6−14
綺麗になった状態で、にこり、と笑う。立って、全身の鏡で見つめる。すごく、花嫁です。シンプルなドレスもシンプルだからこそ、化粧と髪型が際立つ。
「教会では誓えません。周りにも祝福されません。それでも、俺はあなたと共に」
「うん」
「雪白様は、いいのですか?」
「正式な婚姻は、ヴィクトールとクレイ様が最初になると思う。それまで、認められないけれど、それでいい?」
「はい。構いません、あなたと居られるのであれば」
なんだか男女が逆転した会話なような気もするが、私がハーレムの主であるから、それは仕方ないのだろうとは思う。思うけれどなんとなく解せない。いや、なんていうか獣人、もしくはグラジリオスがすごく尽くすタイプだからそう見えるだけだよね、私の偏見と固定観念がなせる技であって、決して事実ではないはずだ。
女だから尽くす、なんていうのは時代錯誤な考え方だ、今の時代、主夫だっているべきだし…と思ったが、ここは地球ではないし、地球の認識を持ち出した私が悪かった。それに、もともと魔族の女性は大切にされるものだ。もちろんそれは魔族の中で、という但し書きがつくけれど。この場合グラジリオスは魔族に混じった獣人な訳だから、大雑把なくくりは魔族換算でいいだろう。
真摯に私を見つめているその顔に苦笑した。きっと私が何をいってもどう伝えても、彼の意志は変わることはないし、変えることはできないものなのだろう。それほどまでに、どうしてか私に入れ込んでいる。ありがたいことでもあるけれど、同時に、そんな価値はないのだと、無意味に拒否したくなる。ただの自分の自信のなさを認めて褒めて欲しくなる。承認欲求の塊か、と自分を嘲っても、本質として残っているそれは、グラジリオスと同じで変わることはない。聞いても不安、聞かなくても不安、面倒極まりないな、と自分のことながら辟易する。
「グラジリオス、」
「はい」
「私はとても面倒臭いよ。きっと、期待は何度だって裏切るし、たくさん、たくさん傷つけることになる」
「…はい」
「守られることばかりで、利点としてはただ、ステータスがプラスになるだけだけど、」
まっすぐな視線を受け止めながら、深呼吸をする。瞳の信頼も、甘さも、何も変わらない。どろり、と少しだけ怖い色を交えながら。何も口にしないグラジリオスはただ私を伺う。
その顔に覚悟を決める。ああでもない、こうでもないと言い訳を続けているけれど、私は、グラジリオスを手放すことなどできない。たとえこの場で彼が、なら失礼します、といったって、それは受け入れられないのだ。行かないで、と素直に言えるかといえば、わからないけれど。だからこそ。
「それでも、私は、グラジリオスを手放せない。だから、ずっと、一緒にいてください」
グラジリオスのことを好きなのだろうか。恋愛の経験なんてほとんどないからわからない。けれど、グラジリオスが他の女の人に手を出していたらどうか、と考えれば、それは嫌だ。聖女と言われた女に対しては、別に何も思うことがないから、過去の人には嫉妬せずに済んでいるのだろうか。それとも、恋愛とは違う感覚なのだろうか。大好きなお兄さんが取られてしまうような感覚なのかもしれない。
私からグラジリオスへの感情は、放っておいていい。私は彼を必要としているし、彼は私とともにいたい。それでいいじゃないか。
「雪白様」
すっと近寄ってきた彼を素直に見上げる。微笑んでいるその姿に少しだけホッとしながら、顎を持ち上げられるまま上向きになる。ゆっくり近づく顔に緊張しながらも目を伏せた。ふわり、と擽るようにグラジリオスの毛が私の顔を擽る。擽ったさに笑わないように少しだけ堪えた。
「俺の剣も、心も、ただ姫様のためだけに」
そういえば、彼の姫様呼びと名前呼びには何か意味があるのだろうか。そんなことを思ったのは一瞬で、もう一度触れたグラジリオスに少しだけ驚く。ざらり、とやわらなか部分が舐められて、舌はネコ科の特徴を持っているらしいことを把握した。少しだけ痛い。
すぐに離れた彼は私を抱き上げて、そのままベッドへと腰掛けた。え?と首をかしげるが、何もしませんから、という言葉とともに抱きしめられた。膝の上に乗せられるのはやはり当然の体勢だと考えておいたほうがいいようだ。
「二人だけでも、これほど心が満たされるとは思いもしませんでした」
獣人は家族を大切にする。だからこそ、婚姻には家族の祝福はある意味当然のことなのだ。むしろ、家と家の繋がりを、家族の繋がりを表すために壮大な結婚式を執り行うらしい。曰く貴族の結婚式は3日〜10日かかるとか。尋常じゃないな、と思うのだけれど、別にその間に何か特別なことをしているわけではなく…いや、ある意味特別なことなのかも知れないが、領地の境目を時間をかけて廻るのだそうだ。大抵の獣人の貴族は領地から出られないデメリットを称号関係で持っているからこそ、近くの領主や貴族に顔合わせするために必要になるとか。
そんな盛大な結婚式を普通だと思っているであろうグラジリオスが、小さな部屋で誰にも祝われず、たった二人だけで誓うには、どれくらいの葛藤があったのだろうか。もしかしたら、すでに貴族の称号が過去のものになった時から考えていたのだろうか。いや、まさか敵である魔族と婚姻するなんて、考えもつかなかったに違いない。
人間とドワーフ、獣人とエルフの組合せは比較的多いらしいけれど、魔族と…というのは圧倒的に少ない。人間とドワーフは共に街での生活が多いから、火を使い、金属を加工するのも比較的その2種族が多い。獣人とエルフは自然と共存しようという意志の強いタイプだからこそ、生活様式が似通っているらしい。
グラジリオスが戯れに話してくれただけだから、詳細はよくわからないのだけれど。そういうものなのか、と認識している。
満足そうな顔をしている旦那様へ視線を向けてから、ふ、と笑う。
「これから、もっと幸せになれるようにするから」
夜期の空気に当てられたのだとそう思うけれど、この時ばかりは本気でそう言っていた。
二人だけの結婚式




