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5章-2.追放(2) 2021.11.18

 ユミは丁寧にナイフとフォークを使ってパンケーキを1口サイズに切ると、フルーツと生クリームをその上にのせて口に運ぶ。

 

 美味しく出来ているといいのだが……。

 

 ユミは出来を確認しながら、モグモグと咀嚼する。

 

 ふわふわの生地の触感は非常に良い。控え目な甘みも好みだ。

 そして、フルーツの酸味と甘い生クリームのコラボレーション……。

 これは間違いなく美味ッ!!


「んーーー! おいしー!!! あまーーい! 最高!」


 アヤメは満面の笑みで喜び声を上げている。

 この様子を見ると、作ってよかったなと。また作ってあげたいなと思ってしまう。

 出来はかなり良いのではないだろうか。ふわふわに出来ている。甘さもちょうどいい。


「ユミさん。とても美味しいです。ありがとうございます」

「いえ、むしろ、キッチンを使うために呼び出してちゃったので……。こちらこそ、ありがとうございます」

「普段、ずっとこもって研究ばかりなので、たまにはこうした息抜きはいいなと思いました。美味しいおやつも頂けて、とても感謝しております」


 フクジュにも喜んでもらえたみたいで良かったなと思う。


「フクジュ。ユミちゃんの解毒、ありがとね。ちゃんとお礼言わなきゃって思ってたんだ。私の大事な人を助けてくれて本当に感謝してる。フクジュの事情は全部シュンレイに聞いたから知ってる。今後は専属プレイヤー扱いになるんだってね。改めてよろしくね」


 アヤメはフクジュに笑顔を向けて言った。


「あ。私がシュンレイに無理矢理問い詰めたの。だから、シュンレイの口が軽いとかそういうんじゃないからね。そこは誤解しないで!」

「はい。存じております。こちらこそ、よろしくお願い致します」


 シュンレイの口を無理矢理割らせるアヤメは流石だなと思う。そんな事ができるのはこの世にアヤメだけなのだろうなとも思う。


「よし! 追加のパンケーキだ! フクジュも食べるよね?」

「頂いていいのであれば。是非頂きたいですね」


 アヤメとフクジュの皿は既に空っぽになっていた。ペロリと食べてしまったようである。


「よーし! ユミちゃんはまだ食べてるから、私が焼く!」


 アヤメはやる気満々だ。生地が入ったボウルを持ち、真剣な表情で生地をプレートに乗せていく。


「うわっ。変な形になっちゃった……。ユミちゃんどうしよう……」

「大丈夫です。まだ挽回出来ます!」


 ユミは食べるのを中断し、急ぎヘラを受け取り形を整える。大きさに少し差が出てしまっているが、手作りならではと思えば楽しめる。

 その様子を見てフクジュも笑っている。アヤメがいると、いつも賑やかでみんな笑顔になる。本当に太陽みたいな人だなと思う。


 それから焼いては食べてを繰り返し、お腹がいっぱいになるまでパンケーキを3人で食べた。総カロリーを考えると恐ろしい。トッピングもバニラアイスやチョコレートなどなんでもありの甘さ増し増しのコンボだった。しばらく糖分は必要ないかもしれない。

 フクジュはどうやらかなりの甘党という事が今回発覚した。淡々と生クリームやアイスを盛り付けて食べていく様は意外だった。今度スイーツでも作って差し入れしてもいいかもしれないなと思う。


 そして現在。全員満腹で喋るどころでは無い。コーヒーをゆっくり飲み、お腹を休めている。糖で満たされ幸せに満ちている。アヤメは終始へにゃっと笑っている。幸せそうで何よりだ。

 もう少しお腹が落ち着いたら、片付けをしようと思う。ただ、まだもう少しだけこの余韻に浸りたい。


 と、そんな事を考えていた時だった。

 barの扉の外にひとつの気配を感じた。誰か来る。階段を降りてゆっくりとbarへ向かっているようだ。お客だろうか。


 ふとアヤメに目をやると、俯きながら立ち上がっていた。一体どうしたのだろうか。


「アヤメさん……?」

「……」


 声を掛けるもアヤメは何も答えない。俯いているため顔が見えず、何を考えているのかも分からない。何か嫌な予感がする。

 アヤメはスっと歩き出し、barの扉の方向を向き、ユミを背中に隠すように立った。その直後、ガチャりと音がしてbarの扉が開く。


「やぁやぁこんにちは。気配があったからやっていると思ったんだが……、番長は不在かな……?」


 そう言いながら1人の女性が入ってきた。とても小柄な女性だ。身長はアヤメよりも小さい。肩幅も狭く顔も小さい。150センチメートルもないのでは無いだろうか。

 緩くウェーブがかかった黒髪で、肩下程度までの長さがある。毛先の一部に赤色のメッシュが入っていた。襟元に控えめな刺繍が入った可愛らしい白のブラウスに、サイドにスリットが入った黒のロングのタイトスカート、そして、赤いカーディガンを着ていた。足元は黒のスニーカーを履いており、カジュアルさもありつつ少し大人っぽいコーディネートだった。

 顔がよく見えないため年齢は分からないが、雰囲気からアヤメよりは年上だろうなと思う。


「野良解放日じゃなくてすまないが、番長に話があってね……」


 女性は徐々にこちらに近づいてくる。そして、近くまで来るとようやく顔が見えた。一重の瞼に赤い瞳。左目の下に泣きぼくろがある。ネイルは彩度の高い赤色で、綺麗に整えられていた。


「店主は不在だよ。何の用? こんな所に来ていい人じゃないでしょ?」


 アヤメは冷たい声でそう言う。すると女性は困ったような顔をする。


「そうだぁね。君たちにとって、あたしはまさに招かれざる客って奴だ。君は狂操家(キョウソウケ)のアヤメ君かな? 今最もSS+ランクに近いプレイヤーって言われている舞姫……」


 女性は笑顔で話す。友好的な雰囲気を醸し出しているが、アヤメは全く警戒を解かない。


「君は凄いね。本能的に勝てないことくらい分かっているだろうに……。その子を守るため? 前に出るんだから。あたしとの間に入るなんてかっこいいね。誰にでもできることじゃぁない。強くて真っ直ぐな魂だ」


 この女性はアヤメより強いというのだろうか。ユミにはその差は分からない。どちらもユミでは測れないほど強い。


「大丈夫。危害を加えるつもりは無い。本当に話をしに来ただけだぁよ。店主が戻るまでここで待たせて貰えないか?」

「確認する」


 アヤメはスマートフォンを取り出し電話をかける。その間もアヤメは、ユミと女性の間に立ち警戒した状態のままだ。


「シュンレイ。今いい? barにシュンレイに話があるって人が来てる。うん。六色家ロクシキケ柘榴ザクロ……。うん。分かった」


 アヤメは通話を切り、ふぅと息を吐いた。


「あと15分くらいで店主は来るから、待っていて大丈夫」

「分かった。ありがとう」


 女性は静かに椅子を引いて、近くのテーブル席に座った。

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