19 スクリーンショット
翌日…
街外れのとある古びた建物に、スティーブ達はいた。
大部屋が何室かある、手頃な広さの建物。
「私にお任せ下さい。」
そう言ったじいが、どこからか探して来た。
「ここの購入資金の事は、心配要りません。」
との事だった。何をしたのか分からないが、今は、その厚意に甘えよう。
今日から、ここが、スティーブ達の工房となる。
※ ※ ※
集められたのは、『パイライト・カンパニー』をクビになった35人。
大半がドワーフや、ハーフエルフだった。
「まず…君たちには、こういう物を量産してもらいたい。」
15人くらいのグループに、自分が試作した『カメラ』を見せる。
「ほう…これは…」「生きてる様な絵を描く道具か…」「今まで作ってたのとは違うが…」「…わしら、こういうのを作る方が性に会っとるかの…」
「そして、君たちには…」
次に、10人くらいのグループに呼びかける。
「僕と一緒に、太古の書物を読み解いて、『カメラ』の改良を行ってもらう。」
『絵』に色を着け、感光時間を短縮させる。
それに合わせて、『カメラ』本体も都度改良を行う。
「半月後を目処に、一旦試作品を仕上げて欲しい。
開発班による改良案は、その都度製品に反映させる。
仕様は頻繁に変わるが、生産班は耐えて欲しい。」
「坊ちゃま…いえ、工房長…」
じいを始めとする5人は、経営、経理等の担当だ。
「…老骨に鞭打って、奉公させていただきます…」
じいは深々と頭を下げる。
「こちらこそよろしく頼むぞ、じい…いや、常務…」
スティーブはじいの両手を握った。
「早速ですが工房長…『カメラ』で撮った絵を、何と呼びましょう…!?
『絵』では、普通の絵と区別がつきません。」
じいの進言どおり、商品の差別化は大事だ。
「それなんだけど…太古の書物でも、『絵』としか呼ばれてないんだよね…」
と言いつつ、
「…でも本の最後の方で、良さそうな呼び名があったんだ。」
と、そこにあった紙に書いてみせる。
「ほう…」
じいは目を細めた。
”スクリーンショット”…それが、『カメラ』で撮った『絵』の呼び名となった。
「あのー…それで…俺ら達は何をすれば…」
ハロルドを始めとする、どこにも配属されなかった5人が不安そうに言う。
「君たちは工房の外で仕事をしてもらう。ただその前に…一つ試験を受けてもらう。」
※ ※ ※
すまんが早速出かけて来る…そう言い残してスティーブが訪れたのは、ジャンク屋…
「ごめんください…」
スティーブがその店内に入ると、
「ヒョッ、ヒョッ、ヒョッ…いらっしゃ…い…」
出迎えた老店主が、最後は言い淀んだ。
「こないだの『カメラ』、もっと状態の良いのを売って下さい………あるんですよね!?」
スティーブは真っ直ぐ老店主を見つめた。
「………」
老店主はしばし黙り込んだ後、ゴソゴソ…と、あちこちを探り、
「…はいこれ…奇跡的にブラックボックスが残ってる奴だよ。」
「いくらですか!?」
案の定、ツァウベラウトの新車が何台買えるのか分からない高値を吹っ掛けられた。
幸い、分割払いを受け入れてくれたその上…
「これと…これと…これも着けるよ。」
老店主は、恐らくこの店にある、全ての同種の遺物を着けてくれた。
「…いいんですか…!?」
さすがにスティーブも動揺したが、
「………どうせそれは、じきに売れなくなる。そうだろう…!?」
と、皺の中の目でスティーブを睨み返す。
老店主も、スティーブの変化に気づいたらしい。
「あ…ありがとうございます。」
手付金を支払い、一礼してジャンク屋を去って行くスティーブ。
「………しっかりおやりよ…」
わざわざ店先まで見送った老店主が、小さく呟いた。
※ ※ ※
工房を始めてから3日後…
あれから冒険者ギルドへは顔を出しておらず、ライオスからも何の接触も無かった。
が、『ある問題』を解決するため、そろそろギルドへ顔を出さなければならなくなった、その日…
ギルドへ出かけようかとしているその時、じいが呼び止めた。
「工房長…お客様です。」
「やあ、久しぶり。」
そう言って現れたのは、4人の冒険者。
中央にいるのはウッディ、そしてメイヨーと、アネゴ。
王国で世話になっていた者たちだ。
「ニェット教官からの伝言があるんだ。」
そう言ってウッディが差し出した手紙、内容は非常にシンプルな物だった。
『お前が面白い事を始めた様だから、こいつらを送ってやる。こき使ってやって構わん。
追伸 今度いつこっちに来る?』
「ニェット教官…」
スティーブは彼女の心配りに感謝した。
そしてウッディ達と一緒に現れた最後の1人は…
「よ…よお…久しぶり…」
バツの悪そうな顔のスカーフェースだった。
「スカー…!?」
「…お前らと入れ違いに、当時の仲間たちと、王国へ行ったんだけど…色々あってあいつらとはすぐに別れたんだ。あいつらはすぐに帰ったみたいだけど…」
スティーブ達が王国から帰った後、あのパーティーでスカーがいなかったのは、そのためか…
「俺だけソロで王国で活動を続けてて、ヤバかった所を、こいつらに助けられて…以後、一緒に行動してたんだ…」
と、メイヨーとアネゴを指さす。
「向こう行って1年になるから、そろそろ帰ろうかと思ってた所に、女教官に呼び止められて…」
スカーの雰囲気は、粗暴な所は変わらないが、以前よりもやや柔らかくなった様な気がした。
「…お前ぇを悪く言って済まなかった!!」
と、深々と頭を下げる。
「王国で色々あって、手前ぇの了見の甘さに気づかされたんだ!!」
「あぁ…それ分かるよ…私だって昔は、エルフが一番高貴だと思ってたからね…」
ウッディが言った。
「エルフだのヒューマンだのに何の意味も無いと気づくのに、20年かかったよ…」
「実はこの傷も、『迷ひ家の村』の村長夫人に、無理やり治されたんだ…」
そう言ってスカーは、自分の頬を撫でた。言われてみれば、二つ名になってた傷が無い。雰囲気が違って見えたのも、そのせいか…
それにしても、イナおばさんは【リカバリー】(欠損部位回復)が使えるのか…冒険者としてはともかく、ヒーラーとしては相当優秀なんだな…
「『あなたがそれをいつまでも引きずってるせいで、きっと傷ついてる人がいる』って…図星だったよ…すっげぇ女性だよな…」
そのまま頬を掻くスカー。
「その…そっちも、色々あったみたいだけど…」
と、隣りに2人がいないスティーブを見つめた。
「…君たち5人に依頼したい事がある…」
そう、スティーブは切り出した。
※ ※ ※
「専属契約…!?」
ウッディはスティーブから出た依頼を反芻した。
「そう。君たちは、この…えーっと、『ライトニング・カンパニー』と、専属契約を結んでもらいたい。」
「…そう言えば、工房名を決めていませんでしたな…」
じいが横から口を挟んだ。
「『カメラ』の開発には、まだまだ遺跡を探索する必要があると思うんだ。
だから、君たちには、僕をリーダーとするパーティーに入ってもらいたい。」
王国で一緒にやって来たウッディ達なら、今のスカーなら、信じられる。
「まぁ…生活が保障されるなら…」
「報酬を代償に危険を冒すのに依存は無ぇ…」
「みんな…よろしく頼む…。」
スティーブは4人それぞれの手を握った。
戦力も、手に入った。




