20 工房長2人
「さて…ここで一つ、重要な問題がある…」
スティーブは言った。
「資金…ですな?」
じいが言った。
そう。研究開発にカメラ量産の材料費、この工房の購入費も、じいが工面してくれたが、ちゃんとスティーブが出さなければならない。そして何より、工員たちの、生活費…
「…それを解決する手段は………やっぱり、『あれ』しか無いよなぁ………」
途端にスティーブのエルフ耳が垂れ下がった。
「うーん…でも…なぁ…」
スティーブには何か案がある様だが、乗り気では無い様だ。
「坊ちゃま…次善の策は無いとお考え下さい。」
じいが苦言を申し立てる。
「あーもう!分かったよ!!」
※ ※ ※
『ライトニング・カンパニー』結成から半月後、『パイライト・カンパニー』社長室…
「お前…『勘当』という言葉の意味が分からんのか…!?」
三度、ここを訪れた勘当息子に、無表情でフィリップは言い放った。
泣いて出て行ったと思ったら、怒って帰って来て…今日は…まぁ、これまでよりマシな顔をしている…
「フィリップ工房長…本日は商談に伺いました。」
精悍な表情となったスティーブ。
「私がこの間言った問題点は解決したのか…!?」
問うフィリップに、
「画像の鮮明さを最優先しました。」
スティーブが取り出したスクリーンショットは、言った通り前回のものより鮮明だった。
「色や、感光時間は、棚上げしてます。まぁ、感光時間は強烈な光を当てれば短縮出来ますが…」
「話にならんな。人間が耐えられるとは思えん。それに…」
フィリップは言った。
「…私は車屋だぞ。こんな絵を描く技術なぞに用は…」
「その代わり、SSを拡大する、引き延ばし器を開発しました。
このカメラで、御社のツァウベラウトのSSを撮り、それを御社の広告に使用して頂きたいんです。
我が『ライトニング・カンパニー』に、業としてそれを行わせて頂きたい。」
手っ取り早く資金を手に入れる方法、それは大口の顧客を作る事。
こうなったら、勘当された親ですら利用してやる!
「ほう…」
フィリップの口許が少し上がった。
「被写体が機械なら、『動くな』と言われなくても、いつまでもじっとしていられますし、強烈な光も眩しがりません。色も、後で塗れば…」
父さんはSSの現在の問題点を正しく指摘した。この人とならやりやすい。
「いや…色はいい。白黒のままで、『生き絵』の不思議さを全面に出そう。
そうだ。いっそ、新型車は白と黒を先行販売しよう。
生き絵の広告ポスターそのままのツァウベラウトが街を走れば、強烈な印象を与えられるぞ!!」
フィリップの口から、次々とアイディアが出て来た。やっぱり父さんはすごい…
「それでは…撮影技師と、顔合わせをしていただけますか…!?」
そう言ってスティーブは、廊下に待たせていた人物に、入って来る様に促す。
「失礼します…」
そう言って入って来たのは、オーバーオールに大きなカバンを抱えた…
「ハロルド…!!」
フィリップは声をあげた。
「候補者達で選考会を行いましたが…彼が一番優秀でした。」
「よろすく、おねげぇします…」
撮影技師となったハロルドは一礼する。
「う…うむ…」
※ ※ ※
こうして、『ライトニング・カンパニー』は始業した。
工房の一番狭い部屋を、工房長の執務室とし、デスクと、応接用のテーブルと長椅子を置いた。
デスクの上には、工員に急造させた、小型の額縁、『スタンド』。SSを入れて、デスクの上に飾るための物だ。
これからは、『カメラ』やSSに関する小物も、作って売って行ければいいと思っている。
スティーブはポケットに入ったままになっていた、ライオスとエミリーと3人で撮ったSSを取り出し、しばし見つめ、考えた末に…
右側1/3、ライオスが映っている部分を後ろに折り曲げ、エミリーと、その左隣のスティーブの2人だけにして、小型額縁に入れた。
※ ※ ※
1か月後…
街の至る所に、パイライト・カンパニーの新車の広告が貼られた。
そこには実物そのままの、新車の『絵』が描かれており、街の人々を驚嘆させた。
その絵が英雄の息子が太古の技術を復元させた、『カメラ』で撮影された『スクリーンショット』と呼ばれる物である事も、すぐ噂が広まった。
※ ※ ※
冒険者ギルド…
掲示板に貼られた新型ツァウベラウトのSSと、『カメラ』の広告を、エミリーは寂しげな瞳で見つめていた。
「スティーブ……どうして………!?」
その隣に立っていたライオスが言う。
「だから言っただろう………あいつと俺達とでは、住んでる世界が違うんだって…」
それから彼は、彼女の頭を抱き寄せ、
「これからは2人で狩りをしよう。それでもお母様を養生所の費用は稼げる。
心配無い。俺は、いつまでも、お前の側にいるから………」
※ ※ ※
某所…
「くそ…っ!!」
壁に貼られていたそのポスターの1枚をビリっ!と乱暴に破いて、悪態をつく者たちがいた。
スカーの元パーティーメンバーだった4人である。
「何がツァウベラウトだ、何がカメラだ…あの非国民、売国奴どもが…」
周囲の通行人たちから見られ、ヒソヒソ何か悪し様に言われたのをギロリと一瞥して追い返したが、気は晴れなかった。
再度、悪態をつき、衛視にでも見られない内にと、路地裏へと逃げ去った。
「よぉ!」
そこに待ち伏せしていたかの様に、一人の男が立っていて、片手を上げて気軽に挨拶をした。
髪を耳が隠れるまで長く伸ばしたその男、確か名前は…
「ライオス………っ!!」
男たちの表情が怒気をはらんだ。
「あの半エルフのお仲間が、何の様だ………っ!!」
「『ライトニング』は解散したんだ。」
ライオスは事も無げに言った。
「あいつの工房の名前になってるのが、何よりの証拠さ。俺が間違ってたんだ。あんな奴を仲間にしたなんて…」
「…で!?」
今更そんな話、信じられるか、とでも言いたげに、男たちの視線は懐疑的だった。
「君たちに良い話があるんだ。聞いてくれないかな…!?」




