたまだよ。」

さっきまで屋敷中探索してましたなんて言えるわけもなく曖昧な返事で言葉を濁す。

そんな時ピーッと笛の音が響く。

さっき気絶させた2人のどちらかが目を覚まして警戒用の笛を鳴らしたのだ。

音を聞いた人たちが慌ただしく動き出し、柚子(ゆず)が逃げたことと()()が忍び込んでいることがばれてしまった。

中には戦いなれた術者もいるので正面突破は難しい。

近くの部屋に隠れたが出れそうな窓は廊下を挟んですぐ近くなので人が通り過ぎた時に急いで走り抜ける。

窓を破って外に出るが下に足場は無くそのまま下に落ちていく。

だけど下は木々が生えていて結界も下まで続いていない。

柚子(ゆず)が木々を動かしてそれをクッションにして着地する。

そのまま山を走って降りると8号と合流する。

8号に柚子(ゆず)を託すと()()はまだすることがあるからと屋敷に戻って行った。

柚子(ゆず)は止めようとしたがそれを8号に止められて()()は行ってしまった。

柚子(ゆず)は8号に促されて8号達と一緒に妖ノ郷(あやかしのさと)に避難する。

()()は山を探索する人達の目を盗み、木霊(こだま)達が閉じ込められている部屋へと向かう。

大半の人が探索に行っているのか、屋敷の中は人が少なく最初より動きやすいのであっさりと木霊(こだま)の部屋へ行くことができた。

結界の解き方を探っていると1人の人間が入ってきたので陰に隠れて様子を見る。

それは赫妖(かくよう)()()に呪いをかけた女性だった。

女性「ねぇ、いるんでしょ?破魔凪(はまなぎ)さん。」

()()「わかっていたの?」

()()はばれているならと女性の前に出ていく。

女性「あんたがここを見た後何もせずに帰るわけないじゃん。」

()()「ならどうするの?人でも呼ぶ?」

女性「この結界を解きたいんでしょ?解いてあげようと思って。」

そう言って女性が結界に手を触れると結界がなくなり中の木霊(こだま)は枯れて灰になる。

()()「な!」

女性「どう?あなたが望んだことだよ。」

()()「私は結界が解ける事だけを望んだんだ。」

女性「うん。この結界はこの中のものを無理矢理生かしているんだ。だから解いたらこうなよ。」

そう言って2つ目の結界も解くと中の木霊(こだま)は同じく枯れてしまう。

()()「やめろ!」

女性「やめる?それも良いよ。この結界の中なら生きられるんだから。だけどとっても苦しいんだよ。ほら聞いてよ。」

耳を澄ますと木霊(こだま)の声が聞こえてくる。

「苦しい。」「出して。」「痛い。」

()()「こんなことしてもお前に呪いがかかるだけだぞ。」

女性「知ってるよ。だけど私の名前は斎守(さいもり) 玲香(れいか)。現当主の孫よ。」

()()「だから?」

玲香(れいか)斎守(さいもり)家は結界に守られてるの。結界を破られても代わりに呪いを受けてくれる人もいる。無敵なの。」

()()「それでも報いは受けるぞ!」

玲香(れいか)「そうね。今おじいちゃんは病気で寝てるの。だから人魚の呪いがほしい。」

斎守(さいもり)家は()()よりも先に人魚の不老不死が呪いだということを知っていた。

玲香(れいか)「人魚自体が手に入れば良かったんだけど偽物ばかりで嫌になっていた所に坊主が人魚に肉を食べた不死身の人間がいるなんて言うからうれしくなっちゃった。」

()()「呪いを移した人はどうなる?」

玲香(れいか)「普通の人間に戻るんじゃない?何?気になる?」

()()「ここにいる木霊(こだま)達を解放しろ。そしたらこの呪いくれてやる。」

玲香(れいか)「ここの木霊(こだま)全部灰になるよ?」

()()「苦しむよりましだろ。」

玲香(れいか)「まあ、私はどっちでもいいけど、おじいちゃんに怒られるかもね。」

()()「なんでこんなに木霊(こだま)を集めたんだ?」

玲香(れいか)「なんか、はじき返した呪いがこの山の木を枯らして見栄えが悪いから、その生命力をこいつらで補っているとか言っていたけどまあ、関係ないよね。」

()()「見栄え?そんなことのために。」

玲香(れいか)「怒った?もう、短気だな。」

そんなことを言いながら全ての木霊(こだま)の結界を解くと全部灰になってしまった。

玲香(れいか)「これでいいでしょ?ほら次はあなたが約束守ってよ。」

()()「わかっている。」

()()玲香(れいか)に連れられて屋敷の上の方に移動する。

階段を上ると大きな部屋に布団が敷いてあって誰かが寝ている。

玲香(れいか)「おじいちゃん。人魚の呪い見つけたよ。」

玲香(れいか)におじいちゃんと呼ばれる男性が弱々しく何かを話すと玲香(れいか)が立ち上がる。

玲香(れいか)「ほら、横に来て。早速移すよ。」

()()「...。」

()()が布団の横に座ると玲香(れいか)は何かを唱え、しばらく続けた後に静かになった。

玲香(れいか)「おじいちゃんどう?」

玲香(れいか)が布団をのぞき込むと老人は何かに怯えながら苦しんでいる。

玲香(れいか)「どういうこと?破魔凪(はまなぎ)、あんたが何かしたの?」

()()「私はただ呪いを渡しただけだ。お前らが苦しめた木霊(こだま)の呪いを。」

玲香(れいか)「だましたの?」

()()「人魚の呪いをあげるなんて一言も言っていない。了承したのはそちらだ。」

玲香(れいか)「それでもあんな呪いを受けてあんな平然とした顔できるはずない。」

玲香(れいか)()()の手元を見てみると封呪符(ふうじゅふ)を握りしめていた。

大きな叫び声が聞こえると灰が布団の周りを回り始める。

呪いが別の呪いを呼んで大きくなっているんだろう。

結界も変わり身もほとんど効かず、元凶である斎守(さいもり)家当主に襲い掛かる。

周りも巻き込んで大きくなる呪いの渦はもう誰も手を出せない。

()()は逃げるが玲香(れいか)は離れようとしない。

異常に気付いた人達が集まりこの光景を見て当主を助けようとするものと逃げるものに分かれる。

だが助けようとして呪いの渦に触れた人は例外なく骨になって朽ちていく。

それを見た人は全員逃げようとするがついに屋敷の結界が壊れて阻むものがなくなった呪いが呪いの渦に合流し、いきなり巨大化する。

その為逃げる間もなく屋敷全体を巻き込むほど大きくなった呪いに()()ものまれてしまった。

呪いの中で犠牲になった木霊(こだま)達の声が聞こえる。

木霊(こだま)1「ありがとう。自由にしてくれて。」

木霊(こだま)2「ありがとう。恨みを晴らさせてくれて。」

()()「だけど、助けられなかった。ごめんね。」

木霊(こだま)3「君のせいではない。」

木霊(こだま)4「あなたは悪くない。」

木霊(こだま)5「だけどこのままじゃあなたも呪いになっちゃう。」

木霊(こだま)6「なら助けよう。」

木霊(こだま)全員「そうしよう。」

()()の意識はそこで途絶えた。

目が覚めると木の根元に座っていた。

呪いの渦からはじかれ木にぶつかったのだろう、背中が痛い。

そして上の方を見ると大きな呪いの渦が回っている。

放っておけば他にも無差別に巻き込み被害が大きくなるだろう。

だけどここまで大きくなれば解呪することは不可能に近い。

被害を抑えるためには封印するしかないが呪いになった無実の妖怪達や雇われただけの人間達も一生苦しむことになるだろう。

しかも途中で封印が解けないように安全な場所に頑丈な依り代を使って封印する必要があるのだが、()()が周りを見渡しても使えそうなものは無い。

しばらくすると呪いは形を変えて人の姿になる、それは斎守(さいもり)玲香(れいか)の姿に酷似していた。

玲香(れいか)?「苦しい。痛い。憎い。憎い。憎い。」

元凶になった当主がいなくなり、行き場のなくなった恨みが元凶の血縁である玲香(れいか)に取り憑いて形を成したのだろう。

黒根(くろね)「おい、()()!よくもやってくれたな!」

黒根(くろね)柚子(ゆず)黒根(くろね)の縄を解いて()()の元に走ってくる。

()()「解けたのか。結構強めに霊力込めていたのに。」

黒根(くろね)「おかげで苦労したぞ。」

黒根(くろね)は竹筒を持ってきてくれていて()()に渡す。

柚子(ゆず)「それよりこれはどういうこと?」

柚子(ゆず)は跡形もなくなった屋敷の後に浮いている禍々しい玲香(れいか)の姿をした呪いを指さす。

()()「説明は後、柚子(ゆず)は危ないから下がってて。」

柚子(ゆず)「だけど()()。多分だけど私達木霊(こだま)に関係あるんじゃないの?」

()()「何でそう思うの?」

柚子(ゆず)「逃げた時、ここの木を動かしたじゃない。その時なんて言ったらいいんだろう、何か馴染むっていうか、操りやすかったんだよね。」

()()「ここの木は、呪いで枯れるところを斎守(さいもり)家が木霊(こだま)達を使って生かしていたんだ。」

黒根(くろね)柚子(ゆず)を攫った理由もそのためか?」

()()「そして柚子(ゆず)を追ってきた黒丸(くろまる)も使うつもりだったと思うよ。」

黒根(くろね)「それで痕跡が多かったのか。」

()()「気付いてなかったのか。」

黒根(くろね)柚子(ゆず)を追うことで頭がいっぱいで。」

そんなことを話していると玲香(れいか)の姿をした呪いに存在を気付かれ、黒い鞭のようなものが襲ってくる。

()()はそれを結界で防ぐがそれに触れた植物は枯れていく。

()()「あいつ、生命力を吸ってくる。絶対触るなよ。」

黒根(くろね)「それならどうやって攻撃すればいい?」

()()「攻撃は効かないから封印するしかない。時間を稼いでくれないか?」

黒根(くろね)「俺はそっちには詳しくない。全てお前に任せるが無理はするなよ。」

()()黒丸(くろまる)もあいつには近づくなよ。」

黒根(くろね)「できるかな。」

そう言って黒根(くろね)は黒い木の根を呪いに向かって突き刺そうとするが避けられる。

黒根(くろね)「甘いな。」

黒根(くろね)は避けられた木の根をそのまま呪いに巻き付けるが、黒根(くろね)の妖力で強化されているとはいえ触れたところから木の根は枯れていった。

時間を稼げと言われているのでこれで終わらせまいと黒根(くろね)は新たな木の根を操りもう一度攻撃するがそれはいきなり方向を変えて黒根(くろね)に突き刺さる。

呪いは中にいる木霊(こだま)の能力が使えたのだ。

()()黒丸(くろまる)!」

黒根(くろね)の腹部には大きめの穴が開いて動かない。

黒根(くろね)の元に柚子(ゆず)が駆けつけている。

そこへ呪いはまたあの黒い鞭で攻撃をしようとしている。

()()は急いで結界符を持たせた9号を出してその鞭を弾く。

()()も駆けつけようとするが柚子(ゆず)に止められる。

柚子(ゆず)「私達木霊(こだま)は根っこが無事なら大丈夫。()()はそっちに集中して!」

()()「わかった。」

柚子(ゆず)黒根(くろね)を担いで妖ノ郷(あやかしのさと)に避難する。

()()は最後の準備をする。

自身の屋敷のある空間に繋がる穴を開けてそこに管狐(くだぎつね)の竹筒を入れる。

すでに屋敷にいた大百足(おおむかで)が心配そうに()()を見ているが()()は笑って穴を閉じる。

これで準備は完了したため、()()は呪いの前まで移動し、呪いに触れる。

()()の体は触れたところから朽ちて灰のようになっていく。

柚子(ゆず)()()!?何しているの!」

避難中の柚子(ゆず)が気になって振り返ると()()の体は半分くらい灰となっていた。

()()「ごめん柚子(ゆず)。だけどこれしか方法が見つからなかった。」

柚子(ゆず)「無茶はしないって言ったじゃない!」

()()「大丈夫私は不死だよ。また会おう。」

()()はにっこり笑ってすべてが灰になると下に置いてあった壺に入り、その直後に仕掛けていた爆炎符(ばくえんふ)が爆発し、がけを崩してその壺を埋めてしまった。

()()は自身の体を依り代にして安全な地中に封印したのだ。

柚子(ゆず)黒根(くろね)妖ノ郷(あやかしのさと)に連れて帰ると土の上に寝かせる。

すると木の姿になるが怪我が大きかったのか切り株の姿だった。

その切り株で泣く柚子(ゆず)にノラとシロが近づいて何も言わず寄り添う。

しばらくすると気が付いたのか切り株がしゃべりだした。

黒根(くろね)柚子(ゆず)。泣いているのか?」

柚子(ゆず)「気が付いた?良かった。」

黒根(くろね)「あの後どうなったんだ?封印は上手くいったのか?」

柚子(ゆず)「封印は順調に終わった。あっさりだった。」

黒根(くろね)「なら何で泣いているんだ?、、()()は?」

その言葉に柚子(ゆず)の目に涙があふれていく。

柚子(ゆず)()()が、自分で呪いの中に、、」

黒根(くろね)「あの裏切り者。約束破ったんだな。」

柚子(ゆず)「だけどまた会おうって。」

黒根(くろね)「それでも柚子(ゆず)を泣かせた。」

柚子(ゆず)「それはあなたも同じよ。」

黒根(くろね)「ごめん。」

ここまで傷ついてしまった木霊(こだま)が元に戻る事は難しい。

黒根(くろね)はもう人型を取ることはできないだろう。

柚子(ゆず)「ねえ、黒根(くろね)。」

黒根(くろね)「何だ?」

柚子(ゆず)「私ここを、妖ノ郷(あやかしのさと)を発展させようと思うの。」

黒根(くろね)「そうか。」

柚子(ゆず)「そして()()が戻って来た時、驚かせよう。」

黒根(くろね)「それは良いな。あいつの驚く顔が早く見たいよ。」

長い時間が流れて妖ノ郷(あやかしのさと)は発展し、新しい妖怪達も増えて様々な建物も立ち並ぶようになった。

だがそんな時にノラの寿命がきてしまった。

その後を追うようにシロも逝ってしまい昔からの親友は減っていく。

不幸は続くもので、人間界で大きな戦争が始まると爆弾がいくつかの妖ノ郷(あやかしのさと)の出入り口に落ちて空間が不安定になってしまう。

名無しが妖ノ郷(あやかしのさと)の一部となって安定させるが、足りない力を補った柚子(ゆず)は体調を崩してしまう。

安全な出入口以外を閉じて数を少なくしてからは同じことが起きることは無かった。

柚子(ゆず)は自分の死期を悟り黒根(くろね)の切り株の所へ行って一つの種を渡す。

黒根(くろね)は精神を本体から離すと半透明の小さな人型の姿になって柚子(ゆず)に寄り添う。

黒根(くろね)「おい柚子(ゆず)これは何の冗談だ?」

柚子(ゆず)「あなたもわかっているでしょ?」

黒根(くろね)()()との約束はどうした?」

柚子(ゆず)「この種は私の分身よ。あなたの力も宿っている。」

黒根(くろね)「わかっているがそう言うことじゃないだろ?」

柚子(ゆず)「ごめんなさい。そう()()に伝えてね。」

黒根(くろね)「俺を1人にするのか?」

柚子(ゆず)「1人ではないでしょ。あなたにはこの種がある。それにきっと()()は戻って来る。」

黒根(くろね)「だが、、」

柚子(ゆず)「そしてこの種をまかせられるのはあなたしかいない。」

黒根(くろね)「こいつの事は俺が育てる。だけど母親がいないのは、、」

柚子(ゆず)「私もあなたも育った時は1人だった。植物は1人で育つものよ。父親がいるだけでもこの子は幸せだわ。」

黒根(くろね)「そうだったな。」

柚子(ゆず)「結構、人間に染まっていたのね。あなたも、私も。」

黒根(くろね)「そうだな。」

柚子(ゆず)「最後に()()とも別れ、言いたかったな。」

黒根(くろね)「あの寝坊助いつ起きるんだろうな。」

柚子(ゆず)「後、お願いね。」

黒根(くろね)「、、ああ。」

そんな会話をしながら柚子(ゆず)はいつの間にか消えていた。

黒根(くろね)は種を自分の本体の横に植えて成長を見守ることにする。

樹霧之介(きりのすけ)と名付けられた種は成長し、人型を取れるようになると黒根(くろね)の目を盗み度々人間界に遊びに行き、そこで困っている妖怪を助けたりしているといつの間にか仲間が増えていった。

そこで人間界での妖怪のトラブルを聞かされたことにより感化され、妖怪や人間の手助けをするようになる。

一方()()は自身に呪いを封印する時、正直死ぬつもりだった。

人魚の呪いがこの呪いに上書きされる可能性があったからだ。

だが最後に柚子(ゆず)の声を聞いて戻りたいと思った。

そして人魚の呪いは強く、効果は弱まっているが回復はする。

()()柚子(ゆず)との約束を守るためにも解呪を進めて少しずつ呪いを弱めて復活できるようにしていた。

何もなくただ時間が過ぎるのを待つだけじゃない、待ってくれているもの達がいる。

だがそんな希望は目が覚めると不安に変わった。

土から這い出ると辺りは見たことも無い景色が広がっていた。

長い時間が流れた事は一目瞭然だった。

枯れていた木々は青々と復活していて木製の建物は知らない形の建物に変わっている。

夜でも明るく、見たことの無い乗り物が走っている。

慌てて屋敷に通じる空間を開けるとそこはあまり変わっていなかった。

式神達は()()がいない間休眠していて()()が帰って来たと同時に眠りから覚めたのだ。

小さかった12号が成長していて飛びつく威力が増していたのが最初に気づいた変化だった。

次に気付いたのは式神の声が聞こえないことだ。

式神の強さは霊力の多さと関係してくる。

今は霊力の大半を呪いを抑え込む事に使っている為使える霊力が少ない。

幸いにも式神達の能力は使えたが、お(ふだ)の効果は薄く、長い刀は霊力が足りず全体を覆っての強化ができない。

身体強化はある程度できるが全盛期ほどではない。

しかも、まだ呪いは残っているのでその解呪に霊力を使わないといけないうえに怪我の回復速度も落ちている。

情報が欲しいが見たところ地形が変わっていたので妖ノ郷(あやかしのさと)の出入り口の場所もわからない。

色々と考えることはあるがまずは何も着てなかったので着替えをして、もう一度式神達に耳を傾けるがやっぱりキュイキュイ鳴いているようにしか聞こえない。

何かわかればと外に出て歩くが見たことの無い物ばかりで混乱する。

いないのか、自身の探知能力が低下しているせいなのか、妖怪の気配も感じないし、管狐(くだぎつね)が見える人もいないようだ。

人々は見たことのない恰好をしていて陰陽師姿の()()を物珍しそうに見ている。

あてもなく歩いていると一つの建物が目に入る。

中では同じような年齢の人たちが勉強をしている。

寺子屋ならこの時代の情報もわかるだろう。

入学する方法を探して書類を偽造し、浜名瀬(はまなせ)志乃(しの)と名乗り春に入学できた。

入学後、最初に図書室を訪れて気になる本を見つける。

それは翠嶺町(すいれいちょう)に伝わる伝説がいくつか書かれた本で、その一つに悪い領主に騙された町の人達を身を挺して守った英雄の話が書かれていた。

そしてなぜか最後に英雄は不死身でいつか復活すると書かれていた。

それ以外にも内容は色々と脚色されていたが、あの後のことがわかるかもと借りて読んでみることにする。

ここまで読んでいただいてありがとうございます。

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